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第一部

 赤点はなんとかまぬがれたもののあまりほめられるような点数ではなかった中間試験が終わり、かわりに梅雨前線の運んできた長い雨が空をおおっているころ、白谷結衣は頬づえをついていた。

 探偵同好会の部室である、用途のわからない荷物が雑然とつまれている部屋にもカビの生えそうな湿気が充満している。ひょっとしたら咲の持ってきている本にもカビがこびりついているんじゃないかとこっそり表紙の裏を確認してみたりしたのだが、その痕跡を見つけることは出来なかった。

 同好会に参加してからというものの、テストがあったりなんなりであっという間に時が過ぎてしまい、とくに事件とよべるものに遭遇する機会はなかった。

 副会長は「まあ、そういうこともあるさ」と言ってあまり気にしていないふうだが、もっぱら読書とオセロに励んでいる人に言われても説得力があるはずもなく。

「あーあ、なにか起こらないかなあ」

 どんよりと曇った空を見上げながら結衣がつぶやく。

 かりにも探偵同好会と名のつくものが事件を望むのはおかしいことかもしれないが、ついそう願ってしまうほど日々は平和なものだった。

「お、あたりだ!」

 嬉しそうにアイスのあたり棒をかかげてみせる会長。

 湿度が高くなるにつれて、じりじりと夏の予兆を感じだす季節だ。そのせいか会長のおやつも菓子パンからアイスにかわり、時々お腹を壊しては熱いお茶を飲んでなおそうとしている光景を見かける。

 変わったことといえばこのくらいだろうか。

 だから、結衣のうっぷんを満足させるような騒ぎが起こるとはだれも予想もしていなかったのだ。



「なんかさあ、最近みょうに体調が悪いんだよね」

 結衣のいる教室で野球部員の男の子がそう愚痴っていた。一年生はみな入部して早々に丸刈りを命じられていたため、その生徒も例外なく坊主頭だった。

 夏に向けては涼しいだろうが、冬は寒そうだなといつも思う。

 それはスカートもあまり変わらないことなのだが、やはり印象としてはより風通しがよさそうな気がする。尼さんにならなくてよかったな、と結衣は必要のない心配をふりはらった。

「部活のしすぎじゃねーの?」

 とほかの男子が言う。

 授業と授業の合間のわずかな休み時間の会話だ。結衣は疲れたからだを机にあずけて休みながら、その男子たちの会話に耳を傾けていた。

 理由は特になかったけれど、ぼんやり耳に入ってきたことを受け止めていたというだけのことだ。

「いや、ちかごろは筋トレばっかりでさ。まあ球拾いよりはましだけど退屈なもんさ」

「じゃあ筋肉のつけすぎか」

「そういえば腹筋が9つに割れてきたんだよね」

「んなわけねーだろ」

 笑いあう声が聞こえる。

 それから話題はほかのことにうつってしまったためそれ以上は聞くことができなかった。

 また授業の開始を告げるチャイムが鳴って、すこし後に教師が出席簿を片手に入ってきた。

 席替えをおこなったおかげでうしろから二列目という安泰の位置を得ていた結衣は、いつものように至福の時間を味わう――要は、居眠りをした。




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