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前世で看取ってくれた人の身内と結婚した  作者: 日和るか


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22:伯母とお茶会


 話に花が咲いていた二人に、アメリアの部下の青年が「主任」と声を掛ける。彼はちらちらとオズワルドの様子を伺っていたが、堪りかねたようだ。


 オズワルドは彼女たちに水を差すつもりはなく、普通に“落ち着いた辺境伯”でいたつもりだ。しかし彼のこの外面は彼の人物像をよく知らぬ人間からは不機嫌にすら見えるものらしい。


 ジェイメル王国人からすれば、好戦的だとうわさのサイデルフィア辺境伯の不興を買いたくない。


「領主様もご多忙なのです。そろそろ本題に入りましょう」


 そこでやっとアメリアもこの会合を思い出し、慌ててオズワルドに謝罪する。


「あら! 申し訳ございません!」


「いいえ、大丈夫ですよ」

 なけなしの外交的笑顔を見せるオズワルドは、逆に“怖い”と青年部下に思われてしまう。青年の顔色が悪い。


 辺境伯より先にアミィが「そう言えば」と話を切り出す。


「伯母様の得意分野は工学と聞いておりましたが、あの農地開墾の器具は勤め先の商品なのですか?」


 わざわざサイデルフィアに赴いている研究者一行の主任なのだから、そうなのだろう。


 アミィの質問にアメリアは「ジェイメルではあれの原型はそこそこ普及しているの。こちらに売り込みに来たのは改良品よ」と胸を張って答えた。


「売り込み、ですか」


「ジェイメル王国では種蒔き用に使われているのが主流なんだ。粘土質の土壌を耕すものは無いかと問い合わせたら、要望に応えたものを寄越してくれた」


 オズワルドが説明する。


「前の鋤を用途に応じて付け替えられるの」とアメリアが補足し、「土壌の整備の後は前部分を鍬に変えて耕せるし、種蒔きにも対応出来るわ」とお得感を出す。


「まあ土壌改良が一番大変だから、そこは領主が行うしかないだろう。あの機械は後ろの荷台に骨粉や腐葉土なんかの有機肥料を混ぜた土を入れて、耕してゆく。取り敢えず三台購入した。引退した軍馬たちが交代して無理なく働けると思う」


「ええ、こちらの馬はとても立派です。ジェイメルでは二馬で引きますが、一頭でもいけるでしょう」


「……うちに農馬はいない。戦争のための軍馬に特化したからな」


 オズワルドの自嘲にアメリアは、「国土の防衛に力を注がなければならず、領土の開発に力を入れられないと存じております」と真剣な顔をした。


「王都で私たちが平穏に暮らせていたのは、サイデルフィアあってこそでした。感謝しております。ジェイメルもフン・タルマルクからの被害が皆無とは言えませんが、大型大砲の所持で威嚇できるので、エルセイロとは状況が異なります」


 国土だけで言えばそこまで広大ではないジェイメルが〈富国〉と呼ばれるのは工業や農業が盛んで安定しているからだ。国の推進する研究機関が多く、合理化する技術に長けており、近隣では一歩抜きん出た文化水準なのだ。


「我々はエルセイロの中央より、サイデルフィアを信頼しています。ですから協力は惜しみません」


「なるほど。だから若干畑違いの貴女が主任なのだな」

 オズワルドはやっと合点がいったらしい。


「貴女の専門は都市開発分野だ。ご主人のミッダイト博士の改良土を購入したからその縁かと思っていた。貴女がエルセイロの貴族出身だから交渉役に抜擢されたのか」


「……最初、私は研究職員なので断ろうとしたんです。だけど夫がサイデルフィア辺境伯が領地改革に本腰を入れているらしいから力になりたいと、申しまして……」


__辺境伯夫人の名はアミリシア。ブロールン伯爵令嬢だそうだ。君の姪じゃないかい。

__ほんとに!?


「一度も会った事のない姪が辺境伯夫人だと知って、この機会に会ってみたいと思い引き受けました。申し訳ありません。勝手な動機で」


「いえ、親戚だと知れば、却って忌憚なく話しあえそうです」


 オズワルドの言葉を裏読みした同行者たちは、“無理難題を吹っかけられるのではないか”と不安になる。辺境伯が理不尽な男ではないと理解するには、多少の時間が必要なようだ。





 アミィがアメリアと茶会をしたいと申し出た時、オズワルドは「俺の許可は要らない。伯母に会うくらい好きにしていいんだ」と言ってくれた。


「貴女の旦那様は賢くて寛容な方ね。誰よ。粗野で傍若無人だなんてうわさを流しているのは」


 辺境伯本邸にアメリアを招いて、二人だけの茶会。今の生活や共有していない過去について話が弾み、何かの拍子にアメリアがオズワルドの事に触れた。


「あれは“敢えて”なのです。〈サイデルフィア辺境伯〉は圧倒的な強者でなければならないので、若年者と舐められない武装でもあります」


「なるほどね。代々の辺境伯に、私たちエルセイロ王国民はそうやって守られて来たのね」


 アメリアは納得したらしい。


「実家もそうだけど、中央に行くほど有り難みを感じていないのは王家が蔑ろにしている証拠じゃない? どこの辺境もサイデルフィアの献身に感謝しているのに」


 それはアミィも思う。王家はサイデルフィアを警戒しすぎだ。


「ジェイメル王国に来る? 王家に打診したら諸手を挙げて歓迎するわ」


「洒落にならないです。エルセイロ王家はそれを防ぐ楔として、中央貴族の伯爵家の私と婚姻を結ばせたのですから」


 レミス第三王子は『辺境伯に中央貴族の娘を宛てがえ』との父の命令に従いつつ、オズワルドの希望に添い、更に彼の力になりそうなアミィを見つけた。アミィもまさか同世代の貴族に嫁げるとは思わなかった。結果から見れば、オズワルドにしてもアミィにしても良縁だった。


「そうねぇ。結婚式で王家に忠誠を誓ったのなら、そうそう裏切りは出来ないわよね」


 アメリアはエルセイロ貴族籍を抜けているからか、ざっくばらんにそんな事を涼しい顔で宣う。冗談でも誰かに聞かれたら王都では大問題だ。しかしこの辺境の地では戯言など誰も気にしない。


「閣下は農業について勉強されていて、質問も多いわ。同行の農学者が驚くほどだった。凡庸な貴族は代官に任せて報告だけ受け取るものなのよ」


「そうですね。父なんかそうでしょうね」


 王都から近い領地なのに視察さえしていないと思う。自分の父母がいるから大丈夫だと思っているのかもしれないが、彼らは引退の身で出来る事は限られている。元々代官に治めさせていたようだから、横領されたってきっと気がつかない。


「エディもよ。自尊心だけは高いくせに能力が見合わないもの」


 アメリアは弟に対して辛辣である。


「伯母様はご両親に会いに行かないのですか?」


 ブロールン家の家督を継いだエデュアルズに勘当されても、領地の両親に会うのはいいのではないかと思ってアミィが尋ねると、アメリアは緩く首を横に振った。


「最初は行ったわよ。でもジョゼットの機嫌を損いたくないから来ないでくれと言われたわ」


『おまえを甘やかしすぎた。エディより賢いから教育に力を注いだのだ。国の機関に就職したからそこで大物を捕まえて結婚するかと思ったのに、我が家に何ももたらさない、ただのお荷物だ!』


『エディは金持ちの侯爵家と縁を持ってくれたわ。貴女は自分の事ばかり。もう来ないでちょうだい』


「父親にそんな罵倒をされて母に見捨てられてまで会おうとは思わないわ。国の発展に貢献しているとの私の誇りなんか、彼らにはゴミ同然だったのよ」


『勘当されて、これが最後だから』と会った時に、アメリアは自身の貯金から多額を両親に渡し『別邸を含めた教育費には及ばないけど、これだけあれば老後は楽でしょう。今まで有難うございました。お元気で』と別れたきりだ。


「私がそこまで稼いでいるとは知らなかったみたいで驚いていたわ」


「伯母様は特許をいくつも持っていらっしゃるのですよね」


「そう。言ってくれれば家にお金を入れたのに。一介の研究者の娘はお金なんか持っていないと考えていたんでしょうね。両親は私の動向に興味なかったんだわ」


 アメリアは寂しそうに笑った。



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