――――第39話――――
そして、顕覧会の日がやって来た。
王都大聖堂。その荘厳な佇まいを正面に捉える前庭には、多くの人が集っていた。
快晴の空の下、軽食の載ったテーブルが並ぶ合間で、皆めいめいに談笑を交わしている。
その全員が、高貴な身分にある者たちだった。
「おや、これは珍しい。かのロドガルド辺境伯がこのような場に顔を見せるとは」
「噂は耳にしておりますよ、ゼノル卿。まさか、あの聖女様を伴侶に選ばれるとは」
「シルラナ殿下との縁談を蹴られてまで教団と距離を縮めるとは、いささか驚きました。ここだけの話……何かあったのではありませんかな?」
情報や伝手目当てに言い寄ってくる下級貴族たちを、ゼノルは適当にあしらっていく。
会場を見回すも、ロドガルド家と関係が近い家の関係者は来ていない。ほとんど関わりがないか、もしくは敵対関係にある貴族ばかりだった。明らかに、招待客が選ばれている。
ゼノルにとっては、完全な敵地も同然だ。
「……」
ゼノルは、無言で空を振り仰ぐ。
大聖堂の上空には――――鋼の竜が、悠然と飛行していた。
◆◆◆
「あ、あなたは……!」
客人の姿を見たスウェルスが、驚いたように目を見開く。
そこに立っていたのは――――上級神官のダグライだった。
スウェルスは混乱したように、ゼノルに言い募る。
「ゼノル様、これはいったいどういうことですか? なぜ顕覧会に向けた作戦会議に、ダグライ殿が同席を?」
名を呼ばれたダグライは応接室に入室すると、混乱するスウェルスを見て、次にテーブルの上の謎の機械と小汚い白衣姿のトレヴァーを見て、眉をひそめて口を開く。
「私は、ゼノル卿に呼ばれて参りましたが……これは今、どういう状況なのでしょうか?」
「騒がしくてすまないな、ダグライ殿」
ゼノルが口の端を吊り上げて答える。
「まずは気にせずかけてくれ。トレヴァー、調整が済んだならどいていろ」
困惑気味に、ダグライは応接室の椅子に腰掛ける。
同様に、ゼノルも長椅子に座った。
二人の間にあるテーブルには、車輪状の謎の機械が置いてあって明らかに邪魔だったが、ゼノルは気にせず口火を切る。
「先ほどスウェルスがちらと言っていたが、今日設けたのは顕覧会の当日、オレがいかにしてラニスとの婚約を破棄するか、その作戦について話し合う場だ」
聞いたダグライは、わずかに視線を鋭くする。
「……。それならば、私がいては問題があるように思われますが」
「いいや。逆だ」
ゼノルが不敵に笑って言う。
「顕覧会での婚約破棄は、貴様らにとっても望ましいものとなる。互いの目的を果たすため、協力し合えると思ったから呼んだのだ。教団とロドガルドとで、わざわざいがみ合う必要などない。手を取り合おうではないか」
「……まるで、我々の目的がわかっているかのようにおっしゃいますな」
「無論だ。その程度の推理、オレには造作もない」
「仮に、その推理が正しかったとして……我々が卿の手を取るメリットはあるのでしょうか」
ダグライが冷徹に言う。
「ラニス様とゼノル卿の婚姻が成れば、我々としては望みが果たせます。それがまず叶うであろうこの状況下で、わざわざ卿におもねる必要性が見当たりませんが」
「ふっ。すでに望みを果たした気分でいるとは、オレも甘く見られたものだ。さすがに気が早いと言っておこう。それにだ。仮に今回の縁談が強行された場合、今後、オレの教団への態度はそれなりのものとなる。それでも最悪な状況を回避できるならという考えのもと、今回の策に踏み切ったのだろうが……ここは再来年には大教会が建つ地だ。その領主と良好な関係を保てるのならば、保っておきたいのではないか?」
「……たしかに」
ダグライが目を閉じて言う。
「おっしゃるとおりです。我々は決して、卿と敵対したいわけではございません。最初の訪問でラニス様との婚姻を快く受け入れてくださることが、一番望ましい形でした」
ダグライが視線を上げて問う。
「一つお聞かせください。本日、私一人を呼ばれたのは……ゼノル卿の協力できる相手が、あくまで教団だからということでしょうか。ラニス様と利害を一致させられる見込みはない……と?」
「ふっ……やはりあの女の目的は、貴様らとは別のところにあるようだな」
ゼノルは不敵に答える。
「奴とも協力できんことはない。だが……事情を考えると、教団よりもあの女の方が必死であろうからな」
「……!」
「まだオレが大きく不利なこの状況下では、交渉にならんと思っただけだ。話し合いの成立しそうな相手を呼んだにすぎん」
「……そう、でしたか」
ダグライは静かにそう呟くと、ゼノルに正面から告げる。
「それでは、ぜひ聞かせていただきたく存じます」
「ふっ」
ゼノルは軽く笑う。
「ならばまずは、ことの起こりから整理していこうではないか」




