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ティルナノーグの冒険者  作者: 有機エリー
三章 王都 リグブレス 前編

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第59話 再会

 冒険者たちの朝は早い。都市中央にある冒険者ギルドからは続々と出発する影がある。

 前日、キョウヤは新居に椅子や机、木箱などの家具を揃え、ミレイと共に束の間の平穏を味わった。

 今日からは再び冒険者としての生活が始まる。手始めに中級冒険者の昇級に必要な試験に挑むつもりだ。


「冒険者ギルドへようこそ! ご用件を伺います」

「試験を受けたいのですが、お願いできますか?」


 お馴染みの挨拶をする受付の女性に向け、三つの星が刻まれた冒険者カードを提示する。

 二人ともランク3になって久しい。試験に合格さえできれば、近いうちにランク4に昇級できるだろう。


「かしこまりました! 担当者に代わりますので、お好きな席におかけになってお待ちください」


 これまたどこかで聞いたことのある台詞を受け、休憩スペースの席に移動する。

 自然と人目を避けて隅の席を選びたがるのはミレイも同じようで、思わず微笑んでしまう。


 彼女と雑談を交わしていると、程なくして「失礼します」と一言、対面の席に座る職員の姿があった。

 栗色の髪を後ろで纏め、自然な笑みを浮かべている若い女性を目にして、驚きで心臓が跳ねた。


「ソフィーさん!」


 その人物は、この世界に来て間もない頃に幾度も手を貸してくれたソフィーだった。

 彼女はこちらとミレイを交互に見やり、屈託のない笑顔を見せてくれた。


「キョウヤさん、ミレイさん、お元気そうで何よりです」

「お久しぶりです」

「また会えて嬉しいです……!」


 まさか王都で再会するとは、夢にも思わなかった。

 彼女は駆け出し冒険者の指導をしていたはずなのに、なぜここにいるのだろうか。


「どうして王都に?」

「実はわたくし、本来はこちらの担当なのですよ。《アルドラスタ》には一時的に派遣されていたのです」


 問いに答えるソフィーの装いはギルドの制服ではなく、街が襲撃された時に着用していた弓使い風の戦闘服。つまり――


「じゃあ、ソフィーさんが試験官なんですね」

「はい、その通りです。本日はよろしくお願いいたしますね」


 縁があれば、再会は意外と早く訪れる。ソフィーの別れ際の発言の意味がようやく理解できた。

 自分たちがここまで辿り着くことを、彼女は予見していたのだろう。


「先に一つだけ忠告させていただきます。試験は規則に基づいて行われますので、担当がわたくしだからといって、甘い考えで挑まないでくださいね」


 厳しい言葉に反して、ソフィーの口調は柔らかなものだった。おまけにウィンクまで飛んでくる。

 冒険者を緊張させないための気遣いに違いない。相変わらず、厳格な中にも優しさが感じられる人だ。


「大丈夫です。二人とも、あの頃とは違いますから。ね、キョウヤ」

「……そうだな。俺たちはもう、護られるだけの無力な冒険者ではないです」


 ソフィーに別れを告げて以来、数々の試練を乗り越えてきた。

 一度は挫折も味わったが、その壁も乗り越えて現在の二人がある。

 試験官が彼女だというのなら、なおさら気合が入るというものだ。


「ふふ、頼もしいです。では早速ですが、試験内容をご説明いたしますね」


 ソフィーの口調が事務的なものに切り替わると、キョウヤは背筋を伸ばして耳を傾けた。





 王都の北門を抜けた先の《ブレス街道》に、キョウヤとミレイは再び足を運んでいた。

 すぐ後方には弓を持ったソフィーが控えている。彼女は基本的に戦闘を行わないが、万が一の際は即座に加勢できるように構えている。

 もっとも、救出されるようでは冒険者として話にならない。それは試験の不合格を意味する。


「あと二体だ。ミレイ、右側の奴を頼む」

「了解」


 第一の試験は街道から外れた森にいる魔物の討伐。種類は問わず十体の魔物を倒せば終了となる。

 最後に立ちはだかったのは、《キラーマンティス》というカマキリ型の魔物だ。

 黄緑色の体に大きな鎌を備えた異形の昆虫。その刃が直撃すれば、致命傷は避けられない。

 だが、死線をくぐり抜けてきた二人にとって、その程度はもはや脅威ではなかった。


 魔物が片方の鎌を振り上げたのを視認すると、その根本を剣で斬りつけながら側面へ滑り込んだ。

 鎌が地面を抉る音が響く。渾身の一撃だったのだろうが、当たらなければ無意味だ。

 体を回転させたカマキリが両脚で挟み込むような体勢をとるが、既に動きは読んでいる。

 今度は後方へ跳んで回避し、上段から頭を狙った一撃をお見舞いすると、傷を負った魔物が大きく仰け反った。


「終わりだ……!」


 がら空きの胴体へ必殺の刺突を繰り出す。確かな手応えとともに剣が敵を貫いた。

 ドサリと倒れる魔物を見て安堵の息を吐くと、先に魔物を仕留めていたミレイが駆け寄ってくる。


「キョウヤ、お疲れ様」

「お疲れ。そっちはさすがに早いな」

「素晴らしい戦いでした。キョウヤさんもミレイさんも、実力は申し分ありませんね!」


 ミレイとハイタッチを交わすと、ソフィーが拍手をしながら歩み寄ってきた。

 彼女の称賛を受け、自然と口元に笑みが零れる。ひとまず、第一の試験は合格だろうか。


「休息の後、第二の試験を始めます。先に移動しますので、わたくしに付いてきて――」


 言葉が途切れたかと思うと、ソフィーは素早く戦闘態勢に入っていた。僅かに遅れて、とてつもない悪寒が襲ってくる。

 何か得体の知れないものが、すぐ近くに潜んでいる。気配を隠すこともなく、剥き出しの敵意が注がれている。


「見つけたぞ、キョウヤ……!」


 木々の隙間から響く憎悪に染まった声が、静寂に包まれた森を切り裂いた。

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