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CASE 会長

CASE 会長



 会長は小躍りして喜んでいた。

 もちろん、神崎が探偵同好会の鼻をあかしたことを聞いたからだ。生徒会の役員に連れてこられた小学生の格好をした少年を見ると、会長のテンションはさらに上がった。

「やっぱりうちの見こんだ通りの男だったわね!」

 ガッツポーズを誇らしげに氷川のほうへ見せつける。そっぽを向く怪盗同好会の会長。

 ざまあみろってんだ。

 ストップウォッチで時間を確認するまでもなく、勝利は目前に迫っていた。

「咲ちゃん、ここからが正念場よ。絶対にひとりも逃がさないでね!」

「はい」

 ステージの下ではテープでしきられた牢獄の周りを、咲が警戒している。

 囚人がふたりに増えたことでさらに表情が険しくなっているようだった。頼もしくはあるが、よくを言えばもうひとりくらいは警備を増やしたい。

 すでにアタックを受けた神崎か結衣をよびよせて警戒に当たらせるという手段もある。

 おそらく結衣のほうではてひどく失敗しているから、もういちど攻めてくるようなことはないだろう。つまり手帳の警備を空にしても大丈夫ということだ。

 だが、相手は結衣が警備にきたのを見て屋上に向かう可能性もある。むしろしないほうが不自然だ。裏をかいて副会長あたりを本来の場所から屋上へシフトするという手段もあるが、どちらにせよどこかに穴があいてしまう。

 この時間帯で決定的な弱点があるというのはまずい。

 怪盗同好会は最低でも引き分けに持ち込めればいい。こちらのもっとも弱い部分をつくのが常套だ。それがいまの本部なわけであって、会長の目が届かない場所よりはずっとマシだろう。

 つまり、この場にいる咲に頼るほかないのである。

 こうなってくると咲が序盤に手帳を失ったのが有利に働いてくる。だれかしら本部の警備に行かなければいけないなかで、場馴れしている咲を使えるのだから。

 不幸中の幸いってやつかしらね、と会長は内心ほくそ笑む。

 本当ならいますぐステージを飛び下りて咲に協力したいところだが、もちろんそんなわけにもいかない。だが、監視の目はふたり分だ。

「うちも怪しい奴らがいないか見てるからね。咲ちゃんはとくに牢屋の付近に注意しておいて。こっちは体育館の入口を見張ってるから」

「了解です」

 咲のみじかい返事。

 相手の顔がわからないというのは厄介だ。正体不明の敵は残り二名。ふたりでくるか、それともひとりで特攻してくるか。それすらもわからない。

 神崎の捕まえた少年の服装を見てしまうと、誰もかれもが怪しく思えてしまう。怪しく盗む、それが怪盗ならば、条件はぴったりだ。

 体育館にいるすべての人が敵だと考えたほうがいい。

「あと2分……」

 氷川の表情を盗み見る。焦ったような気配はない。

 もともと感情をあまり表に出さない女だから、顔色をうかがったところで情報が得られるとは思わないけれど。

 電流のような鳥肌が全身に伝わるのを感じて、会長は自分が武者ぶるいしていることに気づいた。自然と笑みがこぼれる。なぞ解きとは全然違ったスリルが心地いい。

 心臓の鼓動が、大きくなる。

 そのとき、会長の視界にコートのフードを目深にかぶった人物がくっきり写った。スカートをはいているから、おそらく女の子だろう。

 外は寒いからフードをかぶっていたくらいでは不思議でもなんにもない。体育館にはいってもフードをかぶり続けているのが奇妙だった。女の子なら、髪型がくずれるのを気にしてなるべくフードをかぶりたくないはずだ。

 怪盗同好会の顔はわからない。

 だから、顔以外のなにかをかくしている。会長の脳内に一筋の閃光が走った。

「咲ちゃん、フードをかぶった女の子に気をつけて! たぶんうちらの無線をジャックしたのはその子よ!」

 無線を使うまでもなく、直接咲に呼び掛ける。

 会長の声を聞いた女の子ははじかれたように駆けだした。進む先には瞳がいる。ほぼ同時に走り出した咲が、一瞬だけ早く女の子の進路にはいった。

 慌てて足をとめ、咲の様子をうかがう女の子。

 間合いをつめすぎればタッチされ、近づかなければ仲間を逃がすことができない。

 タイムリミットが刻一刻と迫るなかで板挟みになった女の子は、助けを求めるように氷川を見た。口元のマイクに小さく声を吹きこむ。

 なんと言ったのかはわからなかったが、女の子は氷川の言葉を聞くと、驚いた表情をした。そのままゆっくりと後ろに下がっていく。

「うしろ!」

 と会長が叫ぶ。

 咲が振り向くと、全力で牢屋にダッシュしてくる青年の姿があった。あれも怪盗同好会のひとりか。急いでうしろに向かう。

 まえにいる女の子は放っておいても平気だ。

 うしろにさがったぶんだけ距離がある。それよりも危険なのはスピードに乗った青年だと判断した。タッチできさえすればいい。そう思った。

「間に合って!」

 体育館中に響きわたる怒声をとばす会長。

 対する氷川はポーカーフェイスを崩さない。まるで興味のないスポーツ番組を視聴しているみたいに無表情だ。

「あっ」

 一瞬、間に合わなかった。

 青年の手が瞳の肩をタッチする。追ってきた咲の手をバレエを踊るように回転してかわすと、瞳は牢屋を離れる。

 逃げる必要はない。

 冷静に時間を判断しての行動だった。

 残りは、ほんの数秒。

 だが、青年は瞳をタッチした勢いをとめることができなかった。そのまま神崎の捕まえた少年もタッチしようとして、瞳の座っていた椅子に足をとられる。

 派手な音をたてて転倒する青年。

 そのうえへ、青年の身体につまづいた咲が覆いかぶさった。少年があわてて駆けよろうとするが、電子タイマーの無情な音が終わりを告げる。

 腕章を巻いた生徒会の役員が割って入る。

 これで、試合終了だった。


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