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前世で看取ってくれた人の身内と結婚した  作者: 日和るか


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26:第三王子の訪問


 そうして準備を整えたサイデルフィア家本邸にて、久し振りに開かれた懇親会には多くの人が招待された。先代や先々代の懇親会を懐かしむ年配客もいて、彼らは昔話に花を咲かせるのだろう。


 その中で、一際異質な招待客が一人。辺境伯の隣に座っている垢抜けた青年は一体誰であろうか。


 どこの令息かと訝しがる客たちに、オズワルドは「俺の友人だ」と雑な紹介をする。そんなオズワルドに気を悪くするでもなく、「レミスといいます。よろしくね」と、青年は愛想よい。

「辺境伯閣下の御学友か」

「高位の中央貴族のご子息でしょう」

 辺境伯は名前も告げず、本人も家名を名乗らなかったので憶測するしかない。


 ひそひそ話す招待客の中で、彼の容姿と名前で正体に気がつく者たちがいた。

「……第三王子殿下だ」

「えっ!?」

「……そう言えば、同級生であられましたな」


 王族と接する機会のない者が大半を占めているが、正体の共有が出来たところで、次は不安げな空気が流れた。


「……魔物の肉などお出しして大丈夫なのか?」

「王族がサイデルフィアを訪れるなんて、なんの思惑が……」

「最近のこっちの事業が目に余ったのだろうか」


 小声ながらいささか不敬とも取れる憶測も囁かれる中、レミスは「やっとオズに招待されたんだ」と微妙な空気も意に介さない。温厚な笑顔を崩さないのはさすがである。



「レミス殿下は学生時代からの友人だ。前々からサイデルフィアに来たいと言っていたから、正式に招待した。まあ当然だが、視察も兼ねている」


「オズー、そこは馬鹿正直に言わなくていいんじゃないか? 実際〈視察〉は建前な訳だし」


「辺境に王族が来るには、おかしな事に名目が必要なんだ。純粋に友人宅に遊びに行くのとは訳が違う」


 辺境伯の言葉は理解出来た。王室は軍事力が高く結束の固い東部を疎んじているのだ。しかし蔑ろにする訳にもいかないジレンマを抱えていると、東部地方の貴族は知っている。


 こっちのように『外国産の珍しい酒が手に入ったから〇〇伯爵んとこ行って一緒に飲んでくるわ』などと、男爵が気安く格上の貴族を訪問するなんて、中央ではまず考えられない。


『辺境伯を通してサイデルフィア領を見てまいります』

 第三王子が父にそう言って許可がおりた訪問だ。中央貴族の友人を訪ねるのは王の承諾など不要なのに、辺境に行くのはなかなかめんどくさい。


「しばらく殿下は滞在するけど気にしなくていい。俺が責任を持って面倒を見る」

「厄介者扱いは酷くないかい?」

「実際王族なんてどこ行ったって気を遣われるだろうが」

「そうだけども。気安い友人として接してくれ」

「そうもいかないだろ」

「アミリシア夫人からもオズになんか言ってよ」


 急にレミス王子から話を振られたアミィは、にっこり微笑んで茶番に付き合う。


「オズ様は殿下にサイデルフィアを案内するのを楽しみにしておりますので、殿下も寛いでくださいませ」


 招待客の強張った表情が和らぐ。辺境伯夫人とも十分親しげな王子の姿に安堵したのだ。


「まあまあ、殿下は魔物料理を楽しみにしておられましたので、早速堪能していただきましょう」


 そう言って年長者のソロイド子爵がワイングラスを手にする。乾杯の合図である。


 王族にしては柔軟な思考のレミス第三王子は、東部の作法に「中央とは違う」などと苦情を述べたりしない。隣席のオズワルトに説明を受けながら、「なかなか美味しいね。非常食加工もしているのかい?」と初めての魔獣肉にも舌鼓を打ち、終始和やかだった。





 レミス王子滞在二日目、彼は国境城塞を訪れる。案内役は辺境伯夫妻。それに王子たっての希望でカイマールにも同行願っている。英雄カイマール・ソロイドに、戦時下での攻防の話を現地で聞きたいらしい。


 辺境伯家の大型馬車は、懸架装置の改良で揺れが少なく頑丈で悪路にも強い。引退軍馬に引かせる二頭立て馬車に四人は乗り、その快適さにレミスは驚いていた。


「こんなに速いのに、うちの馬車より乗り心地がいいぞ!」


「おまえんとこのは優美さに全振りしすぎじゃないか?」


「おまえがいつも目にするあれは短距離用なんだよ。何日も掛けて行くにはさすがに脆弱すぎるから、ちゃんとしたのがある」


「この馬車で驚くくらいなら、それも大した事ないんじゃないか」


「これと比べりゃな。……買って帰ろうかな……」


「在庫は無いぞ」


 あれだのそれだの不評な意見が飛び交うも、王家の馬車で国一の象徴だ。威厳のある美しいものでなければならない。選ばれる馬だって見栄えがいい。実用性だけを追求する辺境とは訳が違う。


 

「視察はさっさと済ませよう。見たい物はあるか? あ、機密事項の開示は受け付けないぞ」と、相変わらずオズワルドは本音で会話をする。


「そんなもの要求しないよ」

 片眉をわずかに上げてレミスは苦笑いをした。


「うーん。やっぱりまずは検問所とかだな。確か出国料は成人ひとり二千ジュネで、幼児は無料だったよな。馬車は一台五千ジュネだったな。移動の家畜は一頭三百ジュネか。他領から領地への出入り商人の通行税はどうしている? 橋や舗装道路の使用料は?」


 建前の行事でも、一応国に報告義務があるから適当ではいけない。レミスはオズワルドに質問する。


「検問所の通行料は商会の規模によって五百から千くらいだな。領地内に入ってから別途にもらう事はない」


「そうなんだ。おまえは寛大だな。中央ではどこの領地も細かくて、橋や道路を使う度に使用料が発生するものらしいけどな」


「その税金で橋梁や道路の整備をしているから、しょうがないんじゃないか。うちは魔物産業という特殊な収入源もあるから、そこまでがめつくならなくて済む」

 

(ブロールン領はどうだったのかな。運営は領地代行に任せっきりだったけど、伯爵なら“ぎりぎりまで徴収しろ”と指示していそうだわ)


アミィはしばらく忘れていた父親の顔を思い出す。領民の生活を守りもしない領主など、爵位を失ってしまえばいいのに。


「なるほどねえ。サイデルフィア領に入ってしまえば、あの広大な地を金銭の心配なく移動出来るとなれば、商人には有り難い話だね」


「大体、昔っからそのやり方で資金繰りに困っていないから変えてないだけだ」


「父上は東部の地方をどれだけ把握してるんだろうな」

 レミスは溜息混じりに吐き出す。


「そもそも父上は王太子時代も含めて、一度もサイデルフィアを訪問していないのも問題あると思う」


「陛下はこちら側の三隣国は気に入らんのだろう。国交樹立する気がないから国境を越える機会もない」


「殿下、国王陛下は外遊自体がお嫌いですから仕方ありませんよ」

 カイマールはフォローのつもりか、それとも嫌味か。


「違うよ。国境を守る臣下の忠義を労う気がないのが駄目なんだ」


(……お互い不干渉で問題がないんだから、無理に仲良くしなくてもいいんじゃないかしら)


 レミス王子の折角の気遣いもアミィは不要だと思う。王とは距離を置いたお付き合いで十分な気がする。




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