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第七部

「基本的なことはすでに調べ終わっていますから、今度は調べなくてはならないことを絞ってから聞き込みにむかうべきです。結衣が推理したことで大きななぞは解決していますし、ここで話し合いをするのがベストだと思います」

 咲がよどみなく言った。

 鮮やかな結衣の推理によって風邪の正体はカビによる気管支炎だと判明したわけだが、まだ呪いのうわさを流した犯人を突きとめるという目的が残っている。

 それを解決しない限りは、完全な解決にはならないのだ。

「僕もそう思う。また聞きこみに行くのなら違う質問を考えていかないと」

 副会長が同意する。

 刑事ドラマとはちがって何度も尋問をするわけにもいかないし、その必要もないのだ。

「野球部に恨みを持つ人間に限定して推理してみようかしら。あ、今回は結衣ちゃんに負けないよう全力で頑張るからね。役にたたなかった部員は一ヶ月間の脳トレを命じるわよ」

 会長が気合いのはいった声で言う。

 いきなりルーキーに先を越されてしまっては先輩として立つ瀬がない。だが、それよりも自分で事件を解き明かしたいという欲求のほうが強かった。

「あの……脳トレって具体的にないをすればいいんですか」

 神崎がおずおずと尋ねる。

 弱腰になっている神崎を、会長がキッと睨みつけた。さながら追いつめた蛙に最後通告をする蛇のような視線だ。

「試合がはじまる前からあきらめてどうする。貴様それでもエースピッチャーか!」

「野球に関してはそうですけど……」

「だったら立ち向かえ! 頭のよさなら結衣ちゃんとどっこいどっこいだろうが!」

「会長……」

 神崎は目をうるませた。

「おれ、白谷さんより頭悪いです」

「そうか」

 ため息すらなく乾いた瞳で神崎をながめる会長。

 気をとりなおして推理のほうへ話を戻すことにした。この阿呆でふぬけは戦力にならないかもしれない。結衣が探偵同好会にはいってくれてほんとうによかった。

 後輩の半分が戦力外となると、とても心もとない。

「まずはうちの勘だけどね、これは1年生の仕業じゃないかと思ってる。つまり結衣ちゃんと同じ、新入生というわけだ」

「なぜですか」

 まるで霧のなかから小石を見つけ出すような会長の言葉に、咲が驚きながら訊いた。

「ちょっと根拠は薄いけど、去年もその前も野球部に関する不穏なうわさが流れたことはいちどもなかった。悪評なんてものはこじつけなんだからいつだって流せるものなのに、なぜか今年だけはそんなものが生まれてしまった。結衣ちゃんと同じ考えかただよ。以前になくて、今にないもの」

「だから1年生」

「そう。もちろん他の学年が最近になってから恨みを抱いたというような可能性もあるけどね」

「それはちょっと横暴すぎやしないか」

 副会長が反論する。

「みなみの言ったとおり論理が飛躍しすぎている。あくまで勘だ。ひとつの仮説としてはアリかもしれないが、それでも根拠が弱すぎる。とても方針としては認められないな」

「なら健輔にはほかに名案があるの?」

「消去法で探していくには無理があるからな、ある程度うわさの範囲を調べて、それから絞っていくべきだと思う。アンケートをとるなり、データの収集が必要だな」

「そんなことしてたら途方もない時間がかかる。容疑者を手当たりしだい潰していくほうが早いと思うけど」

「それこそ非効率的だろ。急がば回れというやつだ」

 副会長は声を荒げようとはしなかったけれど、妥協する気がないのは明らかだった。いつもは言い負かされている副会長だが、根は頑固な性格をしているのだ。

 普段は言い争っても仕方のないことだからあきらめているが、探偵に関することは譲れない。

「だったら別々に捜査しましょう」

 不穏になりかけた空気にそぐわないのんびりとした声で結衣が提案した。

「真実はひとつです。違う方面から真相に迫っても、いきつく答えに変わりはありません。それなら自分の好きなように動けばいいんじゃないでしょうか」

「あたしも賛成です」

 と咲が言った。

「今度こそ会長といっしょに調査したいですし」

「もしかして、そっちが目的じゃないだろうね」

 副会長がいぶかしげな視線を向けるが、咲はにこりと微笑して答えた。

「そうですけど?」

「……神崎くん、きみは僕について来てくれるよね」

「え、ええ」

「よし、きまった!」

 バン、と思い切り机をたたいて立ちあがる会長。そして意気揚々と結衣のほうを見つめた。

「どっちに付く? 健輔? それともうち?」

「わたしは――」

 結衣はすこしのあいだしゅん巡していたが、やがて決意したように口を開いた。

「副会長といっしょに行きます」


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