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冷血貴族の婚約拒絶録 ~オレは絶対に、結婚などしない~  作者: 小鈴危一
一章 公爵令嬢編

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27/88

――――第27話――――

「うれしいですわ、ゼノル様。ようやく、素直になってくださって」


 屋敷の応接室。

 そこには、すでに三度目の訪問となる、従者を伴ったレイシアの姿があった。

 あの後、ゼノルが婚約を受け入れる旨の返事を送ったところ、さらなる返信にてレイシアが屋敷へ向かう旨を伝えてきたのだ。

 その場で、正式に婚約を交わそうと言って。


「ここに至るまでに、いったい何度振られたことか。ふふっ。ですが、それも今この瞬間に報われます」


 レイシアはあくまで、しとやかな令嬢然とした笑みを浮かべている。


「念のためにお訊きしますが、わたくしとの婚約を受けてくださる……ということでよろしいのですわね、ゼノル様」

「……ああ」


 長椅子に深く腰掛けたゼノルは、仏頂面で答える。


「それでいい。背に腹は代えられんからな」

「では、あらためて誓ってくださいませ」


 レイシアがにっこりと笑って言う。


「わたくしを妻に迎え、生涯にわたって愛する……と」

「……ああ。誓おう」

「ダメです。きちんとご自分の口から、今申し上げたことをおっしゃってください」

「…………チッ」


 忌々しげに舌打ちをし、仕方なくゼノルは言う。


「貴様を妻に迎え、生涯にわたって愛すると誓おう。これでいいか」

「はい、たしかに。ではわたくしも同様に誓いましょう。文言は省略しますね」


 自分ばかり簡単に済ませたレイシアが、口元に指を当てながら言う。


「調べたのですけれど、婚約には正式な作法というものがないそうです。これだけ広く行われていながら、意外にも各々のやり方で済まされてきたようでして。書面の形も検討しましたが……そこまでする必要もないでしょう」


 レイシアが従者たちを見回しながら言う。


「あなたたちが証人です。いいですわね」


 従者たちがうなずく。

 レイシアは次いで、ゼノル側の使用人であるスウェルスにも目を向ける。


「そこのあなたも。よろしいかしら?」


 スウェルスは、ためらいながらもうなずいた。

 レイシアが満足そうに微笑む。


「はい、これで正式に婚約となりました。はあ、ここまでとっても長かったですわ」

「……気分はどうだ」

「はい?」


 ぽかんとするレイシアを、ゼノルは睨みつけるように言う。


「オレを屈服させ、ふざけた台詞を吐かせた気分はどうだと訊いている」


 聞いたレイシアは、何度か目をしばたたかせた後……やや申し訳なさそうな笑みを浮かべた。


「ここまでした以上、信じてはもらえないかもしれませんが……わたくしは、周りの人たちには笑っていてほしいと思っていますわ。ゼノル様、あなたも例外ではありません」

「策謀で人を嵌めておきながら、よくもそんなことが言えたものだ」

「でも、本当です。しかし……これからは言葉ではなく、行動で示すことにしましょう。夫婦になるのですからね」

「……」

「ゼノル様。たとえこんな経緯でも、わたくしを妻にしたことを決して後悔はさせませんわ」


 レイシアは、少し寂しげな笑みとともに言う。


「為すべきことが済んだあかつきには……すべてをお話しすることも、約束しましょう」

「いらん」


 ゼノルは冷たく言い放つ。


「偽りの誓いで結ばれた妻の過去語りになど、興味はない」

「……そうですか」


 感情の読めない微笑みとともに、レイシアが言った。


「ではもう少しばかり、あなたの屈服した顔を鑑賞するとしましょうか」


 レイシアが長椅子を立つ。


「一ヶ月後、学園で生徒たちが参加するパーティーが開かれます。ゼノル様、あなたもそれに顔を出してください。学籍を残している以上、参加する資格はあるはずです」

「……なぜだ」

「そこで、わたくしたちの婚約発表を行います」


 レイシアは、すでに笑みを消していた。

 無情にも告げる。


「参加する生徒たちが聞けば、ほどなくして貴族社会全体に知れ渡ることとなり、この婚約は周知の事実となります。あなたが何を企んでいようと、それでもう後には引けなくなるでしょう」

「……ふっ、一ヶ月か。ずいぶんと時間をくれるのだな」


 ゼノルは、それでも笑っていた。

 自らを見下ろす美姫へ、貫くような視線を向ける。


「それとも……公爵の承認が、それほどまでに得難いか」

「……」


 レイシアの目が、無言のまま細められる。


「……関係ありません。もしそんなものに期待しているのなら、愚かと言うほかありませんわ。一ヶ月、どうぞ好きにお過ごしください。足掻けるだけ足掻いて満足したならば……パーティー会場でもう一度、誓いの言葉を叫んでもらいましょうか」

「いいだろうレイシア。だが、オレが勝ったならば――――」


 酷薄にも映る笑みとともに、ゼノルは言う。


「――――同じ場所で、貴様が吠え面をかくことになる」

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