2‐ロビー
階段を上り切ると、さっきの部屋よりも数倍は広い空間に出た。
床は白と黒の市松模様。
天井は高く、足音がよく響く。
「どこに来たんだ、俺……」
ピロン、とスマホの通知音が鳴った。
SOSさんからだ。
『【ロビー】』
『床が白黒のチェッカーパターンのフロアに出た。
タイルは5×5。歩幅から計算して、1タイル3メートル四方。
縦横15メートルの空間か』
詳細な説明。助かる。
『【最初の部屋】は3メートルの立方体だった。
……こんな空間は、現実を無視している。
時空がねじれて、どこか別の建物に連れてこられたとしか思えない』
完全同意。
どう考えても、おかしいよな。
『入って、利き手側に案内板があった。
それ以外は何もない。
住居としても事務所としても不完全で、奇妙な空間だ』
スマホから顔を上げる。
右壁の中央に、銀色のパネルが取り付けられていた。
縦に細長い建物の図。
高さは4つに区切られているので、どうやら4階建てらしい。
それぞれの階から線が伸び、簡単な平面図が添えられている。
……が、意味があるようには思えない。
どの階も同じ図なのだ。
正方形の上辺に三角形。
右上隅と、左下隅にはぐるぐる渦巻き。
階の名称も説明もない。
案内する気があるのかといいたくなる図だ。
『上辺の▲は方角記号だろう。
隅の渦巻き2つは、螺旋階段と思われる。
しかし、フロアに階段は1つしか見当たらない』
俺の状況も同じだ。
階段は、今上ってきたものが一つあるだけ。
『どうしたものか……』
俺が違いを見つけないと、先へ進めないんだな。
「俺とSOSさんで、何が違うんだ……?」
スマホを見つめ、低くうなる。
壁の色や、案内板の細部について尋ねてみた。
既読はつくけど、反応なし。
SOSさんには読めないようになっているんだろうか。
『どのくらい時間が経ったのだろう。
右手の腕時計は、ずっと同じ時間を指している。
ここでは、時が止まっているらしい』
本当だ。
建物に入ってから、10分は経っているはずなのに、スマホの時刻表示が一切変わっていない。
「時計……最近してないな」
俺は左手首をさすった。
少し前に、奮発して買った時計。
結局、面倒で付けなくなった。
「……ん?」
その動作の途中で、違和感が引っかかった。
俺が時計を左腕に付けるのは、右利きだからだ。
「SOSさんの腕時計って……」
メッセージを読み返す。
やはり、右手にはめている。
ということは――
『SOSさんの利き手って、左なんですか?』
続けて、打つ。
『案内板の位置、逆ですね』
空間が波打つような感覚があった。
下り階段の対角に、今までなかった階段が現れた。
上へ伸びる、螺旋階段だ。
「……よし」
当たりだ。
「次だな」
俺は手すりを掴み、迷わず階段を踏み出した。




