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冷血貴族の婚約拒絶録 ~オレは絶対に、結婚などしない~  作者: 小鈴危一
二章 聖女編

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――――第34話――――

 それから数日後。


「そろそろ、顔を見せる頃なのではないかと思っていた」


 ゼノルの言葉を、正面に座るヤマラは貼り付けた笑みで聞く。

 この日応接室で迎えたのは、久しぶりに訪れた、聖女の信奉者たる上級神官の女だった。


「大変なことになっているとうかがいましたので」


 内心の読めない口調で、ヤマラは言う。


「今こそ力をお貸しするべきと思い、馳せ参じた次第でございます」

「ふん……大変なことか。まったくもってその通りだ」


 ゼノルは足を組みながら、鷹揚に言う。


「盗賊が攻めてくるだの、異民族が攻めてくるだの、領都に根も葉もない噂が流れたと思ったら、慈悲深き聖女殿がずいぶんと張り切ってしまわれてな。おかげでオレの立場がない」

「心中、お察しいたします」

「いや、そんなことはどうでもいいのだ。オレが心を痛めているのはなにより……今、この街を混乱に陥れようとしている輩がいることだ。暴動を煽るかのように商店を襲い、オレの兵力を見極めようとこそこそ動いている。この愚物には、目にものを見せてやらねばならん」

「それはそれは……」


 ヤマラが笑みを浮かべてまま、同情するように言う。


「領主の威光が揺らげば、民も野放図に振る舞い始めると聞きます。聖女様とダグライの企みのために、ゼノル卿も大変な苦労を……」

「貴様だろう? 上級神官殿」


 突然の糾弾にも、ヤマラの笑みは揺らがなかった。

 ゼノルは女神官に、凍てつくような眼光を向けながら続ける。


「オレの民の振る舞いではない。聖女殿も、街の混乱は望んでいない。では暴動が起こり、ロドガルド家当主と聖女の縁談がご破算となり、領都が滅茶苦茶になっても望みを果たせるのは誰か――――貴様以外にはいまい」

「……まさか。そのように恐れ多いこと、身に覚えがございません」

「しらを切るならそれでもかまわん。即刻、我が領地から退去願おう。貴様の顔を見ることは二度とないだろうな。街の混乱は……大変不本意ではあるが、要求通りに聖女殿を妻に迎え、収めるとしようか」

「…………ふふ」


 ヤマラの笑みの形が変わった。


「そのようなこと、あっていいはずがありません。聖女様はいずれ……聖皇として、教団の頂点に君臨されるべきお方なのですから」

「……」

「何者かに嫁ぐなど、言語道断。真の聖女となるためにも、聖女様には清らかで崇高なる存在であっていただかなくては……たとえ、どんな手段を使ってでも」

「ふん」


 ゼノルが鼻を鳴らして言う。


「その手段とやらの中には……聖女の志願兵を装って兵舎や詰所を襲い、オレとラニス殿を決定的に決裂させることで、婚約の要求自体を不可能にしてしまう。そのようなものも含まれていると解していいな?」

「……」

「はっ。ずいぶんと敬虔で、恐れ知らずな神官殿もいたものだ。いや、あるいは……権力欲に取り憑かれた俗物というべきか? 聖女を執拗に祭り上げるのも、どうやら信仰心のためではなさそうだ」


 ヤマラの笑みは揺らがない。

 ゼノルはますます眼光を鋭くして続ける。


「しかし、貴殿はどうも先に目を向けるばかりで今がおろそかになっているように見受けられる――――オレに剣を向けておきながら、無事に帰れると思っているのか?」

「ええ」


 ヤマラは笑みを崩さない。

 その目をわずかに見開きながら言う。


「なぜなら、ゼノル卿は知りたいのではございませんか? 聖女様が使う、神器の詳細を」

「……」

「元々許さぬおつもりだったのならば、来訪など待たず私のもとに兵を向けていたはず。交渉の余地はあると推察いたします。『針』はこれまで選ばれた者のいない、世間にその素性が知られていない神器。私から聞き出す以外に、知る方法はございません」

「……」

「手を結びましょう、ゼノル卿。協力して聖女様との縁談を首尾良くご破算とできれば、我々が領都を混乱させる必要もなくなります。なにより……ゼノル卿自身、婚姻など望んでいないのではありませんか?」


 張り詰めた空気の中、両者の視線が交錯する。

 だが、やがて――――先に目を伏せたのは、ゼノルの方だった。


「……いいだろう。貴様の手を取ってやろうではないか」

「ご英断、感謝いたします」


 にこにこと礼を言うヤマラに、ゼノルは忌々しげに言う。


「貴様の身の安全は保証してやる。以後、余計な真似をしない限りはな」

「ええ、約束いたしましょう」

「では、さっさと話せ。『針』とやらの詳細を」


 ヤマラはうなずくと、一拍置いて話し始める。


「あれは実のところ、『聖剣』のように武具を操る神器でも、竜を形作る神器でもありません――――磁力を操る神器なのです」

「磁力だと?」

「ええ。『針』は近年に教団が入手した神器ですが、ずっとただ鉄を引き寄せるだけの低級神器と見なされてきました。実際選ばれていない者が使用しても、その程度の権能しか示しません。聖女様だけが、その力を自在に操れるのです」

「では、あの竜の姿は」

「聖女様が、自らの意志で作り上げたものでしょう。聖女様と言えど、相当に修練を重ねたことでしょうね」

「……なるほど、やはりか」


 ゼノルは考え込むようにして呟く。


「おおむね予想通りだったと言えるが……しかし、磁力とはな……」


 辻褄は合っていると言えた。

 弓や革製の防具を買いあさられていなかったのは、強度などの問題ではなく、鉄が使われていなければ操れなかったからなのだ。


 ゼノルは磁力についても、ある程度は知悉していた。それは幼い頃から博物学の本を読みあさっていたためでもあるし、トレヴァーという学者を食客として抱えているためでもある。

 じっと物思いに耽るゼノルに、ヤマラが軽い調子で言う。


「とはいえ、『針』の権能がわかったところでどうしようもないものと推察いたします。そこで、ご提案が」


 無言で顔を上げるゼノルに、ヤマラが笑みとともに告げる。


「聖女様とダグライの企みを挫くための策を、いくつか考案して参りました。きっと卿にも気に入っていただけるものと存じます」

「いや、不要だ」


 ゼノルはにべもなく断る。


「すでに奴らへの対抗策は思いついた。礼を言うぞ」

「……ゼノル卿。私たちはつい先ほど、協力関係を結んだはず」

「わかっているとも。だが奴らに挑まれたのはこのオレだ。実行する策はオレが決める。それが道理だろう」

「……。しかし……」

「どのような策であれ、オレが縁談を断れるのならばそれで問題あるまい? 我々は目的を同じくしているのだ。そう案ずるな」

「……」

「無論、『針』の詳細を伝えただけで、貴様の仕事が終わったわけではない。もう一つ、教えてもらおうではないか」

「それは、いったい……?」


 やや困惑の気配を見せるヤマラに、ゼノルは本命となる問いを投げた。


「あの女が常に使用している、ある神器についてだ」

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