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ティルナノーグの冒険者  作者: 有機エリー
四章 王都 リグブレス 後編

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第86話 再始動

 王城の会議室。一人の騎士がテーブルに肘をついて考え込む仕草を見せていた。

 円卓に着いているのは彼だけで、室内は閑散としている。そこへ近付く人影が一つあった。


「……君か。その後はどうだ?」

「やはり《光のつるぎ》は王都を去っているようです。間違いありません」

「そうか。彼らにはまだ働いてもらいたかったのだがな」


 騎士は深いため息を吐く。対する影は首を傾げていた。


「不届き者は始末されました。何をそのように思い詰めておられるので?」

「いや、気にしないでくれたまえ。引き続き情報を集めてもらいたい」

「承知しました。ルキウス殿も、どうかご無理はなさらないように」


 影は去っていく。扉が閉じられ、部屋が静まり返る。だが、騎士団長ルキウスの固い表情が崩れることはなかった。


「……やったのは彼らではない。だとしたら誰が……? いや、そんなことよりも、あの得体の知れない威圧感は……」


 彼の独り言に応える者はいない。ただ時間が過ぎ去り、夜の闇が満ちていく。





 ◇ ◇ ◇





 光が沈み、王都が徐々に静けさを取り戻していく頃。

 キョウヤはミレイと共に、《光の剣》に教えてもらった酒場に足を運んでいた。

 建物の中は往来とは異なり活気に満ちており、至る所から馬鹿騒ぎする声が聞こえてくる。


「なあ、贅沢しすぎじゃないか……」

「いいじゃない。せっかくランク4になったんだから」


 テーブルの上には結構な量の野菜と果物。それに肉まで積まれている。さすがに海産物はないようだ。

 王都は内陸部に位置しているため、交易商人から仕入れるしかない。もし頼んでいたら、数日分の稼ぎが飛んでいただろう。


「祝杯なら数日前もあげた気がするんだが?」

「それはわたしの分。今日はあなたが主役」

「別に必要ないだろう……」


 中級冒険者の試験を無事に終え、その後も小さな依頼を受けていた二人はランク4になっていた。

 ミレイが若干早く昇級した理由は、《オルストリム》で自分が閉じ籠っていた期間があったためだ。


「奢ってあげるから安心して」

「そういう問題じゃない。それに前回割り勘だったから、今回は俺が払うよ」

「へえ、それくらいの気遣いはできるんだね」

「失礼な奴」


 シルヴァンを倒してから十日以上。その間、大きな事件に巻き込まれることはなかった。

 今は魔物討伐しながら適当に稼ぎつつ、王都やその周辺の景色を見に行ったりする日々だ。

 休息を取るのは当初の予定通りではあるが、頃合いかもしれない。


「二人とも中級冒険者になったし、そろそろ情報収集を再開するか?」

「んむ、これいいね。美味しい」

「話を聞け」


 食べている時の彼女は幸せそうで何より。しかし、人の提案を無視するのはいただけない。

 そもそも元の世界に帰る方法を探すと言い出したのは彼女だ。無論、やる気がないならそれでも構わないのだが。


「聞いているよ。王都周辺に当てはあるの?」

「少し遠いけど西の山に神殿がある。かつて女神を信仰するために造られ、山の魔物が活発化したせいで放棄された。そんな設定だった」

「いかにもって感じだね。なんで今まで話題に出さなかったの?」

「ランク制限があるからな。多分見張りがいる」


 始まりの街《アルドラスタ》北部の《ロスト山地》も、ランク4未満の冒険者は立ち入りを許されていなかった。

 ランク4から6の中級冒険者と、ランク3までの下級冒険者の間には明確な実力の差があるという認識だ。

 二人とも中級冒険者として認められたため、これからは行動範囲を広げられる。


「もう少しゆっくりしてもいいかと思ったけど、キョウヤが言うなら」

「いや、俺は別に急いではいないよ」

「ううん。ずっとわたしの我儘に付き合わせるのも悪いから――」


 少し寂しそうに喋るミレイの声は、テーブルを叩きつけるような音に掻き消された。

 驚いて隣に目をやると、そこには荒くれ者のような印象を受ける男が立っていた。


「ああ!? あいつら、戻ってきてないのか!?」

「う、うん。宿にもいないし、衛兵も、記憶にないって……」


 苛立ったように足を踏み鳴らす男に対し、青年がオドオドと対応をしている。


「くそっ……だからやめとけって言ったんだ」

「精霊の怒りに、触れたのかな……」

「知るか! とにかく探しに行くぞ!」


 声の大きい男がズカズカと去っていくと、青年も慌てて追っていく。

 酒場は静まり返っていたが、やがて元通りの喧騒を取り戻していった。


「ビックリした。絡まれたのかと思った」

「俺もだよ。迷惑な客だったな……」

「それはそうと、精霊って言ってたよね。もしかして、精神の精に幽霊の霊?」


 ミレイも彼らの話をしっかり耳に入れていたようだ。予想もおそらく正しい。


「多分その通りだ。王都の北辺りに水の精霊の住処がある」

「水……ウンディーネ?」

「よく分かったな」

「えへへ。昔、気になって調べたことがあるの。人間と恋をするって話が有名だよね」


 得意げに話す相棒は可愛らしかった。彼女は前世でも好奇心旺盛だったのか、こうして知識を披露することがある。


「それにしても気になるな。ウンディーネか……」

「何、変な妄想でもしてるの?」

「……君は俺をなんだと思っているんだ。さっきの話のことだよ」


 精霊は人間や亜人とは全く違う神秘的な存在。もし交流できるなら是非とも会ってみたい。

 怒りというのも気がかりだ。ウンディーネは友好的だった記憶があるが、こちらの世界では違うのだろうか。


「少し調べてみるか」

「寄り道になっちゃうけど、神殿の方はいいの?」

「ゲームでは水魔法を教えてもらえる依頼があったからな。こっちでも力を借りられるなら、この先の旅も楽になる」

「なるほど。適性なしのキョウヤにはありがたいね」

「間違ってはいないけど、適性なしって言うのはやめろ」


 魔法の才能があるミレイにそう言われると、なんだか馬鹿にされているような気がする。

 当の彼女は何食わぬ顔で肉を口に運んでいる。突っついてやりたいところだが、ハラスメント扱いされる未来が見えた。


「とにかく、明日は情報収集だ」

「分かった。じゃあ、ちゃんと食べておかないとね」

「……結局そこに落ち着くのか」


 相変わらず相棒には敵わない。いつか絶対に鼻を明かしてやろうと、キョウヤは密かに決心した。

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