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前世で看取ってくれた人の身内と結婚した  作者: 日和るか


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17/21

17:ブロールン伯爵家の事情


 アミィとオズワルドにとっては二度目の、そして本番の結婚式当日。


 サイデルフィア領中から招待客が訪れる。本来ならアミィの実家にも招待状を送るのがスジだが、王都で出席してもらったので“もういいよね”と夫婦で一致したので放っておいた。

 事情を知らない方たちに「ご家族は?」と不思議そうに言われても「王都で参列してもらったので」で、納得していただいている。


 王都での結婚式は王族の肝入りだし、ブロールン家が実家として出席するのは当然だった。尤も夫人と娘は冴えないアミリシアの姿でも見て、心の中で嘲笑ってやろうと悪意を持って参列した。しかし想像に反してアミィは堂々と辺境伯の隣に立ち、凛とした美貌で人目を奪う。


 しかもその後の、結婚披露をした王室夜会で伯爵家は恥をかいた。

 アミィが元家族に対して何も反応しなかったからである。娘に無視されるのはまずいと思った伯爵が、妻子を連れてオズワルドとアミィに挨拶に向かおうとして、なぜかレミス王子に阻まれるように声を掛けられた。


『やあ、ブロールン伯爵、今日は実にめでたいね。芳しくないうわさのあるアミリシア嬢をきちんと身辺調査した結果、うわさの事実はなく、辺境伯に相応しい相手だと思ったから彼に紹介したんだ。サイデルフィアの夫人教育も問題なく、むしろ飲み込みが早いと褒められて、優秀だとお墨付きだ。二人とも互いに好感を抱いての今日の佳き日だ。伯爵も令嬢の悪評が払拭されて良かったな』


 大声ではないが、王子のお言葉中は静かになるので、参列者たちにしっかり聞こえた。庶子である次女アミリシアは貴族には馴染めず、教育を拒否してひきこもって暴れているだの、こっそり街に出ては平民と遊んでるだの、流布されていたものを第三王子殿下が否定したのである。

 確かにそうだ。素行が悪い娘を王室が軍事の要の辺境伯に勧める訳がない。ましてやレミス王子と辺境伯は友人である。そこの審査はしっかりしたはずだ。


 そもそものうわさの出所が、実家ブロールン家の夫人と夫人の実娘の愚痴であった。『貴族教育を拒否してマナーも教養もなく、とても社交界デビューをさせられない』と言い、伯爵も妻の言葉を疑わなかったから、『引き取ったものの所詮平民の娘でした。お恥ずかしい限りです』と同調していた。


 それがレミス王子によって事実でないと告げられた。


『結局平民の愛人の子だから教育しなかって事?』

『教育の放棄は継子虐めではないのか?』

『引きこもりだの、だらしない遊び人だの、うわさも一貫してなかったわね』


 ヒソヒソと交わされる会話に、伯爵家は早々に会場を後にしたのだった。





「おまえはアミリシアを虐待していたのか!?」


 ブロールン伯爵家でエデュアルズが荒れて妻を詰る。


「まあ人聞きの悪い! 体罰などした事ありません! 私は必要最小限の世話しかしないと最初に言いました。関わらなかったのを冷遇とおっしゃるなら事実だわ。だいたい娘の待遇に一切興味がなかったのはあなたでしょう!」


 妻ジョゼットは格上の侯爵家の娘で、美貌のエデュアルズは彼女に惚れられた。エデュアルズは彼女の容姿を不満に思っていて、妻の妊娠中に王都公演をしていた流浪劇団の女優メイサを愛人にした。劇団の移動前にジョゼットに知られて手切れ金を渡して綺麗に別れたので、メイサはそのまま劇団と共に去ったものだと思っていた。まさか身籠っており、そのため足手纏いになるからと劇団に捨てられ儚くなっていたとは、全く面倒事を残してくれたものだ。


 メイサは派手な外見だったが男癖が悪いわけではなく、当時自分以外に男の影はなかった。アミリシアは自分にそっくりなので、間違いなく自分の娘だと言える。


「嫌がらせで引き取ってきたのはおまえの独断だ! それに、私がアミリシアに娘として関心を持つのをおまえは許したか?」


 そこを突かれるとジョゼットも痛い。確実に“否”である。

 夫と瓜二つのアミリシアがどれほど憎かったか。自分の実の娘は見た目は悪くないものの、夫ほどの美貌ではない。だが顔立ちより、愛人の娘が夫の髪色と瞳の色を受け継いでいたのが何より疎ましかった。


「食事さえろくに与えなかったそうだな?」


「一日に二食もあれば十分みたいで、文句言いませんでしたよ、あの子は!」


 本当はもっと酷かったが、主人の『アミリシアの食事はどうしていた!』との剣幕に、料理長は〈弱らない程度にとの指示だったので一食の日もあり、主に使用人用の残り物だった〉と、そこまで正直に言えなかったのだろう。


「アミリシアは勉強も嫌がらなかったと元講師が言っていたぞ」


 ジョゼットは唇を噛む。夫は過去を洗い出したらしい。


「ええ! 利発だと聞いたわ! じゃあ最小限教わっただけでいいじゃない! アミリシアにお金をかけるくらいなら、あなただって嫡子のロッテの教育に力を入れたいと思うでしょ!?」


「……ああ、素養があったからアミリシアはマシだったんだな」


 わざわざ王都で王族参列の結婚式。サイデルフィア辺境伯の友人の第三王子だけでなく、王太子夫妻の参列によりサイデルフィア辺境伯の婚姻は、王家として大事な行事であると示す。


 エデュアルズは、ただ〈面倒な娘を面倒な地に嫁に出すだけ〉と軽く考えていた。しかし王室の調査部が調べた時点でアミリシアは教養があったのだ。でなければ結婚相手に名指ししない。


『問題児な娘が田舎に嫁いでくれ、いなくなって清々しました』

 庶子の嫁入りに関して問われた時、友人知人にこんな軽口を叩けば、大抵の者が微妙な反応をしていた理由が今なら分かる。


〈魔獣が多く戦場になるあんな物騒な土地には令嬢をやれない〉が貴族界の黙した共通認識なので、それを額面通り受け取っていたデュアルズは愚かだ。〈掌中の珠はやりたくはないが縁づきたい〉が本音だったのだ。


『国の守護神が伴侶を得てめでたい』との王太子の祝辞に対し、跪いて『国を護る辺境伯として王家に忠誠を誓います』と恭しく剣を掲げてみせた若き当主。その隣で両膝をついたアミリシアが『辺境伯を支える事を誓います』と続けた。


 サイデルフィアは未開の野蛮な土地ではない。その一族の一員になる事は王家も認める誉れだと、愚鈍なエデュアルズでもようやく気が付く。

『要らぬ庶子だから嫁に出せたのだな』の嫌味には、『娘を選んでもらって光栄です』とだけ、建前の笑顔で答えれば良かったのだ。


「どちらにせよサイデルフィア辺境伯と親戚になったのよ! これでロッテの婿取りも幅が広がったのだからいいでしょう!」


 妻の叫びに伯爵は黙る。……先に異母妹が結婚した。同い年である跡取り娘の縁談をこれから本格的に始めなければならない。本来ならジョゼットの言う通りだ。

 しかし〈ブロールン伯爵家は国境領を田舎と馬鹿にしており、蔑ろにしていた庶子を嫁がせて捨てた〉と、夜会での第三王子の言葉や辺境伯夫妻の態度で、そう陰口を叩かれているらしい。


『あれは謙遜で、サイデルフィア辺境伯家を貶めたわけじゃありません』

 

 エデュアルズが弁解して回っても過去の発言は消えない。

 彼が酒の席で『辺境伯は田舎者だから押し付けられた“伯爵令嬢”の不出来さには気が付かないかもな。次女は魔獣や荒れくれ軍の中で苦労すればいい。それで妻や長女の溜飲が下がるというもの』と語っていたのが本音だ。

 

 王室が大切にするサイデルフィア辺境伯と溝ができるような事を言っていたのが広まれば、ブロールン伯爵家は敬遠される。リーゼロッテの婿には、悪評を払拭する太い実家が必要だ。


(ジョゼットは表面しか見えない馬鹿だ。早く手を打たなければ)


 自分の事を棚に上げるエデュアルズも、他者から見れば馬鹿である。



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