表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

幼馴染が忘れないこと

作者: 東井なつき

「お願い、四千円貸して」

 幼馴染の璃々が、手を合わせてお願いしてくる。


「……また?」

 それは俺にとって当然の反応だった。


「先月貸した二千円も戻ってきていないけど、忘れてないよな?」

「も、もちろんだよ」


 嘘つけ。三千円だよ。

 ……ったく、相変わらず、忘れん坊なんだから。


「……はい、じゃあこれ」

 いつものことなので、俺は溜息を吐きつつも、すぐにお金を貸してあげる。


「え、これ、五千円だよ?」

「千円が四枚なかったから、五千円貸しとくよ」

「あ、ありがとう。大好き」


「……っ!」

 脈絡なく言うなよな。ビックリするだろうが、ったく。

 ……まあ、可愛い女の子にそう言われて、悪い気はしないけど。


「じゃあ、バイト代入ったら、絶対返すから。ホント、ありがとう」

 璃々はお礼を言うなり、どこかに走って行ってしまう。

 相変わらず、せわしない子だ。


 と、ポケットのケータイが震えた。

「もしもし。いつも璃々がお世話になってます」

 電話の相手は、璃々のバイト先の店長だ。


『……いやいや、お世話なんてとんでもない。――とても世話しきれてないよ』

 店長はどこかお疲れのようだ。

『じゃあ、僕も仕事があるから手短に言うね。今月のマイナスは、12800円だよ』


 おっ、先週よりはマシだな。

 まあ、それでも何枚皿割ってることやら。


『今月の本来の給料からそれを引いて、手取りは29200円になると思うよ』

「そうですか。いつもありがとうございます」

『いや、君の苦労に比べたら。きっと楽な方だよ。じゃあ――』

 店長は電話を切る。


 29200円か。

 母親の給料と合わせると――

 今月の家賃、食費、光熱費を全部合わせると――

 ……ちょい、きつそうだな。あいつ。


 


 一週間後。

「バイト代、入ったよー」

 璃々は嬉しそうに言ってくる。


「そっか。じゃあ、先月分も合わせて、六千円返して」

「うん……って、六千円だっけ?」

「ああ、そうだが……テストでいつも赤点ギリギリの璃々さんは、学年三位の成績を誇る俺の記憶力が間違っていると?」

「う、ううん。きっと私が間違えてるんだね」


 相変わらず、璃々は俺の言うことを疑わない。

「璃々。昔から言ってるけど、忘れっぽいところ、どうにか直した方がいいぞ」

「うん、私もそう思うよ」


 そして璃々は俺に六千円を渡してくる。

「いつも、ありがとう」

「別にいいさ。幼馴染だろ」

「じゃあ、幼馴染クイズです。忘れっぽい私でも絶対に忘れない大切なこと、な~んだ?」


 突然の質問。

「ご飯の時間?」

「……もう、私そんなに食い意地張ってる?」

「冗談だ」


 あれ? 分からない。

 璃々のことなら、何でも知ってると思ってたのに。


「えっと……寝ること?」

「それ、当たり前だよ」 

 ですよねー。


「じゃあ……学校までの道順?」

「た、たまにしか忘れないから」


 いや、それ忘れんな!

 

「違うよ。そういう感じのじゃなくて、もっと大事なこと。……もしかして、分からない?」

「そ、そんなわけあるか」


 くそっ、なんだ?

 さっきの璃々の反応からして、おやつの時間とかそういう系ではないだろうし。

 くー、スリーサイズまで知ってるのに。なんだ、一体?


「じゃあ、答えです」

「あ、ちょ、待って……」


 チュッ。


「え……?」

 頬に柔らかい感触。


「思いやり、だよ」

「……」

 放心状態の俺に、璃々はこう続ける。

「正直、金額は本当に忘れちゃったけど、君がいつも私を助けてくれていることは、全部覚えてるよ」


 璃々はニッコリと笑った。


 結局、俺が璃々の幼馴染であるように、璃々も俺の幼馴染だったということだろう。

 俺のことは、何でもお見通しか。

 ということは、金額を誤魔化して、母子家庭である璃々の家を少しでも助けようとしていたのはバレてる?


「うん、いつかきっと返すから」

 まるで俺の心を読んだかのように、璃々は言ってくる。


 こっそり、好きな女の子助けてるぞ、俺。

 ……と思ってた、俺、恥ずかしー。

 

主人公の「俺」は、璃々の母親とも仲が良く、璃々の家の事情にかなり詳しいです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ