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ティルナノーグの冒険者  作者: 有機エリー
四章 王都 リグブレス 後編

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第96話 騒がしい朝

 翌朝、窓から差し込む柔らかな光に促され、キョウヤはゆっくりと目を覚ました。

 上体を起こして横を見ると、既に着替え終えて椅子に座っているミレイの姿が目に入る。

 彼女はこちらに気付き、口の前でそっと人差し指を立てた。どうやらクロエはまだ眠っているようだ。


「うぅん……先輩、駄目ですよ……」


 寝息の合間に漏れる、甘えたような声。

 音を立てないようにテーブルに着くと、そんな妙な寝言が耳に届いてきた。


「起こした方がいいんじゃないか……?」

「もう少し寝かせてあげたら? あなたの夢を見ているみたいだし?」


 小声でミレイに提案するが、拒否された上に悪戯っぽい笑みが返ってくる。

 夢の中の自分は何をしているのだろう。盗み聞きをしているようで非常に気まずい。


「先、輩……優しく、して……」


 我慢の限界だった。彼女を叩き起こそうと立ち上がると、即座に相棒が目の前に立ち塞がった。


「眠っている女の子に近付くなんて、デリカシーに欠けるんじゃない?」

「君が起こしてくれるなら、俺は干渉しない」

「あと五分くらい待ってあげようよ」

「長すぎる。どいてくれ」


 断固として通そうとしない彼女と取っ組み合いになる。

 なんとか押し退けようと力を込めた瞬間に足がもつれ、二人して倒れ込んでしまった。

 寸前のところで床に手をつくが、真下には仰向けになったミレイがいる。まるで押し倒したかのような体勢だ。

 最悪なことに、騒音に気付いたクロエは飛び起きていた。状況を把握した彼女の顔が引きつる。


「……先輩、まさか無理やり――」

「待てクロエ、誤解だっ!」


 三人で迎えた朝はとても騒がしかった。

 しばらくの間、少女二人のゴミを見るような冷たい視線は収まる気配がなかった。





《リグブレス》北門を抜け、街道を左折して脇道に入り、縦断する川に架けられた橋を渡る。

 丘の上に建てられた王城の北側を迂回する形で歩を進めると、やがて王都西部の広大な景色が見えてくる。

 一際目を引くのは遠くに屹立する深緑の山。今回の目的地である《プリスティ霊山れいざん》だ。


「わぁ、綺麗な草原……!」

「ここは《リリーフ平原》ですね。救済と葉っぱ、二つの意味が込められているそうですよ」

「なるほど……クロエは物知りだね」

「ふふ、わたしもそれなりのゲーム経験者ですから」


 ミレイとクロエは数歩後ろを歩きながら楽しそうに言葉を交わしている。

 王都の西側は長閑な草原地帯が広がっていた。陽光に照らされた緑が煌めき、風が吹けば草の音と香りが五感を刺激した。

 幻想的な光景だったが、残念ながら感慨に耽る暇はないらしい。角が発達したヤギを模した魔物を目が捉えた。


「前方、《アサルトゴート》が二体だ。クロエ、いけるか?」

「合わせます。いつでもどうぞ」

「頼んだ!」


 キョウヤは左側の個体に向けて疾走し、クロエがもう一体の方へ駆けていく。

 二人はV字を描くような軌道で仕掛ける。これなら交錯して乱戦になる心配はない。

 敵の突進を横に躱しつつ水平斬りを繰り出せば、確かな手応えとともに血飛沫が舞う。


「ミレイさん、お願いします!」


 反対側では少女たちが見事な立ち回りを見せていた。

 華麗に攻撃を受け流して後退するクロエに合わせるように、ミレイの《ライトスフィア》が着弾。その機を逃さず両手剣が振り下ろされる。

 無駄のない連携を目にして、危うく自身の敵の存在を忘れるところだった。


 こちら側のヤギは様子を見るように距離をとっていた。こういう時、これまでは接近するしかなかったが、今は違う。

 左手で生成した火球をぶつけると魔物が燃え上がる。攻撃魔法がまともに使えるようになったのは大きい。

 歓喜で身体が震えたが、慌てて頭を横に振った。これは魔女から与えられた力にすぎない。


「思い上がりは危険だ」


 自分を見失ってしまえば闇に呑まれる。強い意志を持って抗わなければ。

 一人呟いていると、再び向かってくる影があった。単純すぎる攻撃は既に見切っている。

 キョウヤが再び剣を振るった時、その魔物は二度と動かなくなっていた。


「お二人とも、やっぱり凄いですね」

「クロエもいい動きだった。相当練習したんだな」

「うん、わたしから見ても完璧だったよ」


《オルストリム》で別れて以来の戦闘だというのに、味方の動きをよく見ていた。

 クロエは周囲に合わせるのが苦手だったが、しばらく会わないうちに克服したようだ。

 元々ランク以上の実力があると評価されていたのだから、彼女の存在はこの上なく頼もしい。


「これなら《プリスティ霊山》も問題なさそうだな。先を急ごう」

「ええ……? せっかく素敵な景色なんだし、焦らなくてもいいんじゃない?」

「子供の遠足じゃないぞ。そういうのは別の日にしてくれ」

「クロエとパーティを組めるのは今日だけだよ」


 よほどクロエのことを気に入っているのか、ミレイは不満げに食い下がってくる。

 そうしたいのは山々ではあるが、まだまだ先は長い。あまりノロノロと歩いていると、日が沈むまでに帰れなくなってしまう。


「ミレイさん、《フリーダム》の皆さんには後で相談してみますから、今は我慢しましょう?」

「むぅ、あなたがそう言うなら」


 クロエが優しく言い聞かせ、ようやく話が収まった。これではどちらが年上か分からない。


 それから数回の戦闘を経て、三人は山の麓にある村に辿り着いた。

 ここまで二時間前後かかったものの、まだ昼前だ。時間的には問題無いだろう。

 予想通り山の入口には見張りがいたが、冒険者カードを提示するとうやうやしく道を空けてくれた。


「よし、行くぞ!」

「おおー」

「お、おぉ……!」


 奮い立たせるため声を上げると、ミレイとクロエの間の抜けたような返事が響く。

 気が緩んでいるのか落ち着いているのか判断がつかず、キョウヤは思わず苦笑いを浮かべた。

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