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ティルナノーグの冒険者  作者: 有機エリー
三章 王都 リグブレス 前編

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第54話 護衛任務

《クラルミッド》の早朝。東の空では太陽の光が煌めき、どこからか鳥の鳴き声が響いている。

 まだ冷たい風が肌を刺す中、キョウヤとミレイは街の往来を急ぎ足で歩いていた。


「キョウヤ、早くしてくれない……?」

「わ、分かってるよ。急かさないでくれ」


 夜更かししていたせいで、頭がスッキリしていない。同様にミレイも眠そうな顔をしている。

 二人は宿を出て冒険者ギルドに向かっている途中だ。寝過ごしてしまったため、時間的に余裕があるとは言いがたい状況だった。


 王都《リグブレス》には、前日に受注した緊急依頼を兼ねて移動することになっている。

 内容は商人の護衛でランク制限は3、定員は十二人。報酬はそれなりであるし、大人数であれば危険も回避できて一石二鳥だ。

 二人旅というのも悪くはないが、やはり安全面を考慮するならば、この機を逃す手はない。


 ギルドに到着後、カウンターで手続きを済ませる。一応、間に合ったといえるだろうか。

 だが、既に他の冒険者たちは待機していたようで、周囲から蔑むような視線が注がれた。


「おいおい、随分眠そうじゃねえか。そんなんで護衛が務まるのか?」

「ぎゃはははは! もしかして、昨夜はお楽しみだったのかなぁ?」


 あからさまな嘲笑。これから共闘する相手にとる態度だとは思えない。

《アルドラスタ》ではソフィー、《オルストリム》ではリベルたちのおかげで変な人間に絡まれることはなかったが、実際こういった冒険者はいくらでもいるのだろう。

 ミレイは心底嫌そうな顔をした後、外套のフードで顔を隠した。あのような下品な言葉をかけられれば無理もないことだ。


 キョウヤたち以外に集まった冒険者は、六人パーティの屈強な男たちと、白いローブのフードを目深に被った怪しげな四人組だった。

 必然的に二人はローブ集団の組に振り分けられる。ミレイも白を基調とした装いであるため、キョウヤだけ仲間外れのような絵面になってしまった。


「よろしく」

「……ああ」


 キョウヤが軽く挨拶すると、ローブの中から素っ気ない一言が帰ってくる。

 これは親睦を深めるのは難しいと判断し、ミレイと共に距離をとった。


「わたし、もう帰りたくなってきたんだけど……」

「同感だ」


 これまで運が良かっただけに落差は大きい。ソフィーやリベルたちの温かさが懐かしく感じられた。

 それでも、王都に行くためには辛抱しなければならない。今更キャンセルすればペナルティが発生するというのもある。

 やむなく冒険者たちの後を追い、街の西門で依頼主の商人たちと合流した。


「冒険者の皆様、よろしくお願いいたします」


 隊商のリーダーらしき商人が呼びかけると、粗野な男たちが「俺らに任せておけばいいぜ」などと次々に豪語する。ローブ集団は変わらず口数が少ない。

 商人たちはいかにも不安げな様子を見せていたが、キョウヤとミレイが丁寧に挨拶を交わすと、いくらか緊張が緩んだのが見て取れた。

 今回の護衛対象は三台ある幌馬車だ。前方を男たちのパーティ、後方をキョウヤたちとローブ集団が随行する形で出発する。


「……あのローブの人たち、変な感じがする」

「変な感じ?」

「うん……なんだか心が落ち着かないというか」

「分かった、気を付けよう。何事もなければいいんだけどな」


 ミレイが何を感じ取ったのかは分からないが、用心するに越したことはない。

 彼女が訝しげな目を向ける先、少し離れた位置ではローブ集団が淡々と歩を進めている。

 時折短く会話を交わしているようだが、小声であるため内容は聞き取れなかった。


 ローブを纏っているため全員が魔法使いかと思っていたが、どうやらそうではないらしい。

 杖を持っているのは小柄な一人だけで、長身に大斧を担いだ者が特に目立つ。残りの二人は平均的な体躯で、剣士と弓使いだろうか。

 立派な得物に対して、杜撰な防具の選定は歪さを感じさせる。だが、素人という雰囲気ではない。

 少なくとも、前方で馬鹿騒ぎしながら歩いている男たちよりは格上だと直感が告げている。


「敵に遭遇したら共闘するんだから、名前くらい聞いてもいいだろうか? 俺はキョウヤ、向こうにいるのがミレイだ」

「答える道理はない。周囲の警戒を怠るな」


 近付いて対話を図るものの、剣士らしき男に冷たくあしらわれた。まるで氷魔法でも放たれたかのような感覚が襲い来る。

 リベルやティアナであれば食い下がるのかもしれないが、あいにくキョウヤはそれだけの話術を持ち合わせていない。


「……無理そうだな。心が抉られる」

「気にしないで。キョウヤは頑張ったよ……」


 ミレイに肩をポンと叩かれ、傷を負った心に治癒魔法が浸透していくようだ。

 彼女が隣にいてくれるだけで、どんな苦境でも乗り越えていける。それは過言ではないかもしれない。



 やがて太陽が沈み視野が狭くなってくると、一行は街道から少し外れた木々の中で野営を始めた。

 しかし、仲良く焚き火を囲むということはない。食事もそれぞれの集団で適当にとっているようだ。

 依頼主の商人たちは中立的ではあったが、あくまで依頼人と請負人という立場は崩さず、なんとなく距離を感じる。

 結局、キョウヤたちは隅の方でコソコソと過ごすことになってしまった。


 それから程なくして、商人たちが眠りにつくと、護衛の冒険者たちにも動きがあった。

 男たちのリーダーと思しき筋骨隆々の男が、ローブ集団の元へズカズカと歩いていく。


「おい、そこのローブ。見張りに立つなら先か後、どっちがいい」

「……どちらでも構わない」

「そうか。なら俺たちが先に見張る。しっかり休んで交代に備えてくれよ」

「了解」


 白ローブの剣士が応対すると、男はキョウヤたちの意見は聞かずに去っていく。

 存在を無視されているようで腹が立ったが、これは好都合だった。


「ミレイ、眠いなら無理はするなよ」

「うん。キョウヤはどうする?」

「起きてるよ。何かあったら困るからな」

「そっか……ありがとう。少しだけ、眠らせて……」


 先ほどから欠伸を誤魔化していたミレイは、間もなくして寝息を立て始める。

 キョウヤは彼女にコートを掛けると、その隣に腰を下ろして目を光らせることにした。

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