四話
私塾終わりの二人はだらだらと駄弁りながら雑貨屋を目指していた。私塾を出てはじめのうちはまだふざけている余裕もあったが、すぐにそんな元気はなくなってきた。
「・・・暑い。」
「・・・夏だからね。」
何しろ暑い。そろそろ暑さも和らいでくる季節なのだが相変わらず、どころか暑さが増してくるような気がする。蝉のうるさい鳴声をBGMに朱座と汪理は畦道を歩いていた。
上を見上げると雲ひとつない青空。かんかん日照りの太陽が妙に癇に障る。もはやだらだらと流れ落ちる汗を拭う気力もなく、会話も途切れ途切れに。
「もう少しで雑貨屋だ。」
「・・・近いけど遠いな。」
「・・・なんか詩人だな、お前」
「どうでもいいよ・・・。」
「そうだな・・・。」
「生き返る。」
「ああ、本当に。」
ようやく雑貨屋にたどり着いた二人は水井戸でよく冷えた炭酸水を飲みながら爺臭く唸りそう言う。
雑貨屋の裏には小川が流れ、木陰も多いため夏の間は涼を取るためのスポットとして人気だ。
「クーラーとか超欲しい・・・。」
「贅沢品だね。ラクシェイラスじゃ里長のところか、一部の上流階級の奴しかもってないだろうね。保冷庫ぐらいならまあ、そこそこいるだろうけど。」
「迎蘭層首都の廉霞じゃ結構普及していると聞くんだが。」
「そりゃ電力が普及してるからそうだろうけど。」
「まあそうか・・・店長ー、店内にクーラーはつけないの?」
入口付近の木陰に置かれた長椅子にだらんと足を伸ばし団扇でパタパタと扇ぐ髪を結った初老の女性に声をかける。雑貨屋「アオギ」店主の是リ(ぜり)である。コップの麦茶を口に含みながら朱座の問いかけにかったるそうに返答する。
「そんな余裕はないさ。・・・第一つけるんだったら先ずはアタシの家につけるね。」
「・・・まあ、そうか。設置にも維持費にもそれなりの額が必要になるしね。」
「どうやって電力供給するかも考えないといけないし。」
「・・・本当、アタシだって欲しいけどねえ。こんな殺人的な暑さは老体にゃ堪えるよ。・・・一雨来ないかねえ。・・・来ないね確実に。雲一つありゃしない。神居乃塔もはっきり見えるよ・・・。」
「あー本当だ。」
視線の先には神居乃塔と呼ばれる謎の建築物。真っ直ぐ一直線に伸びるビル状の建物だ。雲一つないはずの青空、それを突き破るかのように聳え立つソレの天辺は澄んだ青空にも関わらずまったく見えない。
熱の影響だろうか。ゆらゆらと揺れるように映るその姿はまるで陽炎のようで、本当にそこにあるのか定かではない。
神の建築物と呼ばれる謎の建物。用途も建築技法もいつ建てられたのかも一切不明の神居乃塔を見る。荘厳ともいえるその姿を見るとなぜか自分という存在がどこまでも希薄になるようで恐ろしくなった。




