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ティルナノーグの冒険者  作者: 有機エリー
三章 王都 リグブレス 前編

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第71話 救い出す手段

 昼下がりの冒険者ギルド。ミレイは休憩所の椅子に腰かけ、ソフィーの到着を待っていた。

 彼女は傷を負いながらも業務に励んでいるようで、しばらくすれば手が空くと他の職員から告げられている。

 ずっと一緒にいた相棒が手の届かない所へ行ってしまった。その現実が不安を募らせる。

 キョウヤは今どうしているのだろうか。焦る気持ちはなんとか抑えられても、心細さだけは振り払えない。


「ミレイさん、お待たせいたしました」


 ミレイが俯いていると、落ち着いた声が響く。顔を上げると、制服姿のソフィーが横腹の痛みを気にした様子で、テーブルを挟んで座るところだった。

 治癒魔法で傷を塞いだとはいえ、完治したわけではない。そして、怪我をしたのはミレイ自身の油断が原因だ。


「ソフィーさん、ごめんなさい……」


 最初に衝いて出た言葉はそれだった。傷を負わせてしまった上、業務中に呼び出し、更に難題を持ちかけようとしている。

 彼女には迷惑をかけてばかりで申し訳ないと思っている。それなのに、今は他に頼れる人が思い浮かばない。


「怪我のことでしたら、気に病む必要はございませんよ。もしかして、何かお困りごとでしょうか? わたくしでよろしければ、ご相談承りますよ」

「ソフィーさん……ッ!」


 ソフィーの柔らかな声音と心優しい言葉に思わず気が緩んでしまい、堪えていた感情が溢れ出す。

 弱々しい声が漏れ、全身が震える。放っておくと涙まで零れてきてしまいそうだった。


「ミレイさん、大丈夫です。ゆっくりで構いませんので、お話をお聞かせください」


 いつの間にか隣に歩み寄っていたソフィーが、膝立ちになり目線を合わせてきた。

 彼女の真摯な対応を受け、ようやく心が落ち着きを取り戻していく。


「……取り乱してすみませんでした。実は――」


 気を取り直したミレイは、これまでの経緯いきさつを順に説明していく。

 都市郊外に魔物が現れたこと、他のパーティと共にそれを討伐したこと、キョウヤが衛兵に捕まったこと。

 そして最後に、彼は《アルドラスタ》で活動していた頃から闇魔法を行使できた――そういった秘密も全て開示した。

 都合の悪いことを隠すのは公正ではないし、ソフィーはその程度で見限る人ではないと確信していた。


「……そうですか。キョウヤさんが……」


 さしものソフィーも衝撃を受けたのか、動揺を隠し切れていない。

 光と闇の力について教えてくれたのは他でもない彼女だ。光だけでも稀有なのに、闇まで身近にあるとは夢にも思わなかっただろう。


「……わたくしも、キョウヤさんが悪人だとは思っておりません。都市郊外にアンデッドの魔物が現れ、それを倒した者がいるという話も、こちらには伝わっております。彼が討伐に協力したのでしたら、その功績は称えられるべきです」


 一呼吸置いて、ソフィーは冷静に語り始めた。

 やはり彼女は味方になってくれる。打ち明けたのは間違いではなかった。


「しかし、闇の力を行使したという事実は覆らないでしょう」


 安心したのも束の間、事務的な冷たい言葉が胸に突き刺さる。


「でも、キョウヤは何も悪いことはしていません……!」

「魔物を使役する人影の話はご存じですか? 現在、王宮と冒険者ギルドは連携してその行方を追っています。そこに強大な闇の力を振るう者が現れたとなれば、疑いが深まるのは当然なのですよ」

「そんな……」

「残念ながら、冒険者が悪事を働くという例は少なくありません。ですから、現状では冒険者ギルドが動くことはできません」


 頼みの綱が切れる。唯一の希望の光が闇に覆われていく。

 護衛任務で出会った賊のように、罪人として扱われてしまうということだ。

 こんなことなら、あの場に合流する前に何が起きていたのか、帰り道で聞いておくべきだった。


「……ありがとうございました。お時間を取らせてしまい、すみませんでした」

「お待ちください」


 悲観しながら立ち去ろうとすると、ソフィーから制止の声がかかる。

 彼女は真剣な眼差しをこちらに向けていた。その熱意には抗うことができず、ミレイはもう一度腰を下ろす。


「これまでの発言は、あくまで客観的な事実を述べたにすぎません。ミレイさん……キョウヤさんを救う方法を、一緒に考えましょう?」

「……どうして、そこまで?」

「お二人には《アルドラスタ》の一件と今朝の襲撃で、二度も助けられていますから。わたくしが個人的に恩返ししたいのですよ」


 ソフィーが穏やかに言葉を紡ぐ。彼女の微笑みは太陽のようで、曇っていた心に光が差し込んだ。


「ソフィーさん、本当にありがとうございます。でも、一体どうすれば……」

「そうですね……。キョウヤさんが最初から戦っていたと仮定して、もし彼が誰かと一緒に行動していたのならば、魔物が出現した原因を掴めるかもしれません。そうなれば、疑いは晴れるはずです」


 言われて、ハッとする。アインスたちと共に駆けつけた時、キョウヤは一人ではなかった。

 フィノアと対話することは困難だけれども、もう一人頼れる女性が戦っていたのは記憶に新しい。


「……そうだ! リーゼさん……!」

「リーゼさん……? 《光のつるぎ》のリーゼさんですか?」


 さすがに名は知れ渡っているようで、ソフィーはすぐに彼らのパーティ名を口にした。


「そうです。わたしがアインスさんたちと一緒に現場に向かった時、リーゼさんは交戦中でした。彼女なら何か知っているかもしれません……!」

「でしたら、これ以上はない適任者です。彼らは王城に出入りできる数少ない冒険者ですから」

「そんなに凄い人なんですか……?」

「前にもお伝えした通り、強い光の力を持つ者は重用されることも珍しくありません。《光の剣》は王宮からの依頼もこなす特別な冒険者なのですよ」


 どうやら自分たちはとんでもない人物と知り合っていたようだ。

 そして、彼らとは夕食を共にするため、冒険者ギルドで待ち合わせる約束をしている。

 夕方まで待つ必要はあるけれども、今はこれに賭けるしかない。


「キョウヤ、もう少しの辛抱だから……」


 ようやく見えた好転の兆しに、ミレイは相棒の姿を思い浮かべながら一人呟いた。

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