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前世で看取ってくれた人の身内と結婚した  作者: 日和るか


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27:検問所


 サイデルフィアは入出国料の八割を国に納めており、他に納税義務はない。特に優良な産業もないサイデルフィアが搾取されているように見えて、実情は違う。多分魔物加工品が高値で売れているのも王は知らないだろう。


 農民には収穫作物の十分の一を納めてもらう。木こりは材木、薪や炭など現物税として、猟師、漁師からは一定の現金、不足なら残りは現物を徴収する。領民の職人や商人には営業税を払ってもらっている。それらはそっくりサイデルフィア辺境伯の手元に残る。

 〈軍役〉としてサイデルフィアは国に貢献しているので、本来ならもっと強気に出てもいいはずだが、“忠義の証”として入出国料の大半を渡している感覚なのだ。

 

 王太子殿下はシガット大公国とジェイメル王国に国王代理で訪問の際、サイデルフィア本邸に泊まっている。だがオズワルドの代になってからはそれもない。他国に行く時以外は訪れる理由が無いのだ。


「ロール兄さんの今後の外交に期待しよう」


 王太子、すなわちレミスの一番上の兄だ。二番目の兄ハネルは、芸術を愛する男で施政には興味がなく、自邸でしょっちゅう詩の会や絵画鑑賞会に演奏会、などを開いている。彼は文化面を担う王族として生きていけばいいとレミスは思う。


 父や評判の悪い先祖が反面教師なのか、長兄は『凡庸王だの暗愚王だの後世で言われるのは嫌だ』と零している。目指す世は同じなので、いずれレミスは王弟として補佐をするつもりだ。


 レミスはシガット大公国はまだしも、早めにジェイメル王国と国交を結びたいと考えている。


 そして父の代になっても仲が修復できていない、サイデルフィアと信頼関係を築きたいとも思っていた。それはオズワルド・サイデルフィアの友人の自分の仕事だと信じている。

 レミスの目は父を追い越して次代を見据えていた。そんな第三王子の気概を感じるカイマールは、彼に好意的なようだ。



 国境の城壁が見えてくると、アミィは目を凝らして眺める。国境の城壁が見えてきた。確かあの森の方角だ。トパーズが埋められているのは。


(……この気持ち、なんだか形容しづらいわ)


 郷愁とも回顧の念とも追憶とも無念ともつかない、とにかく複雑な感情が湧き上がる。しかし、十年以上アミィとして生きている時間によって、彼女の記憶はまるで他人のようにさえ感じはじめている。薄情だろうか。


(このまま忘れてしまうのかな……)


 ふと、アミィは前に座るカイマールに視線を移す。彼も先程アミィが見ていた森を目を細めて眺めていたが、やがて姿勢を正し目を閉じて俯いた。もしかすると彼は近くを通る度に、トパーズに哀悼の意を捧げてくれているのだろうか。


(まさか。もう何十年も昔の話よ)


 自惚れだと否定したが、トパーズの認識証を未だに保管してくれている彼ならそれも有り得ると思う。しかし神妙な顔をしていたカイマールに真偽を尋ねるわけにもいかず、アミィはただただ息苦しさを感じるのだった。





「着いたぞ」


 まっ先に馬車から降りたオズワルドに続いて降り立ったレミスは、目の前の城塞の姿に「ほう!」と感嘆の声をあげた。


「想像していたよりずっと大きいな!」


 __国境の砦城。

 ここの一部は二重壁構造になっている。今一同が目にしている大きく開かれている門は、フン・タルマルクからサイデルフィア領に入れる唯一の正規ルートだ。


「この外側の、ほら、あちらにも壁が見えるだろう?」


 門の正面からオズワルドが外に向かって指を差す。その指先を目で追ったレミスは「ああ、あれが外壁か」と頷く。


「ここから見えるあの外壁検問所の向こうはフン・タルマルク王国だ。ここを出て右に行けばシガット大公国に続く。左に進めばジェイメル方面だ。その二カ国には外壁検問所はない」


 説明しながら門を抜ける時、門番たちが敬礼してくれた。〈王子の視察〉と聞いている彼らは緊張しすぎてか、直立不動で動かなかった。


 検問所を出たレミスは興味深そうに左右を見渡す。

「ここはまだサイデルフィアなんだね」


「そうだ」とオズワルドは頷く。

「フン・タルマルクとの紛争は、外壁と内壁のこの範囲で終わらせている」

 サイデルフィアの生活圏には入らせない。


「外壁はメドール山と麓の農地まで続いているのかい?」

 

 レミスはサイデルフィアが唯一自ら奪いにいった土地を思い出す。

 当時は銀鉱のうわさに踊らされた愚かな辺境伯、などと中央で馬鹿にされたらしいが、今は〈河川の源流〉目的だったと中央の歴史書にも正しく記されている。


「ああ、でも端は木の柵だったりする。先の戦争で得た領地の村民たちの境界柵をそのまま使ってるんだ。国境線をそういう形にしたそうだ」


「オズの親父さんが当主だったね。合理的でいい。手っ取り早く国境を明確にしたわけだ」


 メドール山を挟んで北はシガット大公国なので、そちらは問題視しない。元々がエルセイロ王国の一領なので小さい。フン・タルマルクと連合してエルセイロ王国と戦争をしたものの、サイデルフィアを攻略できず、フン・タルマルクの降伏によって敗戦を余儀なくされた。単独で戦争を起こす力もないので、それ以降は大人しい。


 今はメドール山麓の農地を含めてサイデルフィアの領地だ。検問所周辺は頑丈だが、オズワルドに今のところ山方面に新しい石壁を築く予定は無い。彼の中での優先順位が低い。


「フン・タルマルク王国自体は屈辱的な敗戦が傷になっている。今の国境紛争も最初は止めようと王国の使者が来ていた。だけどな、木柵の向こうは元々自分たちの土地だったハレイ族は納得いかないだろう」


 だが、彼らは防御の薄いそこを突撃する事がない。正面切っての攻撃こそ誉れ。

 愚かにも正々堂々と検問所突破をする誇り高き部族なのだ。


「ああ、辺境のハレイ族ね。近隣の部族に敬われて纏めている。サイデルフィアみたいだよね」

 

 レミスの軽口を、彼に同行している護衛騎士や文官がはらはらしながら聞いている。部族の寄り集まりと東部を纏めるサイデルフィアを同列に語るとは、友人とはいえ、辺境伯が激昂するかもしれない。


 オズワルドのうわさで〈サイデルフィア辺境伯〉が畏怖されるのは、思惑通りだろう。不敬度で言えばオズワルドの方が酷いのだが。


「フン族の王もね、結局説得は諦めてしまったんだよ。下手したら派遣の使者が首だけで帰ってくるかもしれない状況でね。ハレイ族の鬱憤を晴らすための紛争だから静観を決め込んだんだ」


「そうなのか」


 フン・タルマルク王国にいる間諜からの報告だろう。もちろんサイデルフィアも間諜を放っているが、辺境が主で王都にいるのは間諜商人くらいだ。


「腐っても中枢だな。ちゃんと情報収集してるんだ」


「一言多いよ、オズ」


 やっぱり辺境伯が不敬すぎる。


 そんな彼らの後ろでアミィが、「オズ様、言いたい放題ですね」とカイマールに囁くと、「……オズの親父もあんなんだったぞ。サイデルフィア辺境伯は中央に媚びないのが伝統だな」と返した。


「では王都の結婚式で王家に忠誠を誓ってしまって良かったのですかね」


 東部では反感を買うのではとアミィが心配するとカイマールは笑った。


「あの結婚式の後、俺が“あくまでパフォーマンス。仲人の第三王子に花を持たせただけ”と通達したから大丈夫だ」


「そうですか。……それなら大丈夫? いえ、王の間諜にばれたらまずいのでは」


「別に向こうも承知だろ。ただ大々的に周知されたから、お互い“大人の付き合い”が出来る」


「そんなものですかね」

 

「そんなものですよ、辺境伯夫人」

 カイマールはおどけた。




 馬車二台が余裕ですれ違える大門には出国と入国手続きの厳しい検問所があり、ちょうど入国待ちの馬車の列があった。


「なんでしょう、派手で仰々しいですね」


「あれは流浪の雑技団か演劇団だろう。エルセイロで公演をするのか」


 カイマールの言葉でアミィの心が疼く。自身の母もこういった旅団の一員だったのだろう。孕って捨てられて、それでもアミィに母からの虐待の記憶はない。きっと温かく愛情深い人だったのだろう。



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