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密室

「死体が転がっている? このなかにですか?」

 咲に起こしてもらった会長と副会長がうなずく。

 ふたりとも腰や腕をおさえている。寝転がった体勢をもとにもどそうとした時にあちこちぶつけてしまっていたのだ。

「そんなことあるわけないじゃないですか」

 咲が呆れた顔をした。

「ここは学校ですよ? そんな推理小説みたいにいきなり死体が転がっていたら大事件です」

「でも、ほんとうにあったんだから!」

 会長が憤慨する。

「そうでなきゃ、あんなことになってないわよ」

「会長たちがイチャイチャしたかっただけじゃないんですか? 見てて暑苦しいくらいでしたし」

「んなわけないでしょ。どうして健輔とイチャイチャしなくちゃいけないのよ」

「それは、まあ」

 うんざりした表情の咲。

 探偵同好会と書かれたプレートのかかったノブに手をかけると、ひと息にドアを開けた。会長と副会長は目をつぶって部屋のなかを見ないようにする。

「――あれ、ですか」

 咲の声はいたって冷静だ。

 会長がそろりと目をおおっていた右手をどかせると、そこには血まみれになっていた死体が転がっていた。背中につき刺されたナイフ、床にこびりついた黒っぽい赤色の液体はさっき見たときと変っていない。

 部屋の中央、長テーブルのそばに横たわっている死体は、よく見ると女性のものだった。長い茶髪。まるでホラー映画に出てきそうだ。うつぶせに転がされた彼女の顔はうかがうことができないが、制服ではない服装は、学校の生徒でないことを物語っていた。

 それに、手袋、黒いストッキングと、肌の露出がまったくない。

「たしかにびっくりするかもしれませんね、初見だと」

 咲は臆する様子もなく死体に近づくと、その髪をつかんだ。副会長が小さく悲鳴をもらす。

 抵抗はなかった。

 咲が髪をにぎった手を引き上げると、そこには安っぽいかつらが浮かんでいた。手入れをしていない寝ぐせのように荒んだ髪質。すこし注意していれば、すぐに偽物と見破れる。

「――やられたわね」

 会長が唇をかみしめる。

「マネキンですね。服からなにまで、ぜんぶ安物です。誰がこんないたずらをしたのやら」

 死体ではないとわかると、安心した副会長がマネキンを抱え起こす。その体重は思ったよりも軽く、貧弱な副会長の腕力でもすぐに持ち上げられた。

 それから会長が死体に扮した人形を探って、次々に服を脱がしていく。それらをていねいに畳んでテーブルに並べると、一通りのファッションがそろった。どれも安価な量産品で、これといった特徴もない服だ。

 そのへんの量販店で買えば、高校生の小遣いよりも安い値段でそろえられるだろう。

「血のりも絵の具ですし」

 咲が顔をしかめて床にこびりついた液体をなでる。すでに固まりきってしまった赤い池は、すこしこすったくらいでは落ちそうになかった。雑巾でこそぎ取るしかないだろう。掃除が大変だ。

「ナイフは偽物のようです」そういってから、咲は柄だけのナイフを引き抜く。「接着剤で洋服に固定されていたみたいですね」

「ええい!」

 会長は乱暴な手つきで椅子をひくと、脚を壊しそうないきおいで座りこんだ。眉間に深いしわが寄っている。

「いい度胸じゃない、こんな大業な嫌がらせをしてくるなんて。うちらが探偵同好会だと知っての狼藉なら許すわけにはいかないわ。地球の裏側、北極南極、月でもどこまででも追いかけていって土下座させるまであきらめないわよ」

 その声はかすかにふるえている。

「くだらない、いたずらですよ。あまりカッカしないでください。あまり怒り過ぎると心筋梗塞で倒れちゃうかもしれませんよ」

「犯人を捕まえない方がストレスになるわよ! 誠くんと結衣ちゃんはとっくに帰っちゃったし、もしこれが全校に広まりでもしたら、もうお嫁にいけないわ」

「副会長に嫁入りすれば万事解決ですね」

「そういうことじゃないの!」

 会長が怒鳴り散らす。

 その横では副会長がしげしげとマネキンの死体を観察していた。ためしに片腕を持ち上げてみると、意外とスムーズに動く。これなら服を着せるのにはさほど苦労しないだろう。

「このマネキンはどこに置いておくべきだろうか。部室に放置しておくのもなんだか不気味だしな。夜中に動き出して勝手に立ち去りそうな気がする」

 そういってから副会長はなにかに気づいたようにポン、と手を打った。

「そうだ、きっとそうだ」

「なにがよ?」

「この学校ではひとりでにマネキンや保健室の骨格標本が動くにちがいない。そして幽霊やおばけ同士の抗争のすえに部室で殺されたんだ。霞ヶ丘高校にはなにかしらパワースポットのようなものがあるにちがいない、英国のストーンヘンジやマチュピチュみたいに」

 オカルト好きの副会長があつい口調で自論をかたった。

「んなわけないでしょ、馬鹿じゃないの?」

 冷たくつきはなす会長の視線は、刺すようにするどい。

「第一、こんな大きなマネキンが学校のどこに置かれていたっていうのよ。見たところ美術で使うような石膏でもないし、うちにはファッション部なんてものはないし、邪魔くさいマネキンが放置されている理由がないもの。いま部室にあるのだって目障りじゃない?」

「怒り半分、真実半分ってとこだな。たしかに、マネキンがどこから来たのか気にはなる。よもや冥界かもしれんな」

「閻魔様の使いですか。副会長を迎えにきたならいいんですけどね」

 咲が折りたたまれたマネキンの洋服をかさね、ほこりのつもった戸棚の上におく。はだかになったマネキンはギリシャ彫刻のように虚空をにらみつけている。ただ、その背中に赤い血色は見受けられない。どうやら絵の具は服だけに染みついているらしかった。

「水性絵の具みたいですね、血だまりをつくりやすいようにということでしょうか」

 と咲はつぶやいてから、

「まだ油性じゃなくてラッキーだったというべきでしょう。油性だったらこびりついて取りにくいところでした。不幸中の幸いですね」

 とすこしあわてたようにつけ加えた。

 床にはりついた血だまりをふき終わった雑巾のちぢれた毛のさきに、赤い染料がしみついている。咲は窓をあけると、しめった雑巾を風通しのよい場所に干した。

 11月のつめたい風が流れ込んで、会長の髪をわずかにゆらす。

「さむいわね」

「閉めましょうか?」

「いえ、臥薪嘗胆、この屈辱を忘れないためにも開け放しておいてちょうだい」

「そうですか。すぐ忘れた方がいいと思いますけどね」

「咲ちゃんは悔しくないの?」

 会長がなじるように尋ねた。咲は目を細めて、

「あたしはべつに腰を抜かしたりしてませんし、雑巾がけをするくらいしか不利益を受けていませんから犯人になんのうらみもありません」

「部活の長である部長がはずかしめを受けたんだから、探偵同好会全体の赤っ恥だとおもいなさい。咲ちゃんも例外じゃないんだからね」

「そうですか」

 咲がそっけなくこたえる。

 自分の身の丈よりもすこしばかり大きいマネキンのなめらかな肩を見上げ、それから会長のほうへ顔を向けた。

「ところで、これの処分はどうしましょうか。部室においておけるほどゆとりはないですよ」

「捨てちゃダメよ、重要な証拠品なんだから。ほんとうは絵の具や洋服もそのままにしておきたかったんだけど、こんど来たときに結衣ちゃんや誠くんが驚いたらいけないからと思って許可したのよ」

「うそつけ」

 と副会長が小さな声でつぶやく。今現在とてつもなく不機嫌な会長に聞かれたら噛みつかれるだけではすまないかもしれない。

「あのふたり、呼び戻さなくていいんですか?」

 咲がきく。

 会長はストラップのついた携帯電話をとりだすといくつかボタンを押し、耳にあてた。すこしの間のあと、顔をしかめて耳元から離す。

「誠くん、出もせずに切りやがったわ。こんどは電源を切ってることでしょうね。結衣ちゃんもきっといっしょにいるから、同じように応答しないと思うわ。いい度胸よね。明日までに絶対事件を解決してぎゃふんといわせてやるんだから」

「ぎゃふん、は死語ですよ会長」

「構いやしないわ、そんなこと。レトロなものにこそ価値があるのよ」

 乱暴な手つきで携帯電話をとじるとスカートのポケットにしまう。霞ヶ丘高校では携帯電話の所持は常識であり、先生に見つからなければいいという信念のもとあちこちで使われている。

 昼休みなどには堂々と教室のなかで携帯をいじる生徒も少なくないのだ。

「この洋服、絵の具で汚れてしまっていますし、あたしが家で洗って来ましょうか。先輩たちに押し付けるわけにもいきませんし。はやいうちに洗っておかないといくら水性とはいえ汚れが落ちにくくなってしまうかもしれませんから」

 咲が提案すると、会長は首を横にふった。

「だめよ、証拠品だっていったじゃない。現場の遺留品はそのままの状態で保存しなきゃ」

「科学捜査ができるわけでもないし、とっておいても不必要でしょう。へんに本格を気取らないでください」

「うるさいわね。探偵の基本よ、基本。証拠品を破棄するだなんていちばんやってはいけない展開だわ。それが犯人のトリックだったら別にしろ、現場を荒らすのは一般人って相場なのよ」

「『まーた貴様らは現場を荒らしおって』『大丈夫ですよ警部、ほらこの通り』とかいって手袋を見せるのが名探偵ってやつだな」

 会長の言葉を、副会長が受けついで広げた。

「ならいいですけど」

 きれいに折りたたんでまとめた洋服を戸棚からおろそうとしていた手をとめると咲は、自分の鞄から推理小説をとりだし、しおりのはさんであった場所から読みはじめた。

「咲ちゃんの鞄、いつもと違くない?」

 会長がたずねる。

 たしかに咲の鞄は大多数の生徒が使っている学生鞄ではなく、それより少し大きめのスポーツバッグである。咲がそれを使っている姿を目撃したことはほとんどない。

 少しだけ目線を落として咲は、

「ちょっと授業で使うものが多かったものですから。教科書とか、体操着とか、いろいろ持って来なければならないものが多かったんです。いつものだと小さすぎるので、それでスポーツバッグにしたんですよ」

「へえ、珍しいわね」

 と、自分で聞いておきながら会長はあまり興味がなさそうな様子だ。

 しきりに長テーブルの表面を爪でコツコツと叩いている。

 そして思いついたように立ち上がると、部室のすみにおかれているホワイトボードを引っぱり出してきてマジックペンのキャップを外した。

「なにを推理しようっていうんだ」

 副会長が抑揚のない声で問う。まだ腰が痛むのか、しきりにそのあたりをさすっている。

「なにも分からないけど、とりあえず書きだしていけばなにか閃くかもしれないわ。事件の記録を残しておくことにも使えるし、一石二鳥ってわけよ」

「事件といっても、洋服を着せられていたマネキンが赤い絵の具で彩られていたってだけのことだろう。記録をとるほどのことでもない」

「健輔、あんたってやつは」

 会長が黒マジックペンの先端を副会長の眼前につきつける。

「あんなシーンを結衣ちゃんたちに見られてしまったのはこの憎たらしいプラスチックの人形が原因なのよ。でも、人形に恨みを抱くわけにはいかないわ。ほんとうに悪なのは偽殺人現場をつくりだした犯人なんだから。それだから犯人を生きているのを悔やむほど痛めつけてやらないといけないわけ、わかる?」

「最後の部分以外は、納得した」

「結衣ちゃんたちも同罪ね。犯人と同じだけのバツを受けてもらうわ」

「それはやり過ぎだろう。とばっちりじゃないか」

「人の話を、こともあろうに部長の話を聞かないからいけないのよ。人数さえ足りていれば退部にしてやるところだわ」

 副会長はやれやれと肩をすくめる。が、まるでさまになっていない。

 会長はちょん、と副会長の額にペンを押しつけるとホワイトボートに部室の略図を書きはじめた。

 大慌てで絵の具をふいたばかりの雑巾でおでこをぬぐっている副会長は目にもとめず、ただ一言「水性よ」とコメントする。

 奥に細長い長方形の部室のなかに、次々と線がつけ加えられていく。ドア、窓の位置、マネキンの場所、それから雑然と置かれた家具の配置などが書きこまれた略図は、朝の電車のように混雑している。

「さて――」

 会長はペンをおくと、腰に手をあてた。

「重大な事実が発覚したわけなんだけど」

 返事はない。息の詰まるような押しつけ合いのすえに副会長がしぶしぶ口を開いた。

「なんだ重大な事実って」

「健輔、部室の鍵は持っているわよね」

「ああ、これだろ」

 ダッフルコートのポケットから教室番号の記されたプレートのついた鍵をとりだすと、テーブルに放る。

「それから窓も閉まっていたわよね」

「さっき児玉くんが開けるまでは閉まっていたな」

「そして部員以外の人間が部室の鍵を持ち出すことはできないとなれば、答えはひとつよ」

「つまり?」

「ずばり、密室ね」

 実に明るい笑顔で、会長は嬉々としてそう宣言した。

「前回、部活が行われたのはおととい。そのときには、当然血まみれのマネキンなんて置かれていなかったわ。うちが最後に鍵をしめたんだからそれは保証できるわよ。それからは探偵同好会の部室に立ち入ることはできない。掃除は自分たちでする決まりになっているから第三者が勝手に入りこむなんてことはないし、部員以外は部室の鍵を借りられない規則になってるから、健輔が鍵をあけるまで誰も部屋のなかには入れないはずなの。マネキンをのぞいては」

「まあ、そうだな」

 副会長はしっくりこないようで、鍵をまわして遊んでいる。

 ホワイトボードのまだ白い部分に大きく『密室!!』と書くと、その上から何重もの丸でかこむ。会長はグーにしたこぶしでボードを叩いた。

「これは不可能犯罪、密室トリックよ。部室に抜け穴でもあれば話は別だけど、残念ながらそんなものが存在しないのはうちがいちばんよく知っているわ」

 会長の鼻息は荒い。

「この探偵同好会の膝元で密室犯罪なんていう大それたことをして、これ以上にない挑発をかましてくれたのはいったいどこの誰なのかしら。怪盗同好会のやつらかもしれないわね、もしかすると。完膚無きにしてやったものだから、恨まれてるのかも」

 文化祭で取り行われた探偵同好会と怪盗同好会の因縁の対決は引き分けに終わったわけなのだが、会長の脳内ではどうやら都合のいいように変換がされているらしい。

 この話を聞いたらほんとうに怪盗同好会から挑戦状をたたきつけられてもおかしくないな、と副会長は内心思う。

「まあ、ジャンルが違うわね。密室を突破することさえあれ、こんな悪趣味ないたずらをしていくほどプライドが低いわけでもないだろうし」

「動機から推測するのは難しそうな気がするな。なんといっても突飛な事件だ。怪しそうな人物さえ浮かびあがってこない。そうなると密室の謎を解決するほかなさそうだ。こういう場合、トリックさえ暴ければ犯人が特定できるというのが常だからな」

 と、副会長。

「そうね。たしかに密室の謎を解き明かすほうが近道かもしれないわ」

「でも、密室がそう簡単に破れるとは思いませんよ」

 咲が文庫本から顔をあげていった。

「なにせ鉄壁の密室ですからね。どんな方法を使ったのやら想像もつきません。こっそり部室の鍵を盗み出したとかなら別ですけど、そうでなければマネキンを持ちこむだけの穴があるか、合鍵を持っているか――」

「合鍵の線はないわね」

 と会長。耳にかかった髪をなでつけ、副会長の向かい側の椅子へ腰を下ろす。これで長テーブルを囲むように三人の部員がそろうことになった。

「いくら学校の警備が甘いとはいえ一日でも鍵が紛失していれば日直の先生が気づくはずだもの。それに部室の鍵を持っていくときには専用の部員証と、名前を書かなくちゃいけないから、失くしてでもいないかぎり大丈夫よね」

「あ、そういえば」

 と咲が申し訳なさそうにうつむいた。

「どうしたの?」

「あたし、昨日ちょっとだけ部員証というか、それのはいった財布を落としてしまっていたんですよね。その日のうちに見つかりましたけど紛失している間に誰かに抜き取られて利用されている可能性もありますね。っていうか、たぶんそうです」

「そうなの?」会長は露骨に顔をしかめた。「それじゃ密室にならないじゃない。つまんないの」

「探偵の出る幕ではないな」

 空いた窓から吹きこむ冷たい風に、副会長はダッフルコートのえりに首をうずめる。それからホワイトボードの『密室!!』という文字を消し去った。

「これで事件は解決だ。盗人探しは探偵同好会の役割じゃない。どこかに警察同好会なんて便利なものはなかったっけかな」

「だめよ。たとえ密室でなかったにしろ、この忌々しいマネキンを運びこんだ罪を償ってもらわなくちゃ気が済まないわ。この片倉みなみをコケにした罪は重いんだから」

「無理ですよ、そんなの」

 咲がふたたび小説に視線を戻す。

「無理なんて言葉、名探偵には通用しないのよ咲ちゃん」

「誰かがいっていました。『道のまん中に人が倒れているという事件は、解決できない』って」

「だれがいったんだい、そんなこと」

 副会長が訊くと咲はそっけなく答えた。

「忘れました。けどそんな感じのニュアンスだったと思います。大事なのはシンプルな事件ほど探偵の出番は少ないってことです。摩訶不思議、複雑怪奇、魑魅魍魎な事件こそ推理小説にはふさわしい」

「だから一連のハプニングのことは記憶から抹消するんだ、みなみ」

「どうしてよ。健輔は悔しくないの」

「僕は一秒でも早くこの現状を忘却の彼方に追いやりたいんだ。トラウマになりそうだから」

 ろうとで覇気をこし取ったかのように元気のない副会長の声。

「事件が迷宮入りしたということで、マネキンや洋服はあたしが処分しておきますね」

「今日はずいぶんと気が利くじゃないか」

 副会長が驚いたようにいう。いつもは口を開けば皮肉か容赦のない毒舌がマシンガンのように撃ちだされているはずなのだが、いやに親切で、おとなしい。

「もしかして、病気かなにかなのかい?」

「あたしだって少しは先輩たちを気遣うくらいはできますから。とくに今日はお気の毒なことになっていたみたいですし、追い打ちをかけるほど鬼ではありません」

「そうか。ありがたいな」

「じゃあ、持って帰りますね。ちょうど鞄も大きいことですし」

 そういって咲は戸棚の上においた洋服をスポーツバッグに手ぎわよく詰めていく。会長の畳んだ洋服はすぐにバッグへとおさめられた。

 それから咲はマネキンを抱き上げてドアの横へと移動させた。

「ねえ咲ちゃん」

 その様子を頬づえをつきながらながめていた会長が声をかけた。

「なんですか?」

「ちょっと気付いたことがあるんだけど、話してもいいかしらね」

「どうぞ」

 表情を変えることなく咲は返事をする。会長はもったいぶって立ちあがると、家具の置かれていないわずかなスペースを徘徊しはじめた。

 そして、人差し指を立てる。

「さて――」


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