1話 旅に出ます
「ラナ、起きてください。 ラナ」
一人の女性が、エプロン姿でベッドに埋もれている女性を揺すって起こしている。
「んん……、おねぇちゃん、まだそとくらいじゃん……」
ベッドから顔だけを出して窓の方を見る。 朝なら朝日がカーテンの隙間から光が差し込むはずなのに、差し込むどころかフクロウの鳴き声まで聞こえてきそうなほど外は真っ暗だった。
「何を言っているのですか? 昨日、別の町に行くと言ったではないですか。 人の話を聞か
ないからそうなるのです」
腕を組みプンスカ怒っている姉を尻目に、ラナはベッドに顔を引っ込めた。
「だからって、はやすぎるよぉ。 こんなくらいなかをあるいてると、ころんじゃうよぉ」
ラナの寝ぼけた声と姉を舐め腐った態度に苛立ちを覚えた彼女は、ベッドに両手を突っ込みラナの頭を掴むと引っこ抜いた。
「頭が引っこ抜けるかと思った……」
頭と首ががつながってることを何度も確認しているラナに、ベーコンを乗せたトーストと温かいミルクの朝食を差し出した。
「すぐ起きないラナが悪いです」
姉はまだ少し怒ってるようで、ふんっと鼻を鳴らしながら目玉焼きの乗ったトーストをかじった。
「それは悪かったって、何度も謝ったじゃん……」
しゅんとしたラナもトーストを齧る。
「それで今度はどこ行くの?」
「ふぉんふぁいは、ふぉふぉへぇす」
トーストを咥えながら地図を広げると、赤いペンで丸印されている町を指差した。
「お姉ちゃん、咥えながらしゃべると何言ってるか分かんないよ」
「そうですか? ラナにだけには伝わると思っていたのですが……。 私たち姉妹の心がつながっていると思っていたのは、私だけだったのですね……」
両手で顔を覆い、泣き出す姉にラナはため息をついた。
「お姉ちゃん、嘘泣きはいいから」
「……少しぐらいは付き合ってもいいではないですか」
「わたしは変な起こされ方されて、機嫌悪いの!」
「それはラナが悪い」
変な起こし方をした姉に軽く説教しようと思ったのに、一蹴されてしまった。