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ティルナノーグの冒険者  作者: 有機エリー
四章 王都 リグブレス 後編

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第95話 明日に向けて

 ミレイ、クロエと談笑しながら、キョウヤはいつ次の話を切り出すべきか迷っていた。

《フリーダム》の面々の前では、魔神の勢力の全容を明かすことができなかったのだ。

 これはクロエ自身にも関わる内容であり、彼女はショックを受ける可能性が高い。


「クロエ……《夢の旅人》は覚えているか?」


 会話が途切れた瞬間、意を決して口に出す。それはゲーム時代、クロエと出会うきっかけになったチームだ。

 だが、己の過ちが一因となって崩壊し、その内のメンバーの一人はこの世界で敵対者となっている。


「……もちろん、忘れるはずないです」


 苦い記憶が引き出されたのか、彼女の表情に影が差した。

 本当は蒸し返したくなかったが、伝えないわけにはいかない。共に行動する以上、嫌でも巻き込まれる可能性はあるのだから。


「そうだよな。あの時は申し訳なかった」

「違います! 先輩はただ初心者の方々の要望に応えていただけで、彼らが増長して和を乱しただけです! 先輩を非難する方もいましたが、そんなのおかしいですよ……ッ!」

「だけど、俺がしっかりしていれば――」

「キョウヤ、またその話? いい加減にしないと怒るよ」


 クロエに物凄い勢いで否定される。その上、ミレイからは遮るように叱責が飛んできた。

 沈黙が落ちる。何を話せば良いのか分からなくなり動揺していると、彼女は続けて口を開いた。


「過去を悔やんでも仕方ないでしょう? 今この世界で起きていることを伝えないと」

「……悪い。その通りだ」


 深呼吸して心を落ち着かせる。相棒の言う通り、この先に繋がることを共有しなければ意味がない。


「リベルさんたちには謎の勢力としか伝えられなかったけど、奴らは魔神と関わっている可能性が高い。それから、少なくとも転生者が二人は紛れていた」

「魔神、ですか。物騒な感じがしますね」

「まだ全容は掴めていないけどな。その中に、かつて仲間だったラージュというプレイヤーがいる」

「あのラージュさんが……?」


 クロエの目が丸くなる。信じられないとでも言いたげだった。

 シルヴァンと同じく、ラージュも元々はゲームを楽しんでいた人間。

 同じチームに所属していたのだから、関わりがあってもおかしくはない。


「知っているのか?」

「何度かお世話になりました。とても優しい方だった記憶があります」

「そうか。ラージュは俺のせいで……じゃなかった。俺たちに殺意を向けてきたことがあるんだ」


 口が滑った瞬間にミレイに睨まれたため、軌道修正する。

 クロエは黙って耳を傾けていた。話には続きがあると悟っているのだろう。


「それからもう一つ。俺は正体不明の女から闇の力を埋め込まれていて、いつ暴走するか分からない状況だ。もし一緒に行動するなら、君にも危害が及ぶ可能性がある」

「そうですか。分かりました」

「……冷静だな」

「いえ……正直なところ、不安は拭えません。でも、わたしの知らないところで先輩やミレイさんが傷付くのはもっと怖いです」


 クロエは物憂げな表情を浮かべたが、怖気づいてはいない。

 一度目を伏せたかと思うと、次の瞬間にはその青い瞳に覚悟が宿っていた。


「ですから、私も連れていってください! お二人の盾になりますので!」

「君の武器は両手剣じゃなかったか?」

「あ、えっと……では、剣になります!」


 わざわざ丁寧に言い直す彼女がおかしくて、つい吹き出してしまう。

 見守っていたミレイも忍び笑いをしている。クロエは視線を避けるように顔を両手で覆ってしまった。


「共有するべき情報はこれで全部かな」

「そうだな。そろそろ解散するか?」

「うーん、わたしはもっと話したいかな。ねえクロエ、一緒に浴場に行かない?」

「え、ええ……!? 三人で、ですか……?」


 ミレイが何やら突飛なことを言いだした。クロエはクロエで変な勘違いをしている。

 住宅街の近くには公共浴場があり、ここに住むようになってから何度か利用したことがある。

 貴重な施設であるため値は張るが、中級冒険者となった今ならそこまで痛い出費ではない。


「男湯は別だから心配しなくて大丈夫だよ」

「ええと、それでも恥ずかしいというか……」

「わたし、クロエと沢山お話したいの。駄目かな?」

「うっ……わ、私もしたい、です……」


 クロエは押し切られてしまった。ティアナにも流されていたが、控えめな彼女の試練はもう少し続きそうだ。

 二人が仲良く湯に浸かっている姿が目に浮かび、キョウヤは慌てて邪な考えを振り払った。





 その日の夜、自宅ではルームウェアに着替えた少女たちが未だ話し込んでいた。

 クロエは宿に戻らず、ミレイが持ち合わせの服を貸したようだ。それはつまり、そういうことである。


「ミレイ、なんのつもりだ」

「ん、明日は朝一で出るんでしょう? だから泊まってもらおうと思って」

「どういう流れでそうなったんだ。あまりクロエを困らせるな」

「クロエは同意してくれたよ」

「は、はい。すみません、お邪魔します……」


 この一日で更に親睦を深めたのだろうが、それでもミレイが強引に話を進めたのは想像がつく。

 彼女が柄にもなく浮かれているのは、元の世界で友人に恵まれなかったからだろうか。


「俺が床で寝ればいいのか?」

「わたしたちが一緒に寝るから、あなたはいつも通りでいいよ。それよりどうかな。クロエに貸した服、似合うと思わない?」


 そう言われて後輩に目を向けると、フワフワとした白い布で身を包んでいた。確かに可愛らしい。

 しかし、主に胸の辺りのサイズが合っていないのか、身体の線が浮き出てしまっている。


「……なんか窮屈そうだな」

「あぅ……!」

「キョウヤ、どういう意味……?」


 クロエが小さな悲鳴を上げ、ミレイは氷のような眼差しを向けてきた。

 元がゲームのアバターなのだから、体型を気にする必要はないと思うのだが。

 言及しても痛い目に遭いそうだったため、適当にはぐらかして寝台に横になった。


 明かりを消した後もヒソヒソと話し声がしたが、それもやがて聞こえなくなる。

 キョウヤもまた静かな暗闇に身を預けた。次の冒険に向けて英気を養うために。

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