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前世で看取ってくれた人の身内と結婚した  作者: 日和るか


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25:妻は魔獣を狩り夫は解体



「おまえの嫁さん、猟師を自称していただけあって、実戦向きだなあ」


 アミィを伴ったオズワルドが、久し振りに参加した魔物討伐。カイマールが実にいい笑顔でオズワルドに言う。ソロイド騎士団の中に混ざって、湿原森を進むアミィの後ろ姿を一瞥したオズワルドは苦笑する。


「今更でしょう」


 オズワルドはアミィの『護衛を減らせ』との要望に対し、『俺に勝てば』と手合わせをした過去がある。軽くいなすつもりが逆にやられた。手加減を見抜いたアミィは容赦なかった。彼女の気の強さを実感したものだ。


「まあな。接近戦まで強かったのは想定外だったな」


「対人戦向きでしたね。王都の騎士団で鍛えてもらっただけで、あそこまで出来るとは天賦の才としか思えない」


「次に国境攻防戦があれば、あれは嬉々として参戦するぞ」


「冗談じゃない。辺境伯夫人が参戦なんて。そもそもフン・タルマルクが大人しいままでいてくれるのを願っていますよ」


「無理じゃねえか? あっちの国境を守ってるのは戦闘部族のハレイ族だ。あそこの土地を奪ったのが諍いの根幹にあるから、ずっと恨んでるだろ」


「フン・タルマルク国として敗戦したんだから仕方ないでしょう。協議の末、差し出したのはあっちだ」


 フン・タルマルクの中枢を担うのはフン族だ。彼らにすれば辺境のハレイ族は少数民だから彼らの土地を切り捨てたのだ。しかし戦闘能力の高いハレイ部族は渡したくなかった国は代わりに賠償金を支払い、彼らがエルセイロに組み込まれて敵になるのを避けた。


 エルセイロ王国は辺境のサイデルフィアにこれ以上戦力を持たれたくないので、その条件で合意した。

 王家の思惑を抜きにして、サイデルフィアもハレイ族を迎え入れたくなかった。


 プライドの高い彼らは敗戦民として扱われるのは許しがたく、彼らを受け入れるのは面倒だと当時サイデルフィアも判断したから不満もない。フン・タルマルクは数でハレイ族を制圧したのだが、素直に従属しない彼らを持て余して結局自治区扱いだ。辺境同士の紛争は“我関せず”と黙認している。


「だからと言って、しょっちゅう腕試しみたいに攻めてこられるのはいい加減にしてほしいものです」


 たまに近隣部族も混ざり規模が大きい時があり、国同士の本格的な戦争に発展しないとも限らないので、国境に敵兵が集まると、常にオズワルドは辺境軍を率いる羽目になる。〈サイデルフィア辺境伯〉が現れないと彼らは納得しないのだ。


 困った事に〈サイデルフィア辺境伯〉は最強と思われている。敵の総大将が出てこないと彼らは“馬鹿にされた”と屈辱に感じるらしい。迷惑この上ない。


「腕試しかあ……。確かに互いに慣れちまって、まるで軍事演習みたいだ。殺し合う気はないよな、あっちも」


「慣れるのは困ります。“どうせいつもの感じだろ”と、気が緩んでいるところを突かれたら大事(おおごと)です。ハレイ族は緻密な戦略など練らないとは思いますが」


「ハレイは勇猛な部族として周囲の信頼は厚い。あそこら一帯は武に優れた者を崇める土壌があるからな。単純とも言う」


 オズワルドはちらりとカイマールを見た。


「そこに異質な策略系が一人でも居たらどうします。陽動作戦で国境にこっちの兵を集中させておいて、実質部隊が領都を制圧するかもしれません」


 それはかつてカイマールがとった戦略だ。カイマールは眉をひそめる。


「こちらの手を真似る事はないだろう。あれはフン・タルマルク王の慢心でお膝元が手薄になっていたから出来た奇襲だ」


 国境に大軍を投入してもサイデルフィア領都には警備兵を残す。国境警備門を迂回して領都を攻める簡単なルートはまず存在しないので、都が簡単に陥落するはずがない。


「オズは心配性すぎるな」


「そうかもしれません。万が一の想定をしてしまいます」


「長所でもあるぞ。今は戦況がぬるいから防戦に徹しているが、攻撃に転じた場合の遊撃戦も考えてるだろ?」


「……」


 さすがに大伯父だけあって、オズワルドが小競り合いを収束する気になれば、闇に紛れて隣国に少数部隊をいくつか送り込み、補給地や施設を叩くだろうと気が付いている。最善策は話し合いによる和解だが、確執の歴史が長いので難しい。

 エルセイロ国がフン・タルマルク王国に和平使者すら送らないのも問題である。歩み寄る気が双方ないのだ。


(貧乏籤を引くのはいつだって辺境だ)

 オズワルドの気が重くなる。


「オズ様ー!!」


 前方でアミィがぶんぶんと手を振っている。


「魔鹿ですよ!」

 彼女の足元には矢の刺さった鹿もどきが横たわっていた。


(いけない。余所事を考えて油断しては。ここは魔獣の住処だ)


「ああ、やったな。美味い肉だ」

 オズワルドが褒めるとアミィは自慢げに笑う。


 討伐自体はアミィたち先鋒に任せて、オズワルドとカイマールはとどめを血抜きや解体をして運搬の準備などをする処理班にいる。

 

「嫁さんの一人勝ちだぞ。おまえ、やる気ねえな」

「いや、別に競っていないですし。彼女が生き生きする姿を見に来たようなものですから」


 アミィの狩りを目にする機会がなかったオズワルドは、余裕を見せる彼女は対人戦向きだと感じる。魔獣は人より攻防力が高いので苦戦するが、行動自体は単純だ。人ほど複雑ではない。

 

(……実戦に慣れている?)


 アミィにそんな過去はない。ごろつきや盗賊を返り討ちくらいにはしていそうだが。


 トパーズ時代の弓術に加え、王都で騎士に剣術の稽古をつけてもらって、時折サイデルフィア城騎士団の訓練にも混ざっているから、アミィの実力は上がった。


(なんにせよ、防衛能力が備わっているのは素晴らしい)


 エルセイロ中央貴族男性なら妻のこんな姿を見れば憤慨しそうだ。戦える妻など野蛮で悪評に繋がる。王都騎士の女性は平民か騎士爵の娘とかに限られている。そんな彼女たちは身分の低さから高位貴族のお抱えになる事もなく、王都騎士団見習いから本採用されて騎士団に残るくらいしかない。せいぜい平民の富裕層に雇われるくらいだ。


 サイデルフィア近辺の令嬢たちは幼い頃から護衛術を叩き込まれるので、中央と東部とは状況が違いすぎる。それだけ東部が危険に晒されてきた証拠だ。


「オズワルド様、もうそろそろよろしいのでは?」


 荷車に獲物を乗せていた騎士が声を掛ける。二台持ち込んだそれらはもうぎっしりだ。


「そうだな」


 これだけあれば十分である。これから処理にかかる時間を考えればもういい。


「先鋒隊! これより帰還する!!」


 ソロイド騎士団の団長はカイマールだが、本日の討伐隊は辺境伯に任せているので、指示はオズワルドが出す。


 嬉しそうにオズワルドの側に駆け寄ったアミィは「魔鹿って脂多めで臭みもあまり無いですよね。意外でした」と、魔鹿を三頭仕留めて満足げだ。

 

「普通の鹿肉より美味と言われている。鹿肉に近いのは魔兎になるかな。よく頑張ったな、アミィ。主菜はばっちりだ」

 オズワルドに褒められて頭を撫でられたアミィは嬉しそうである。


 前世今世を通じて頭を撫でられた記憶のない彼女は最初は驚いて身を引いた。手を伸ばされるのは攻撃されるかと思ったのだ。しかしそれが労いの親愛的な表現だと感じてからは、むしろ積極的に絡むようになった。

 

 カイマールに『愛情を与えてやれ』と言われた言葉を、別にオズワルドが遵守しているわけではない。褒められると嬉しそうなアミィに対して湧き上がった感情のまま行動してしまっただけだが、これで双方の気分が良くなるので、なんだか習慣化してしまった。




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