表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世で看取ってくれた人の身内と結婚した  作者: 日和るか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/31

28:国境破りの姫

 三台続く幌馬車の中を点検している騎士たちにアミィは近づく。流浪民の生活が気になる、興味本位だ。


「フン・タルマルクの劇団? その向こうのパイデシュ共和国かジンスタン帝国からじゃないのか? フン・タルマルク人の興行入国は規制されているはずだが」


 訝しがる検問騎士に「招待ですよ。許可証もあります」と劇団長が羊皮紙を示す。


 国を股にかける商人ならまだしも、紛争中の地域からの娯楽旅団は基本入国禁止だ。幌の中を改める騎士たちの後ろからアミィは覗き見る。


 オズワルドはアミィの手を取り、「検問中だ。あまり近づくな」と制した。


「興行内容は?」


「剣舞を得意とする者や、口から火を吹く者、そうした見せ物もありますが、部族に伝わる、女神と王様の悲恋物語や、自分を勇者だと思い込んだ青年の滑稽冒険譚の劇をします」


「ふーん、面白そうだな」

 カイマールがぽそりと呟いた。


「そうですよ。我々は人気の劇団ですから招待されたのです!」


「そうは言ってもなあ。フン・タルマルク王都の劇団だろ? 政治活動をされても困るし」

 オズワルドは困り顔だ。


「見せて。その許可証」

 レミスが騎士から受け取る。ざっと読んで、そして溜息をついた。


「あー、ハネル兄さんが許可してる」

 

「第二王子か。フン・タルマルクの娯楽物は大半が禁止されているのに。それに俺に通達がなかったぞ」


 オズワルドの声が低くなる。興行団を越境させるならサイデルフィアに連絡するべきなのだ。こうして手間取る。


「ごめんね。ハネル兄さんって浮世離れしてるからさ。面白いものを見たいってだけで、そんな決まり事とか頭にないから」


「……王子の許可なら仕方ないか」

 

「オズ様、その興行、サイデルフィアでは見られないのですか?」

 他国の興行を見た事のないアミィは興味津々である。


「許可は王都のみになってるから駄目だね。寄り道せずに真っ直ぐやって来いって事だよ。兄さんが早く見たいんだろう」


「あら、それは残念です」


「今度東部拠点の劇団を呼んでやる」


 がっかりするアミィをオズワルドは慰めた。


「歌と恋愛もので有名なとこだ」


 女性に人気らしいが、はて、妻は冒険譚の方が喜ぶのでは、とオズワルドは気がつく。


「帰りならサイデルフィアにて興行も可能かと思いますが。辺境伯の許可さえあれば」と劇団長は揉み手である。

 こちらの会話でオズワルドが辺境伯で、レミスが王族だと分かり、売り込み始めたのだ。


「王都で問題がなければ検討しよう」

 

 アミィが目を輝かせているので、オズワルドは仕方なく言葉を濁した。


「ずいぶん小道具があるんだな」

 点検の騎士はうんざりしていた。

 一台の馬車にはぎっちりと荷物が積み込まれている。衣装ケースもひとつひとつ中を確認し、小道具の剣や槍も本物でないか、全て手に取る。助っ人の騎士も数人やってきて、結構な作業となっていた。


「ええ、興行に手は抜きませんよ」

 劇団長が得意げに胸を張る。


 二台の幌からは劇団員がぞろぞろ出てきて、身体チェックをされる。まだ小さい子供は劇団員の子供だろうか。子役として舞台に上がる事もあるのかもしれない。



 一行の生活用品を積んでいると申告のあった最後の幌馬車の点検をしようと、騎士が幌布を開けた瞬間、中から若い女性が飛び出してきた。


「うわっ!?」


 女性に押退かされた騎士が驚きの声を上げる。


「誰だっ! お前は!?」


 意外にも誰何したのは劇団長だった。


「え?」

 

 状況がわからず、一同がきょとんとする中、帯刀した女性は剣の柄を握ったままオズワルドに一直線に向かってくる。


「おのれ、劇団だと謀ったか!」


 女が剣を抜く素振りはない。しかしオズワルドの怒声で、騎士が劇団長を拘束した。


「ま、待ってください! そんな女、知らない!」


「本当です! 団員じゃない!」

「どこかで潜り込んだんだ!」

 

 女との関係を否定する団長に続き、団員たちも弁明する。


 護衛騎士たちがオズワルドの前に出て彼を守り、レミスの騎士たちは素早く彼の身体を囲い、カイマールはアミィを背にする。完全な警戒体制の中、アミィは冷静に彼女を観察する。


(殺気はないけど……怒り? 誰に? 何の?)


 国境警備隊が女を止めようと手を伸ばすと、彼女は初めて声を発した。


「触れるな! 私を誰だと思っている!!」


 伸ばされた手を払い捨てた、まだ若い女性は流れるような真っ直ぐな茶色の髪に勝気そうな葡萄色の瞳をしている。


「どこかで見たような……あっ!」

 考えていたレミスが正体に気が付き、「ハレイ族長の娘、ララハナ姫!」と声を上げた。


「え! あの仮面の戦姫? こんな少女だったのか!?」


 オズワルドがびっくりすると、カイマールも「アミィより若くねえか?」と戸惑う。


 一三、四歳に見える少女は腰に手を当て、偉そうな笑顔で仁王立ちで名乗りをあげた。


「そう、私はハレイ族長の第一姫ララハナ・ブルシュ、十五歳だ! 十四歳から戦に出ている! サイデルフィア辺境伯、久し振りだな!」


「いや……これは国境破りだろ」

 レミスは呆然としている。


「敵国に単身乗り込んでおいて、なんて堂々としているんだ……」

 オズワルドが指示を出さないので、国境警備員が対応を探しあぐねる。


「俺、あんな小娘にやられたのか……兜と鎧をボコボコにされた……」と小声で嘆く騎士が一名。


 部下を引き連れて「ララハナ・ブルシュだ! 尋常に勝負せよ!」と度々サイデルフィア第一国境を突破していた女戦士の正体を知り、辺境騎士団員たちの士気が下がる。


 薄鉄を皮革で覆った防具に、動物の毛皮を頭部のメットに巻いた兜とも帽子とも付かない物を被り、ハレイ族の守護精霊の加護を示す木彫りの仮面で素顔を隠す独特のハレイの戦士。誰も〈ララハナ・ブルシュ〉の顔を見た事がなかった。


 今のララハナは勇ましい戦士の装いでなく、部族の色彩豊かな巻きスカートの民族衣装姿だ。腰の無骨な剣がすごく不釣り合いな格好である。


 強く勇敢な女首領だと思っていた相手がまだ子供だったと知れば、辺境軍の一員である騎士たちが自分の不甲斐なさに、がっかりするのも仕方ない。


「で、何で密入国したんだ。まさか姫自らが和平交渉でもあるまい」

 

 オズワルドの代わりにカイマールが尋ねる。正式に使者を立てていないのだからそれはない。


「……もしや、亡命?」


 どうやら無罪放免になりそうだと思った劇団長の声は若干弾んでいる。強かな彼は、面白い劇の題材になるかもと、成り行きを見守っているようだ。


「亡命だと? ふざけるな! 首を掻っ切るぞ、フン族の小物め!」


 ララハナの怒りに触れた劇団長は「ひっ」と縮こまる。戦闘民の迫力は本物だ。


 ここにきて、ようやくオズワルドが機能する。


「……まずは劇団の入国を先にしろ」


 劇団は無関係だろう。こっそりと忍び込まれるのは不用心すぎるが、ララハナの素質を思えば仕方ない。

 急かされた旅客団は内検問所の中に進む。オズワルドはそれを目で追ったあと、ララハナに視線を戻し、質疑に入る。


「さて、ララハナ姫、この状況は一体なんだ?」


「サイデルフィア辺境伯! まだ結婚する気がないと聞いていたのに、いつの間に結婚したのだ!? 納得いかない! なぜ私との縁談を断った!!」


 ララハナの大声が響いた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ