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前世で看取ってくれた人の身内と結婚した  作者: 日和るか


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12/21

12:王都でお買い物


 結婚式に、夜会での便乗お披露目会と、アミィに声を掛ける機会はあったのに、ブロールン家は接触してこなかった。

 伯爵家はわざと庶子の次女の悪評を流していたのではないかと陰口を叩かれ、正式に辺境伯夫人となった娘から無視されていたのを、その証拠とされた。


 後継の長女より愛人の産んだ次女が伯爵にそっくりだったので妬んでいたのだろうと、大体事実に近いうわさに落ち着いて、ブロールン家は居心地が悪かったのもあり、敢えて辺境伯家のタウンハウスに伺う事もしなかった。もし訪問を断られでもすれば、どこからかその情報が漏れて、『やはり嫌われている』なんて悪意が流されるかもしれないから、そのリスクを回避したとも言える。


 尤も辺境伯夫妻は、もしブロールン家が訪れるというなら拒む気はなかった。

 豪華な屋敷で高級品でもてなし、オズワルドがアミィを溺愛している様子を見せつける予定すら立てていた。計画が不発に終わって残念である。




「結婚披露宴の記念品には、男性にはサイデルフィアの名を刺繍した手袋、女性はゲラニウムをモチーフにした装飾品が定番なんだ」


 サイデルフィア領地での正式なお披露目会には、招待客に結婚記念品を贈呈するのが慣わしだ。オズワルドはそれらを王都で準備すると決めていた。


「領地で作らないのですか?」

 経済を回す意味でアミィは問う。


「王都の有名店の物だと分かる方がいいかと思って」


 男性用の手袋は実用的なものではなく主に儀式用で、“領主より賜った誉れ”の権威的な意味合いがある。黒の革手袋でデザインは儀礼に則ったものだから、変化に乏しく特に頭を悩ませる事はない。

 女性用の装飾品は格上の貴族の茶会などに参加する場合、御守りとして身につける事が多いらしい。ゲラニウムはサイデルフィア家の象徴花である。つまり『サイデルフィア家の身内ですよ、舐めた真似はしないでね』と牽制の役割を果たす。


 確かに実家の義母や異母姉の茶会を見ていた時、招いた弱小貴族を小馬鹿にしたりする場面はあった。まだ若い令嬢や奥方が強い気持ちでいられるなら、いくらでもサイデルフィアの名前を利用してくれていいとアミィは思う。


 王都の一等地の装飾品店にオズワルドは迷いなく入店した。煌びやかな店内は眩しい。サイデルフィア家が古くより利用している店なので、店長が恭しい態度で迎えてくれる。


 城下町を駆け回っていたアミィも、自身に無関係な高級店が並ぶこの通りには足を踏み入れた事がない。広い道路を歩いている人は少なく、豪華な馬車があちこちに停まっている。庶民感覚のアミィは場違い感が半端なかった。


 革手袋の刺繍のデザインを決めるのは領主。女性の装飾品は領主夫人が決めるらしい。


(ううっ……困ったわ……。予算を超えていいって言われても、値段の見当がつかない!)


 つい隣に座るオズワルドの袖を引く。


「オズ様、一緒に考えてください。センスに自信ないので……」


「……俺も当てにならんぞ」


 顔を見合わせた二人が期せずして同時に接客担当者を見た。彼女は一瞬身を強張らせたが、こほんと咳払いした後、「ブローチとか髪飾りとかが無難ではないでしょうか」と水を向ける。


「あー、確か母さんの時がブローチで、青メノウにゲラニウムの群生を彫って枠は飾り金だった。ばあさんの時は淡い青紫のジェイメルシルクにゲラニウムの花柄を織り込んだストールだった」


「まあ、それは貴重ですわね」


 店員が思わず感嘆の声を上げる。どちらもジェイメルで作った物だと分かったようだ。


「他国に嫁入りだから、母国の資源と技術を示したかったんだろうな」


 何でもないように語るオズワルドに、アミィは「後ろ盾のない私には無理ですよ……」と眉尻を下げた。


「別に嫁入り支度品じゃない。サイデルフィア家から金は出ている。ただ、ジェイメル色を出したかったんだろうね。宝物庫に歴代記念品があるよ。帰ったら案内しよう」


「はあ……」


 それは単にサイデルフィアの歴史の一部としての扱いらしい。が、そこに自分が選んだ物が保管されると思えば気が重い。下手な物を贈れないではないか。


「こう、なんか……閃いた物で……いいんじゃ、ないかな……」


 なんだ、その野生の勘に従えみたいな意見は。……夫は頼りない。だが店員に参考を聞きまくっても仕方ない。


「閃いたので、チャームネックレスにします」


「え? そんな気乗りしない言い方で、 ほんとに!? 投げやりすぎないか?」


 抑揚のない口調のアミィに、オズワルドは彼女が思考を放棄したと思った。


「失礼ですね。まあ頭に浮かんだのが兵士の認識票だったんですが。金のネックレスにゲラニウムの花の形のチャームがいいかと」


「戦死時に身元が判るようにって識別するアレだろ!? なんでそんな物騒な物が頭に浮かぶんだよ!」


 髪飾りにブローチみたいな小物系だとやっぱりネックレスあたりか?と考えた時、トパーズの認識票を思い出しただけである。麻紐に鉄製の無骨な長方形のタグを通して首にかけていた。


(そういや死体はどうなったんだろう。あの戦況下ではカイマール様が埋めてくれる余裕もなかっただろうし、多分野ざらしかな。えーと、それは今、どうでもいいか)


「旦那様! 淑女にとって夜会や茶会など戦場と同じなのです!」

(呼ばれないから参加した事なかったけどね)


「弱者は侮られるものなのです!」

(せっかくの力説なのに、胡乱な目で見てるわね)


「戦場に赴く者は戦士!」

(おっ? オズ様の目がぱっちりと! 心に響いた?)


「……そうか、君は騎士団を知っている。そこからヒントを得たんだな」


 アミィが騎士団で仕事をしながら稽古をつけてもらっていたと知るオズワルドは、妻の発想の原点がそこにあると結論付けて、すっきりしただけだ。別に心に響いて目を見開いた訳ではない。


「確かに男は商談なんかで足元を見られたりもするし、結構えげつない駆け引きとかあるから、上辺だけの会話で済む夜会は別にどうって事ないけど。確かに女性はマウントの取り合いで大変だと聞いたな。確かに戦場かもしれん」


「納得していただけてよかったです」


 夫婦の会話についていけず唖然としていた店員が「その方向でお決まりですか」と愛想笑いをする。


「ええ、チャームは大きくない方がいいと思うの。むしろ他の物との重ね付けの邪魔にならない感じで。花びらの青紫の石はこれがいいわね。チェーンの形と大きさはこれくらいで石座も金」


「石はタンザナイトで金のオーバルリンクチェーンですね!」

 あれこれと商品を指差すアミィの要望を、店員が形にしたデザイン画がやっと完成した。アミィは細かい指定はしない。本職に任せた方が良いと思うのだ。


 オズワルドとアミィは大仕事を終えて、ようやく安堵した。

 明日、領地に帰る。


「使用人たちへのお土産は何がいいですかねえ」

「日持ちするショコラや焼き菓子みたいなのがいいんじゃないかな」

「それならオススメの店があります。行きましょう」


 あとは仲睦まじく買い物を楽しんだ。



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