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作者: 桐生 拓人
掲載日:2007/03/20

 警告。お話の中にロリータさん出てきます。嫌いな人は読まないで下さい。

 最後辺りは些か表現が露骨です(グロいってことだよ)。ご注意を。








雨が降っている。










あの日と同じ雨。

















 貴女と出会ったのは季節が秋から冬に変る狭間の、丁度こんな空模様の日でした。

 あの時の僕はまだ高校生で、まだ将来について囚われない日々を送っていました。

 思えば、初めて会った時から貴女の気紛れな態度は変らず僕を初め周りの人々を振回してきました。

 荷物は持って貰うのが当たり前。「出掛けましょう」と言われたが最期。いつの間にやらあれもこれもと両手一杯の荷物。

 貴女は身軽にもInnocent World のローズブーケのトートバックを片手にお店を巡るのです。

 事あるごとに自伝を語り、どれ程自分が病弱であるかを誇らしげに語りましたよね。

 貴女は疾患を患いながらもそれを心では楽しく思っていたのかもしれません。



「私はお金の使い方が綺麗だから直ぐに無くなってしまうのよ」




 そう言って人からお金を巻上げる癖も、僕に奢らせる業も、日常会話が厭味の応酬なのも貴女の個性でした。

 しかし、そんな理不尽な貴女が何時しか僕の安らぎの場となっていたのです。不思議ですよね。初めは自分でもマゾヒストではないかと疑いました。









 だって貴女のせいでこんなにも僕は苦しんでいるのに。











 度重なる肉体労働も睡眠不足も疲労も、貴女の為ならば苦になりません。

 それもきっと貴女に母性を感じたからなのかも知れません。見えずとも言わずとも貴女は愛情を注いでくれた。例えそれが偽りだとしても。










 僕のかあさまは僕が生まれた時からかあさまでは在りませんでした。

 僕の事を名前で呼びません。目を合わせません。僕に触れません。

 それでも僕はかあさまが大好きでした。愛していました。今も同じように愛しています。

 かあさまは他の兄弟達と同じように僕を愛していると言いました。

しかし僕はそれが嘘なのを知っていました。

 兄弟達を抱締めても僕には決して触れない。笑いかけてもらえない。


 エスカレートしていく暴言にも堪えました。私の子じゃないと言われても血の繋りが在る事を僕は知っていましたし、何よりもそうした行動の後には必ずかあさまは正気に戻るのです。






  ごめんね。








                ごめんね。









わたし

 


  おまえを







  愛せない。





 かあさまがそう繰り返す度に思いました。

 そう。これはきっとかあさまの本音。僕はかあさまの狂気の原因。

 僕が痣を作る度、血を流す度、悲鳴を上げる度、精神から来る肺炎を患い入院する度にかあさまのぼろぼろな心は抉られていたのでしょう。





 しばらくしてかあさまは大きな市営病院に入られました。父様は兄弟を引き取り、僕はかあさまの妹にあたる一家、親戚の家に預けられました。かあさまの妹である叔母の娘。つまり僕と貴女は従兄弟関係にありました。当時僕が十六歳であるのに対し、貴女は其れより五つ上の二十一歳でした。



 かあさまの容態が良くなるにつれ、叔母達は父様に僕を迎えにくるよう進めました。

 しかし父様が僕を迎えに来る事はないでしょう。

 可愛そうな叔母達は、厄介な子を独り押し付けられた。

 つまり僕は棄てられたのです。

 そう悟った時、不思議と哀しくはありませんでした。むしろ、もうこれ以上かあさまを苦しめる事はないのだと安心しました。







 貴女との生活は今までの僕という細胞を脱皮し脱捨て新しい成虫になるまでの過程のはずでした。独りでも生きて逝ける大人に成るのです。人肌を求めてはいけません。愛情を求めてはいけません。だって所詮人はもともと独りですもの。成熟した人間になれば皆自立してゆく。誰かに愛を詠われる度、僕はその愛に不信感を覚えずにはいられません。今はいい。今は愛してくれている。けれど、明日は?半年後も一年後も三十年後も変わらず君は愛してくれるでしょうか。僕は怖いのです。人の愛が。昨日まで優しくしてくれていた人が、突然今日になって憎しみを抱いた。死んでしまった。別れを告げてきた。

 だから、僕は突然に備えるのです。いつ憎まれても死なれても別れを告げられてもいいように。








 しかし、貴女は僕の総てを変えてしまった。

 

 



 



 貴女は沢山持つ服の中でも特にInnocent Worldというメゾンのお洋服をこよなく愛しました。一目ぼれをしたお洋服があれば即チェックをし、購入します。少々お金が足り無ければ、普段は見られない程誠実にお洋服の為に職務をこなします。

 Innocent Worldの上品な、令嬢風の方針を理解してくれない人もいます。仕方ないでしょう。一般的にロリータといわれる部類のお洋服ですから。道を行くだけで奇怪な視線に晒され、後ろ指を指されることも少なくありません。

 貴女も例に漏れず行く場となく経験をしてきたでしょう。

 しかし貴女はどんなに中傷されようとも決してInnocent Worldのお洋服を脱ごうとはしませんでした。何故なら、お洋服を心から愛していたからです。

 何を云われようと変わることなく一途に愛し続ける貴女を僕は見てきました。

 そして、貴女に愛を教わりました。

 言葉を交し合わなくとも、告白をしなくとも僕らは恋人の関係にありました。Innocent Worldのお洋服と同じように僕を愛してくださる貴女を、いつしか僕も心から愛すようになりました。




 僕にとって貴方が総てだった。

 

                                                                                                                                                                                                                     




 だのに何故?



                                                                                      





 何故貴女は僕の前から姿を消してしまったのですか?

                                                                                            






 折角独りでも空を飛べるようになったのに、貴女によって羽根を毟り取られた僕はもう動けないのに。




                                                                                                                                                     





 嗚呼、空が酷く遠い。

                                                                                                                                                                                                                                       





 この広い空の下に貴女はいるのでしょうか?


                                                                             





 残酷な貴方は僕に総てを与え総てを奪った。









 そして追いかけて来ない様に僕の透明な羽を毟った。

                                                                             

                                                                                             





 何も知らずに小さい足で蟻の行列を踏み潰すように。




 ほら、きっとあともうすこしで百舌鳥がやって来て、僕の身体を食い散らかすでしょう。

                                                                             


 高く吊るされる僕の体。不ぞろいの足も宙ぶらりん。





 その時になって初めて僕らは自由になるのです。




                                                                                       

 こんにちはこんにちわ。


 さようなら人生!                                                                                                                                                

fin.

 

 果たしてこれは恋愛に分類してよかったのだろうか…(難

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