表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ティルナノーグの冒険者  作者: 有機エリー
四章 王都 リグブレス 後編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/99

第92話 巡り巡って

《アズル地底湖》の調査から一夜明けたが、埋め込まれた力は大人しいものだった。

 洞窟では苛立つような感覚とともに闇が押し寄せてきたため、強烈な負の感情がトリガーになっているに違いない。

 ならば、それを抑制すれば良いということになる。言葉にするほど簡単なことではないが。


「キョウヤ、体調は?」

「問題ないよ。あまり気を張り詰めるな」

「そんなこと言われても……」

「少し散歩でもしよう。神殿に向かうのは落ち着いてからでいい」


 早朝に王都を発って西の山を登る予定だったが、今のミレイを連れていくのは避けるべきだ。

 彼女は寝不足なのか、時折小さく欠伸をしている。不安で眠れなかったのか、見張っていたのかは定かではない。


「分かった。着替えるから、あっちを向いていてくれる?」

「……先に外に出ているよ。家の前で待っているから安心してくれ」

「絶対に勝手に動き回らないようにね」

「子供扱いするな」


 普段は先に起きて装いを正しているミレイだが、今日はまだルームウェアを着用している。

 断じて覗く趣味などないが、同じ空間に居座り続けるのも忍びなく、気を紛らわすために家を出た。


 朝日が身を照らし、澄んだ空気が鼻孔をくすぐる。どんよりしていた昨日とは打って変わって、晴れ渡った空が広がっていた。

 王都の生活にも慣れたものだ。このまま何事もなく過ごしたいものだが、己に潜む闇を考えると心が波立つ。

 大きく伸びをしたり深呼吸して気を鎮めていると、程なくして相棒も外に出てきた。


「お待たせ。いい天気だね」

「……なんだ、その格好は」


 彼女はいつもの白いチュニックとスカート、茶色のロングブーツ姿ではなく、ケープも纏っていない。

 桜色のワンピースに目を奪われる。腰の辺りをリボンで縛っており、身体の輪郭が浮き出ている。

 露出を避けるための黒タイツは変わらないが、靴は白いショートブーツに履き替えていた。

 以前プレゼントした三日月形の金の髪飾りが、太陽の光を浴びてキラリと光る。


「都市の外に出る気はないんでしょう? わたしもお洒落はしてみたいの」

「そうか。あまり無駄遣いはするなよ」

「……感想の一つも言えないの?」

「可愛いって言われれば満足なのか?」

「むぅ……! キョウヤって本当に空気が読めないよね」


 とても可愛らしいのは違いない。だが、口にしてしまえば己の中の何かが弾けてしまう気がした。

 頬を膨らませるミレイをよそに、キョウヤは歩き始めた。しばらくの間、すぐ後ろから恨めしそうな声が響いていた。





 王都はいつも通り賑わいを見せている。多くの人々が行き交い、あるいは談笑していた。

 雑踏の中を歩いていると、チラチラと顔を向けてくる者がいる。間違いなく相棒に対する視線だろう。

 広場に向かう途中、話しかけてくる衛兵がいた。何度か言葉を交わしたことがある勤勉な少年だった。


「お二方とも、おはようございます。ミレイ様、素敵な装いですね!」

「おはよう。ふふっ、ありがとう」


 彼のストレートな賛辞に、ミレイは屈託のない笑顔を見せる。


「朝からお会いできるなんて。おかげさまで今日も頑張れます!」

「そんな、大げさだよ。いつも巡回お疲れ様。頑張ってね」

「はい! それでは失礼します。キョウヤさんも良い一日を!」


 少年は爽やかな笑顔とともに去っていき、ミレイは手を振って見送っていた。それを目にしていると、なぜか心がモヤモヤする。


「どうしたの? 難しい顔をしてるけど」

「いや、随分仲がいいんだなと思って」

「あの衛兵さんは素直だからね。誰かさんと違って」

「……悪かったな」


 ズキリと胸が痛む。素直ではない自覚はあるが、微妙な距離感を保つためには必要なことだ。

 あまり踏み込み過ぎると、心地よい関係性が崩れてしまう恐れがある。それだけは嫌だった。


「もしかして拗ねているの?」

「そんなんじゃない」

「そっか。キョウヤも意外と子供っぽいところがあるんだね」

「反転して聞こえる状態異常にでもかかっているのか?」


 こうして軽口を言い合える仲で十分だ。自分は彼女を大切に想っているし、彼女も同様なのだから。

 欲張ることはない。いつか元の世界に戻れることになった時、潔く別れを告げるためにも。


「あ、分かった。お腹が空いてるんだね。露店で何か買って食べる?」

「君は食べることしか頭にないのか」

「人を食いしん坊みたいに言わないでくれる?」

「じゃあ食べ歩きは禁止だ」

「えぇ……! 鬼、悪魔、《ハイドロスライム》!」


 意味不明な暴言が飛んできた気がしたが、適当に笑って受け流す。

 結局、その後はミレイに振り回されて露店を回っていた。食べ物を頬張る彼女の顔はとても輝いて見えた。





 その再会は突然のことだった。都市を散策していると、聞き覚えのある声が耳に入る。

 振り向いたキョウヤの目に入ったのは、《オルストリム》で親交を深めた顔ぶれだった。

 すなわち《フリーダム》の四人。そして、ゲーム時代から面識がある魔法剣士クロエ。


「久しぶりだな! 二人とも、仲直りできたようで良かったよ!」


 真っ先に話しかけてきたのは彼らのリーダー。赤みが混じった茶髪に銀の鎧を装備しているリベルだ。


「ミレイ、綺麗よ。とてもよく似合っているわ。キョウヤは相変わらずね」

「お元気そうで何よりです。お二人の時間を妨げてしまい申し訳ありませんね」


 アクアブルーのロングヘアを靡かせるアストラが相棒に称賛を送る。

 続いて、長い金髪に深緑色のローブを着たエルフ、マリウスが冗談めかして言った。

 彼らの後ろからは小麦色の肌に黒髪ショートカットのティアナが歩いてくる。


「くたばってなくて安心したよ! ほらクロエ、あんたの番だ!」


 彼女の後ろに隠れていたのはクロエ。ダークブルーのミディアムヘアに青い瞳の少女。

 紺と黒を基調とした上着と濃紺のマント、膝下の紺のスカートからは優美な印象を受ける。


「や、やっほー! 二人とも、おひさー! 元気にしてたかにゃー?」


 だが、飛び出した言葉は突拍子もないものだった。彼女はこんな性格ではない。

 愕然として口を閉ざしていると、寒い風が通りを吹き抜けていった気がした。


「クロエ、大丈夫……?」

「……頭でも打ったのか?」

「あああああっ! だから駄目って言ったでしょう! どうしてくれるんですか、ティアナさんー!」


 ミレイと共に労りの声をかけた瞬間、顔を真っ赤にしたクロエの悲痛な叫び声が響き渡った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ