CASE3 結衣
CASE3 結衣
……退屈だ。
瞳を捕まえてからというもの、怪盗同好会からはなんのアクションもない。北極にひとり置いていかれたような気分。
定期的に会長からの報告は入るものの、瞳の一件があってからはさして大きな動きがあるわけでもなく、北風だけが結衣の話相手だった。一方的に語りかけてくるだけの、冷たい友達。
いちど失敗した場所にふたたび攻め込みたくないという心理はよくわかる。まだ神崎と副会長の守る手帳があるわけだし、先にそこへアタックをかけるというのは自然な流れだ。
だが、その裏をかいて結衣のところにも来てもらわないと、非常に暇なのである。
ときおり屋上で出会う友達も、瞳のことがあったせいかどうしても警戒してしまう。誰が怪盗同好会なのかわからない、それが結衣をリラックスさせなかった。
それにしても動きがない。
タイムリミットまで残り30分を切ったというのに、瞳を助ける気配さえないのだ。会長はしきりに落ち着けといっているが、時間が長引けばいろんな余計な考えが頭に浮かんでくる。
それがむこうの狙いなのだとしても、抗うすべはなかった。
「あーあ、誰か来ないかなあ」
退屈しのぎに空を見上げる。とてもきれい。風に吹き飛ばされていく雲は、いつまで見てても飽きないけれど。スカートの下にのびる生足凍えそうな現実に引き戻す。
「はぁ」
ため息は、すこしだけ白く残ってすぐ消えた。
最後の一文だけは、夜空のムコウから拝借いたしました。