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前世で看取ってくれた人の身内と結婚した  作者: 日和るか


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30/31

30:夫を賭けて決闘


「……弱そうな女?」


 アミィが片眉を上げてララハナを見据えた。


 周囲も唖然としている。辺境伯夫人の強さは夫が認めているし、以前慰労として国境騎士団を訪れた彼女は、騎士団の訓練を見ているうちに我慢できなくなったのか、乱入して射的の腕を披露した。


 “魔獣を屠る”だのうわさがあったアミィについて、騎士たちは『貴族令嬢なのにあり得ない。閣下の母親や祖母の武勇伝に対抗して見栄を張っているのだろう』と受け取っていた。貴族令嬢が戦えるのがおかしいのに、それがアドバンテージになるのだから、サイデルフィアではエルセイロ王都の常識が通用しない。


『私が得意なのは弓術です』

 アミィが前世仕込みの技術を見せれば、騎士たちの態度は〈尊敬〉に変わった。皆実戦経験者だけに、彼女の弓術が形だけの綺麗なものではなく、戦うためのものだとすぐに理解したのである。


『私は王都で屋敷を抜け出して狩りをしていましたから猟師です。盗賊退治もしましたから戦士でもあります』


 騎士団員相手に誇るアミィに、『いや、伯爵令嬢だろ!』といちいち突っ込んでいたオズワルドも今は否定しない。それが本人の自己認識なので仕方がないと諦めたのだ。


『美しいだけでなく戦士とは、まさに閣下に相応しい!』


 魔獣退治のソロイド騎士団も辺境騎士団もアミィに一目置いており、彼女に負けられぬと謎の気合が入り、軍隊の士気にはいい事ずくめだ。



 __辺境軍が敬愛するそんな辺境伯夫人を〈弱い〉だと? この小娘は何をほざいているのだ?


 騎士たちの空気が変わった事にララハナは気が付かない。



「誰の事をおっしゃっているのかしら」


 アミィの先程まで嫋やかな淑女然としていた表情から一変。向けられる気迫にララハナはたじろぐ。しかし戦い慣れたハレイ族長の娘が、蝶よ花よと育てられた貴族の娘ごときに気圧されるわけにはいかない。


「王都の貴族の女なんて、ナイフとフォークより重い物を持った事などないんだろ」


 ララハナは苦々しい顔をする。自国の貴族を思い出したのだ。


 フン・タルマルクの貴族の女たちは、父や兄が嫌がったので仕方なく代理参加した記念式典に、民族衣装で臨んだララハナを、『野生児かしら。野蛮なこと』と周りを囲んで蔑んだ。

 民族衣装でもちゃんと盛った美しい正装である。ララハナが『王の許可も得ているのに、それを馬鹿にするとは王の判断を間違っていると言うのか?』と一歩も引かなければ、年端もいかぬ少女に反撃を喰らった淑女たちは黙り込む。


『群れなければ何も出来ない弱者どもが』

 捨て台詞を吐いて囲いから抜けた。ララハナの言葉は黙認していた周囲の男たちにも向けられていた。孤立した少女が吊し上げられているのを見て見ぬしたのだから同罪だ。ただ男たちはハレイ族に関われば面倒事になると経験しているから黙っていただけだが、ララハナにとってはそんな思惑は関係ない。


 エルセイロ王国であろうと王都の貴族も彼らと変わらないはず。


「守られてぬくぬくと育った貴族の娘が、この荒っぽい辺境に馴染めないだろう? 辺境伯、おまえはこの結婚に納得しているのか?」


「お、俺?」


 ララハナがアミィと対峙していたので、蚊帳の外で傍観していたオズワルドは再び問われて虚を突かれた。しかしすぐに顔を引き締める。


「勿論だ。アミリシアが嫁いでくれてよかった」


「くっ、所詮おまえも見掛けがいいだけの女が好きな腑抜けだったのか。がっかりだ」


「姫君、あなたは剣が得意なのですか?」


 アミィが腰の剣を見ている。


「私の得意な獲物は槍だ。今日は入国して辺境伯に会うのが目的だったから、戦場での武器は携えていない。だが丸腰も心許ないからな、剣にした」


 ララハナの持論の展開に、「丸腰じゃないと駄目だよ。すぐ拘束しないといけなくなる」とレミスが眉間に皺を寄せた。


「そうか? でも抵抗しなければ傷付けられる事もないだろう」


「くっ! そこは考えているのか、小癪な」

 カイマールが思わず口走った。


「そう、槍なのね。私は弓よ」


 アミィが話を戻すが、ララハナは意味が分からずきょとんとしている。


「あなたも私も得意武器じゃない剣で勝負すればいいと思うの」


「勝負だと!? 私に挑むと言うのか!?」


「当然よ。辺境伯夫人として馬鹿にされるのは許せないわ」


「正気か!?」


 ララハナが驚いたのも無理はない。誰も夫人の無謀を止めないのだ。つまり、夫人は武の心得があると示している。


「言っておくけど、私は湿原森の魔熊を倒すくらいの実力はあるわよ」


 まるでアミィ一人で倒したような口振りだが、当然騎士の力を借りている。そこは“はったりだろう”と、カイマールもオズワルドも口は挟まない。

 しかしアミィは本気だった。あの時は同行騎士たちがいたから彼らと協力しただけで、一人でも倒せる自信はある。


「遭遇した事ないけど巨魔猪も倒せる気がするの」


「まだそんな事言ってんのか。あれはカイマールおじさんだって単騎じゃ無理なんだ。あいつは硬すぎてジリ貧で体力負けする!」


 オズワルドが呆れている。


「そのくらい実戦経験が豊富だと言いたかったのですわ。で、お姫様、お相手してくださるかしら」


 アミィの闘志に満ちた瞳にララハナはゾクゾクした。彼女は自分と同じ匂いがする。温室育ちの令嬢なんかじゃない。さては武家出身か。


「成程、辺境伯! すまない、おまえを見縊っていた! こんな覇気を放つ者がただの令嬢のはずがない! この戦気に惚れたのだな!」


 アミィに対抗して凄みの気迫を纏うララハナ。


「……惚れたって。これは利害結婚であって……でも好ましいのは確かで……」


「ちょっとオズ、気持ち悪いから照れないでくれる?」


 もだもだと身悶えている親友の姿など初めて見るレミスが引いている。仮にも、と言うか紛れもない仲人なのに、そこは「相性が良くて何より」と喜んでもいい場面ではないだろうか。


「それよりどうしましょう。決闘みたいですよ」


 カイマールが、この場で一番偉い身分のレミスに意見を求める。


「子爵はどう思う? 二人の戦力」


「ララハナ姫は荒削りで力技で押します。夫人は冷静沈着に戦います」


「へえ、じゃあ姫君にはすっぱりオズを諦めてもらおうか」


 レミスは微笑み「エルセイロ王国第三王子の名の下に、二人の決闘を認めよう!」と大声で宣言した。


「え!? 何勝手に決めてんだよ! 決闘だと!?」

 オズワルドがレミスに食ってかかる。


「聞いていたか、オズ。王子として認めたのだ。一騎打ちとは決闘だ」


「反対しないでください、オズ様。妻である私への侮辱、これは辺境伯のあなたが侮られたのと同義なのです!」


「かっこいい、アミリシア様!」

「それでこそ閣下の花嫁!」

「一生ついていきます!」

 騎士たちが目を輝かせている。



「受けて立つ! 私もおまえも戦衣装ではないがそれでもいいのだな!?」


「当然です。格好のせいにするのは弱者の言い訳!」


「それなりに自信があるのだな。だが私も負けない! アミリシア夫人! 私が勝てば離婚してもらおう! 辺境伯は頂く!」


「待てー! 賭けは無しだ! 冗談じゃない!」


 勝手に賭けられるオズワルドが叫ぶ。


「オズ様、私が負けるとでも?」

 アミィの厳しい視線に晒されるオズワルドだが、怯んでいる場合じゃない。


「サイデルフィア領は賭け事禁止だ!」


「オズ、エルセイロ王国には国営カジノがあると知ってるよな。一応ここも国の一部だ。私の権限でララハナ姫の主張を認める。夫人も異論はないな」


「勿論でございます」

 アミィは恭しく頭を下げた。


 命まではとってはならない決闘は、エルセイロ王国法で認められている。年に数度は貴族の男たちがその権利を行使している。その最たる目的は女の取り合いで、妻の愛人が離婚を求めて夫に申し込む事もある。対象の女性は年齢にかかわらず〈姫〉と呼ばれる。大抵は多くの見物人の中で行われるものだ。



「……本当に勘弁してくれ。どうして俺が姫役なんだ……」


 盛り上がる周囲をよそに、オズワルドは頭を抱えるのだった。





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