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神崎の選択

 写真同好会のひとりから神崎の写真を依頼した犯人の名前をききだすと、こんどは神崎のクラスメイトのなかから女の子をリストアップした。

 さらにそのなかから彼氏もちのひとなど、条件に当てはまらない人を除外していく。主に神崎の証言と印象をもとにしながら、名前のリストに次々横線がいれられていく。

 シャーペンを取ったとき、周囲の人間に勘づかれなかったということは、心理的盲点にはいっていた可能性が高い、ということだった。

「たとえばひとの多い駅で犯罪が起こったとする。すると、不思議なことに誰も犯人の顔を覚えていないという。人がいる、というのが自然な光景に溶け込んでいるから、みんなまわりの人間に対して無関心になるんだ。それと同じことが、誠くんの教室にも起こっていたと考えられるだろう」

 副会長が、首をひねっている神崎に対して説明する。

 場所は、ふたたび探偵同好会の部室だ。

「どういうことですか?」

「きみは教室にいる同級生の行動をいちいち記憶していられるかい? 無理だろう。だがもし先生が急に教室へはいってきて、なにやら不審な動きをしていたら、記憶に深く刻まれるはずだ。ひょっとしたら一年くらい先にも覚えているかも知れない。それは先生という特異点があらわれたからなんだ」

「……つまり、普通とはちがうことをしている人は印象に残りやすいということであってますか」

「そういうことだ」

「なるほど」

 神崎がふかく納得する。

 そして、あることに気づいた。

「おれのことを購買部までつけてきた人って、すごく目立ったんじゃないですか。あんな変な時間に購買に行く生徒なんて珍しいし。それなら誰かが覚えているかもしれない」

「そのとおりよ誠くん」

 容疑者のリストアップを完了し、首の関節をパキペキ鳴らしながら会長がいった。

 手元の名簿表には、ひとりの名前が蛍光色でマークされている。

「咲ちゃんに聞き込みに行ってもらってるから、もうすぐ帰ってくるわよ。そうしたら3人の犯人が特定されるから、のりこみに行きましょう」

「のりこむって――どうするんですか?」

 神崎の顔が不安なものへ変わる。にんまり笑うと会長は、神崎の瞳をのぞき込んだ。

「だれを選ぶか決めてもらうのよ。楽しみね」

 あっはっは、という高笑いが部室にとてもよく響いた。



「まさか全部振るとは思ってもみなかったよ。さすがモテル男は違うねえ」

 会長がけばけばしい炭酸飲料の缶に口をつけながら、神崎の頭をくしゃくしゃと乱暴に撫でた。ワックスで整えてある髪が、生長しすぎた雑草のように乱れる。

「可愛い子もいたじゃない。あの写真の犯人なんてクラスでも指折りの女子なんでしょ」

「べつに好きなわけじゃありませんし、中途半端な気持ちでは向こうに失礼ですから」

「まったく。優等生な回答なんだから」

 そう言いながらも会長は酔っ払ったみたいに上機嫌だ。

 よもや炭酸飲料で酔っ払っているはずはないから、気分だけビール漬けにしているのだろう。

「みなみ、あんまり冷やかしてやるなよ」

 副会長がたしなめる。

 神崎が3人に自分の意志を伝えてから数十分、いやにテンションのあがった会長がパーティーまがいの装備をととのえて部室にもどってくると、なぜか祝勝会が開かれた。

 長テーブルの上には色とりどりのジュースやお菓子が並べられているが、咲と副会長があまり手をつけていないため減りは少ない。

「だってうれしいじゃない。誠くんがこんなに男前に育ってくれちゃって」

「どこが男前なんですか」

 会長に頭を撫でられて身体は逃げているものの、神崎はそれほど嫌そうな表情でもない。

「ただの女たらしにはなってほしくないからね。とっかえひっかえ、みたいなことにならないでひとりのパートナーを生涯愛し続けられるようになってほしいと思ってたのよ。それを教え込む前に、立派な判断力を身につけてくれていたもんだから、嬉しくってしかたないの」

「一途な愛ですね、先輩」

 結衣がニコニコしながらいうが、そのじつすこし残念そうな表情をしている。恋愛の修羅場が見られるかと内心では期待していたのだ。

「でもまさか3人同時とはね。夏休みで男に磨きがかかったってことかしら」

「偶然ですよ」

「夏のあいだ会えなかったから意識しちゃったのかもしれませんね」

 結衣がクッキーをつまむ。

 チョコチップが口のはしについた。

「いいですね、届かない片想いっていうのも……」

「まさか相手のほうからやってきて振られるっていうのも考えていなかっただろうしね。ちょっと残酷だったかな?」

 会長が悪気のない様子で首をかしげる。

「誠くんを好きになるのはあの子たちの勝手なわけだし、その権利を奪っちゃうというのもなんだか申し訳ないわね」

「たしかに辛いと思います」

 結衣が同意した。

「それも神崎先輩が彼女を作らないからですよ」

 ちらり、と咲を見やる。

 その本人は素知らぬ顔で推理小説の続きを読んでいる。進み具合からいってもうすぐクライマックスのなぞ解きなのだろう。

「そんなこと言われてもなあ……」

「これから秋ですし。恋愛の季節ですよ」

「そうなのか?」

「そうですよ。せっかくですし、どうですか」

「どうですかって言われてもなあ……」

 神崎が口をもごもごさせる。そのとき、新たに会長が開けたペットボトルから勢いよく泡が吹き出して、神崎の横顔を直撃した。

 ごほごほとむせ込む神崎。

「おや、ごめんね誠くん。よく振ってからお飲みくださいって書いてあったものだからさ」

「……そんなこと書いてあるわけないじゃないですか」

「おや、振ったのは誠くんだったかな」

 おあとがよろしいようで、と副会長が呟いた。

とくに山場もなく、オチも残念な感じで申し訳ないです。

精進します。

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