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ティルナノーグの冒険者  作者: 有機エリー
三章 王都 リグブレス 前編

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第83話 日常への回帰

 迷宮ダンジョンを脱出して石段を上ると、視界が一気に光で満たされた。長いこと陰気な空間にいたため、とても眩しく感じる。

 太陽の位置からして、まだ正午は過ぎていない。二人の少女の後ろを歩いていると、暖かい風とともに草木の香りが漂ってきた。


 やがて街道に乗ったところで、フィノアが不意に立ち止まる。振り返った彼女は、今にも泣き出しそうな顔をしていた。


「あの、キョウヤさん……本当にすみませんでした……。わたし、あなたを沢山苦しめました。どんな罰でも受けるつもりです……」

「気にするな。俺はこの通り無事だ」

「でも、それでは私の気が済まないんですっ……!」


 灰色の瞳を潤ませながら懇願され、つい気後れしてしまう。ミレイは黙っているだけでフォローを入れてくれない。

 一息つけると思っていたのに難題を押し付けられて、途端に悪戯心が湧き上がった。


「本当に、なんでも受け入れるんだな?」

「えっと、その……はい……」

「ちょっと、キョウヤ……何を考えているの!?」


 薄笑いを浮かべて口を開くと、フィノアはビクリと震えた後、おずおずと頷く。ミレイは慌てた様子で詰め寄ってきた。予想通りの反応だ。


「どうした、ミレイ。俺がいかがわしいことでもさせると思ったか?」

「――ッ! そんな顔で言ったら、フィノアが怖がるでしょう……!」

「図星か。何をさせると思ったんだ」

「……知らない」


 顔を赤らめてそっぽを向く彼女の反応が面白く、思わず忍び笑いしてしまう。フィノアも釣られるように微笑んでいた。


「そうだな……。じゃあフィノア、一つだけお願いを聞いてほしい」

「は、はい……」

「俺と友達になってくれるか?」


 場が凍りつく。ミレイもフィノアも呆気に取られていた。我ながら不器用だと思うが、これしか思い浮かばなかったのだから仕方ない。


「……それだけ、ですか?」

「ああ、嫌か?」

「そんなことないです。キョウヤさん……私、嬉しいです……」

「友達なんだから、かしこまらなくていい。よろしく」

「う、うん……! よろしく、キョウヤ……」


 真っ直ぐに手を伸ばすと、フィノアがそれに応えて固い握手が交わされた。 

 ようやく一段落して、空気が一層美味しく感じられる。視界の端ではミレイが頬を膨らませていたが、見て見ぬ振りをしておいた。





 王都に帰還した後は冒険者ギルドへ直行する。まずは事の顛末を伝えておかなければならない。

 シルヴァンの行方は王宮とギルドで連携して追っていると聞いている。ならば、わざわざ息苦しい王城まで足を運ぶ必要はないだろう。

 いつも通り、良き理解者であるソフィーを呼んでもらい、《カーズ地下霊園》の事件とシルヴァンの最期を報告した。


「そのようなことが……。ひとまず、皆さんがご無事で安心いたしました」


 闇の力を分け与える行為、それに《憑依ひょうい》という能力には、ソフィーも驚きを隠せず目を見開いていた。

 ちなみに魔神に関しては打ち明けていない。これは転生者に直結する繊細な問題でもあるからだ。

 世界の外側から呼び寄せられた者が悪行を働いている。真実だとしても、そのような荒唐無稽な話を口にすることはできなかった。


「フィノアさんにご確認したいのですが、闇魔法はもう使えないという認識でよろしいでしょうか?」

「はい、使えません。魔力も元通りになっています……」

「かしこまりました。この件はギルドマスターに報告させていただきます。処遇については追ってご連絡いたしますね」

「分かりました……」


 人を殺めてはいないとはいえ、シルヴァンに加担してしまったのは事実。職員の一存で決めるわけにはいかないのだろう。

 だが、ソフィーなら上手くやってくれると信じている。さすがに牢獄に放り込まれたりはしないはずだ。



 対談を終えて冒険者ギルドを出ようとすると、見慣れた四人組がこちらを見つめているのに気付く。《光のつるぎ》の面々だった。


「話は終わったか? 探したぞ」

「会う約束をした覚えはないんだが」

「午後からシルヴァンの捜索をする予定なんだ。お前の知識は役に立つし、ミレイさんの力も借りたい。暇なら同行を頼めるか?」

「あー……」


 アインスは張り切っているが、その件は既に解決している。どう返答すべきか迷ったが、手っ取り早く直球で伝えることにした。


「悪い。あいつはもう死んだ」

「はあ!?」


 予想通り、彼は素っ頓狂な声を上げた。他の三人も驚愕の表情を浮かべている。

 周囲にいた他の冒険者たちから訝しげな視線が注がれた。有名人を驚かせてしまったのだから、何事かと思われているのだろう。


「はぁ……その目、嘘ではないようですね」

「呆れた。あんたたち、また無茶をしたのね」


 リーゼとマリーのジトリとした目が痛い。素直に称賛はしてくれなさそうだ。

 アインスは口を開けて固まっていた。フリードが無言で彼の肩を揺すっている。


「……フィノアさんと和解できたのですか?」

「ああ。まあ、色々あったけどな」


 今度は隣で縮こまっていたフィノアに注目が集まる。前回彼らに会った時は荒れていたため、居心地が悪いに違いない。


「すみません……。皆さんにはご迷惑をおかけしました……」

「別に気にしてないわよ。せっかくだし、皆で食事にしない? 色々聞きたいこともあるし」

「そうですね。アインス、構いませんよね?」

「あ、うん……」


 皆が頷くと、リーゼとフリードが先頭を行き、ミレイとマリー、フィノアがそれに続いてギルドを出ていく。最後尾の隣を歩くアインスは、見るからに意気消沈していた。


「ミレイ、その髪飾り似合ってるわね。買ったの?」

「いえ、キョウヤからの贈り物です」

「……へえ、やるじゃない」


 道中、前を歩くマリーが振り返って意味深な笑みを向けてきたが、適当に流しておいた。彼女のことだから、妙な勘違いでもしているのだろう。


 その後、一行は酒場で食事をとりながら語り合った。当然、今朝の一件に対して次々と質問が浴びせられる。

 しかし、ミレイとフィノアが笑顔で丸投げしてきたため、延々と喋らされることになった。

 口を動かすのはもう懲り懲りだ。しばらくは平穏な時を過ごしたいと、キョウヤは密かに嘆息した。

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