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英雄カメラマンのホロサイト

幕間:届かない。

作者: 霜月美由梨

ご無沙汰しております。

明日から、とりあえず4章定期更新を開始したいと思います。5章に関しては未定ORZ

静かな病室に、落ち着いた寝息が聞こえる。

「……」

 白いベッドの上に眠るのは部下。真っ白い顔をして死んだように眠っている。よく鍛えられた腕につながれた点滴には、大方、栄養剤と血圧でもあげるような薬が混ぜられた生理食塩水が入ってるだろう。薬は緩やかな効果らしく、ここに運び込まれて三時間。ずっと眠りっぱなしだった。

「う……?」

 かすれた呻きと共に彼の瞼が開いた。ようやくか、と顔をのぞき込むと寝ぼけた顔で私を見つめてきた。思いのほか、幼い、子供の顔だった。

「徳永君?」

 呼びかけると、ようやく目が覚めたようで、はっと目を見開いて体を起こそうとして顔をゆがめた。

「無理をするな。寝ていろ」

「大佐……」

 連日の激務に体が耐え切れなくなったらしい。狙撃の後、貧血で倒れたと前もって報告を受けた。貧血ではなく、過労による血圧低下に体が耐え切れなくなった結果らしいが。

「気分はどうだ?」

「ここは?」

「病院だ。倒れたんだよ。君は」

 その言葉に、彼はなにがあったかを思い出したらしい。

 はっと起き上がって片手で顔を覆った。隙間からのぞける顔はこわばっている。

「どうした?」

「すいません……。ご迷惑をおかけしました。狙撃任務に関してですが、完了しました」

「そうか」

 私が命じたのは狙撃。クロートーが攻めてくるのはわかっていた。だから、彼の隊にあたりの警らと狙撃を命じていたのだ。

「それにより、戦犯……」

「ん?」

 そこで切られた言葉に私は首を傾げた。唇をかみしめてうつむく彼に、いつもの快活な彼はどこに行ったのだろうかと、言葉を待つ。

「それにより、戦犯、ナガサワユウスケ、の右胸に着弾したのを見届けました。生死は不明です」

 低く抑えられた声に、はっと目を見開く。彼はうつむく。

「……そうか」

 しばらくして、出てきたのはいつも通りの平坦な声。三十年近く続いた習慣はいつになっても抜けないらしい。

「よくやった」

 いつものように言うと、彼は目を見開いた。一切の私情を持ち込むことは許されないのだ。

「……はい」

 彼にそれを強いるにはまだ、浅い。苦し気にゆがんだ顔がそれをよく表している。

「報告はそれだけか?」

「……はい」

 うなずいたのを見て、立ち上がる。彼は唇をかみしめてうつむいた。顔にも行動にも表れている彼に、私はただ、小さく笑って、彼の頭に手をぽん、と置いて軽く撫でてやって部屋を出た。

「……」

 ぱたんと扉が閉じる。

 近くの壁に背中を預けて目を閉じる。

「あぁ……」

 ため息交じりに漏れたのは、自分でも珍しいと思うほどの胡乱気な声。壁に背を預けたままずるずるとしゃがみこんでうつむいた。ここはあまり人が通らないのだ。

「……」

 これで、もう、遠い所にいってしまった。

 汚れたつま先を見ながら、歯を食いしばる。胸を焼く感情はどうしようもない。

「……っぅ」

 私はこの国の大佐。私情を挟むことは許されない。

 それでも――。

「すまない……」

 呟いて、強く、目をつぶる。ギリと歯を鳴らし、こぶしを強く握る。

 今は誰も来ない、だれもみていない。

「……すまない」

 誰にも届かなくなってしまった声は自分しか、聞いてなかった。

これ上げるの忘れてたORZ

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