5‐無限通路
もう、どれくらい歩いているだろう。
白と黒のタイルが、交互に続く一本道。
同じ景色が、延々と繰り返されている。
「……SOSさんから、メッセージ来ないな」
俺は手の中のスマホを、ちらりとのぞいた。
ちょうど通知音が鳴る。
『【最後の部屋】』
『【最初の部屋】に似た部屋に着いた』
え? 部屋?
「この通路に出たの……俺だけなのか」
となると、今回はSOSさんとの比較じゃない。
このフロア単体で、おかしな点を見つけろってことだな。
「今回は簡単だな」
俺はすぐにメッセージを打った。
『5マスで終わらない通路は、おかしい』
この建物は、どの階も5×5マスで統一されている。
こんな果てしなく続く一本道なんて、ありえない。
「どうだ?」
きっと次への螺旋階段が出るはず。
そう期待していたが、空間の歪む感覚はなかった。
代わりに――
ドンドン! ドンドン!
「うわっ!?」
俺は右へ飛びのいた。
壁の向こうから、誰かが叩いている。
「誰か、いるんですか!?」
返事はない。
ただ、叩く音だけが続く。
必死に自分の存在を知らせるように。
「SOSさんですか!?」
音は次第に弱まり、やがて消えた。
まるで叩き疲れたようだった。
「この向こう、部屋があるのか」
俺は、左側の壁をコンコンと叩いてみた。
この通路は本来、1×5のはず。
4×4の空間が隠れているということになる。
「……で?」
部屋があって、誰かがいる。
それが何を意味するのか、謎だ。
「ぜんぜん分からないぞ……」
胸の奥に、不安がじわじわと広がる。
俺は一度、道を引き返すことにした。
通路が長すぎると気づいた時点で、戻るべきだったのだ。
ところが。
いくら歩いても、上ってきたはずの螺旋階段にたどり着けない。
「……まさか、帰り道がなくなっている?」
呆然とする。
「進むも地獄、戻るも地獄の、無限地獄かよ」
出口がない。
手がかりがない。
頼れる相手も、いない。
不安がのど元にせり上がった。
「なあ! 誰か!」
俺は壁に、ドンと拳を叩きつけた。
「いるなら、返事してくれ!」
不安を吐き出すように、ドンドン、ドンドンと力任せに壁を叩く。
「助けてくれ!」
手が痛くなり、今度は足で蹴る。
「――っ!」
失敗だった。
つま先を強く打ち、鋭い痛みが走る。
「……落ち着け」
足先をさすり、深呼吸を一つ。
痛みのおかげで、少し頭が冷えた。
「大丈夫。大丈夫だ」
もう一度、進むべき方向を見据える。
「必ず、違和感はある」
俺は両頬を軽く叩いた。
「一度、この建物を整理しよう」
これまでのフロア構造を、スマホに書き出してみる。
【ロビー】
▲
□□□□昇
□□□□□
□□□□■案内板
□□□□□
降□□□□
昇、降…螺旋階段
【光の部屋】
▲
□□□□降
□□□□□
□□□□□
□□□□□
昇□□□□
【回廊】
▲
□□□□昇
□■■□□
□■■□□
□■■□□
降□□□□
■…謎の空洞
【現在のフロア】
▲
□□□□降
□□□□■
□□□□■
□□□□■
昇□□□■
■…俺が歩いている通路
□…誰かがいる空間
「……何がおかしいんだ?」
描くほどのこともない、単純な構造。
途方に暮れてしまう。
――ドンドン! ドンドン!
また通路がうるさくなった。
「静かにしてくれ!」
無意味だと分かっていて、左壁に叫ぶ。
ふと、違和感を覚えた。
「……左?」
俺は、もう一度図を見た。
【現在のフロア】
▲
□□□□降↓
□□□□■↓
□□□□■↓
□□□□■↓
昇□□□■↓
↓…俺の進行方向
ひやりと、背筋が冷えた。
「右から音がするなら分かるけど、左からするのはおかしくないか……?」
俺は震える手でメッセージを打った。
『建物の外側に、誰かいる』
完全にホラーだ。
泣きたい気持ちになったとき――右壁が消えた。
隠れていたフロアが現れる。
「やった!!!」
俺は全速力で、斜向かいの螺旋階段に駆け出した。




