表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

夜空の檻

作者: ムニプニ

ちょっと挑戦的な構成。読みにくいかもしれません。さらに、意味がよくわからないかもしれません……


そんな感じですが、よろしくお願いします。

 冬の夜空は少し遠い。

 冷たく澄んだ空気は星を鮮明に輝かせる。輝き鮮明であればあるほど、その途方もない光年がありありと見せつけられるのだ。

 深呼吸をすると、夜気がほんの少しの痛みを伴って肺を満たしていく。そういえば窓が割れていたのだった。ちらりと目だけそちらを見やれば、砕けたガラスと鉄パイプが転がっている。彼がやったものだ。

 普段は穏和な彼が、窓を破るなんて少し意外だ。彼にもそんな乱暴なところがあるなんて、思ってもみなかった。それともそれくらい切迫していたのだろうか。自殺しようとしている人間がいたからといって、そこまでするだろうか。窓を割るにしてももう少し小さく割ればいいものを。尤も、自殺しようとしたのは私なので文句は言えないのだけれども。文句を言う意味ももはやないのだけれど。

 冷淡な月明かりに照らされた私は赤く染まっている。お気に入りだった白いワンピースを濡らす、血。私の血ではない。足下で崩れている亡骸は私じゃない。もともとそのつもりだったのに、最後まで余計なことをしてくれた。死んでしまったのは彼だった。

 なんとも因果なものだ。私は彼がきっかけで自殺しようとしたのに、彼が私のせいで死んでしまった。責任でもとったつもりだろうか。やめてほしい。私の自殺は彼がきっかけではあるけれど、原因は私にあるのだ。

 私は恋が叶ったから、死のうと思った。人生の大半を捧げた恋だった。片思いで十分、そんな恋だった。私が幸せになる必要などない。ただ彼が幸せであればそれで良かった。良かったというのに、あろうことか彼は私に告白してきた。彼が誰かを好きになるとは、予想もしなかったからだ。しかもよりによって私を。

 それは耐え難い衝撃であった。

 私は空に触れてしまった。空に手が届いてしまったのだ。

 空は私には重すぎる。だから、終わりにしようと思った。

 逃げたかったのか、生きていたくなかったのか、それとも死にたかったのか。今となってはもう思い出せない。

 ただ、死のうと思った。

 ひょっとしたら彼は最初から告白すれば、私が自殺することを、気づいていたのだろう。彼は誰よりも自分のこと知らないくせに、本人よりも他人を理解できたのかもしれない。だからこそ、あえて私に告白したのだろうか。

 今となっては考える意味もない。

 チャイムの音を私は無視した。包丁を首筋にあて、彼が去るのを待った。確認するまでもない、私を訪ねるのは彼くらいなものだ。そして、チャイムが鳴り止んで、十分な時間を置いて、包丁で押し込もうとした。そうすると、彼が窓を割って乱入してきたのだ。

 彼が私の腕から包丁を奪い取ろうとして、もみ合いになる。押し退けるように、腕を振り払った。

 腕が弧を描く。力など入れるまでもない。当たる、と思ったときにはもう遅い。

 刃がゆっくりと彼の肌に吸い込まれる。思いの外、抵抗はなかった。切るというよりは、引きちぎるという感覚。だけど、紙を断つよりもたやすく肉は断たれる。止まらなかった。

 彼は目を見開き、しまった、というような顔をした。視線が私の目を貫き、頭蓋をかき回される錯覚。直後、首から吹き出したのは熱い血。月光を反射してきらめきながら降り注ぐそれは、まるで星空が落下してくるようで、思考が音を立てて押しつぶされる。

 私は目から体を焦がされた。関節が焼き付いて動いてくれない。手から包丁が滑り落ちて、高い音をたてた。

 私を見つめる目は既に生気などなく、視線すら薄れ始めていた。呆気なく、彼は終わっていた。私を燃やした鮮血は、黒く酸化し熱を失っている。月だけは相変わらず遠かった。

 これから私はどうすればいいのだろう。既に警察は呼んだ。扉の鍵は開けておいた。特に何かを考えた覚えはない。まるで体が独りでにやってくれたようだ。事実そうなのかもしれない。頭は動いていない。

 なぜだか悲しくはなかった。辛くもなかった。苦しくも虚しくもない。なにも感じないのだ。絶望すら、狂うことすら許されないかのように。この心は透明な沈黙で満たされていた。

 血溜まりに沈む彼の隣に横たわる。かつて愛した人の骸は冷たい。その一部だったはずの血は熱をもっているというのに、冷たい。その冷たさを実感しても、私の胸は静謐を保っている。

 感情は涸れていた。私はきっと既に生きてなどいない。ただ、死に損なってしまっただけなのだ。

 少しだけ眠ってしまおう。

 次に目が覚めた時は、もう警察が着いていることだろう。

 だから、今だけは眠ろう。

ジャンルは恋愛でいいのかな?w


読了ありがとうございます。

誤字脱字報告、感想などございましたらよろしくお願いします

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 拝読しました。 淡々とした物語の進行が、無機質な虚無感を漂わせていました。 読んでいて、そんな彼女の心情が伝わってくるようなそんな作品でした。 執筆お疲れ様でした。
[一言] 悲しい恋愛のお話ですね。 ある意味この女性は倒錯した恋愛観の持ち主なんでしょうね。 残念ながらラストはシチュ違いだと思います。 「警察に捕まるまで」なので、待っている段階では捕まってはいませ…
2012/02/18 21:08 退会済み
管理
[一言] 拝読させていただきました。 主人公は何故、死にたいと考えてしまったのでしょうか。 彼女にとって恋が叶うということが、人生の終着点だったのかなと感じました。 その考えに至った経緯が知りたいで…
2012/02/18 11:13 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ