表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ティルナノーグの冒険者  作者: 有機エリー
二章 交易都市 オルストリム

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

52/100

第52話 一歩踏み出して

 静かな宿の一室で、ミレイは一つ覚悟を決めた。

 心の中に封じ込めてきたはずの記憶を、今はキョウヤに知ってほしいとさえ思えていた。


「ねえ、昔のわたしの話をしてもいい?」


 椅子に座り向き合って語ろうとしているのは、口を閉ざしてきた光怜みれいに関する話だ。

 彼もなんとなく察しているのか、これまで自ら核心に触れようとはしてこなかった。

 それはありがたいことであると同時に苦痛でもあった。抱え込んでいる感情を、いつになっても解き放つことができないのだから。


「……君さえ良ければ」

「本当に、下らないことなんだけどね」


 ミレイのことも絶対に護ると誓う。この世界で一番大切な人は君――キョウヤは確かにそう言ってくれた。仲間として友人として、その言葉には心を打たれた。

 最後に飛んできた「好きとは違う」という無神経な一言には、開いた口が塞がらなかったけれども。

 とにかく、そんな彼が絶望に打ち勝って助けに来てくれたのだから、自分も一歩踏み出したくなった。一種の対抗心なのだろう。


「付き合いが長くて、友達だと思っていた人がいたの。でも相手は違ったみたいで、逆に嫌われていたみたい。ショックで学校に行くのが怖くなって、親からも責められて……唯一の癒しが《ティルナノーグ》だった。でも、それも奪われそうになって――」

「それがきっかけで、この世界に来たんだな」


 最後までは語らせないと言わんばかりにキョウヤは言葉を被せる。

 望まない最期を迎えた者と、自ら最期を望んだ者。どこか似ているところがある二人でも、この点は正反対だった。


「うん。だから、わたしは帰りたくない。上手くできる自信がないから……」

「そうか。それも一つの選択だよ。君が選んだ道なら、俺は尊重する」


 その声音はただ慈愛に満ちていて、どうしようもなく温かさを感じてしまう。

 

「軽蔑しないの?」

「別にしないよ」

「……あなたは不本意な死を押し付けられたのに?」

「俺もミレイと同じ立場だったら、その選択をしたかもしれない。君の苦しみが理解できるなんて、口が裂けても言えないけどな……」


 キョウヤは心優しい人だ。この世界で最初に彼と知り合えたのは、とてつもなく運が良かったのだろう。


「……ありがとう。あなたに話して良かった」

「俺は何も」

「ううん。ずっと一人で抱え込んでいたから、気持ちが楽になった」

「……なら良かったよ」


 ミレイにとって、キョウヤは闇ではなく光だった。凍っていた心が溶かし尽くされてしまうようだ。

 ずっと一緒に旅をしたい。彼と一緒なら楽しく生きられる。ふと、そんな思考が脳裏をよぎった。

 しかし、それは決して許されることではない。いつかは自立しなければならない。


「キョウヤ、この世界でやりたいことは見つかった?」

「ミレイを護ること」

「……それ以外は?」

「今はないな」


 当然のように言い放つキョウヤに少々呆れつつ、ミレイは今後の方針を決定する。

 気持ちはもちろん嬉しいけれども、いつまでも甘えているわけにはいかない。彼の帰りを待っている人も居るのだから。


「じゃあ、これからは少しでもこの世界の情報を集めよう。帰る方法も見つかるかもしれないよ」

「望み薄だと思うぞ。そんな情報が転がっているとは思えない」


 キョウヤの言う通り可能性は低い。それでも、彼が帰還を望むのなら手助けをしてあげたい。

 それが友人として自分にできる最大限の行い。使命ではなく、この世界でやりたいことの一つだ。


「何か分かるかもしれないじゃない。最初から諦めていたら駄目だよ」

「でも、君は……」

「わたしのことはいいの。あなたにはちゃんと友達と再会してほしいと思っているから」


 いつか別れの時が訪れれば後悔する可能性もある。でも今はその思いを飲み込んで口を開いた。


「そうか。やっぱりミレイは強いな」

「強くなんてないし、キョウヤのおかげでここまで来れた――そう言ったでしょう。今のわたしにこの世界を一人で生き抜く力はない。だから、せめてその時が来るまでは……あなたの力を貸してほしい」

「……ああ、俺で良ければ喜んで。というか、むしろお願いするのはこっちの方だな」


 その時がいつになるかは分からない。案外近くにあるかもしれないし、もしかしたら辿り着くことはないかもしれない。

 いずれにしても彼と喧嘩別れすることは二度とない。次に「さよなら」を言うとすれば、当面の目的を達成した時だ。


「改めてよろしくね。えっと……相棒?」

「いや、ガイドじゃなかったのか?」

「それはもう終わり。わたしにとっても……キョウヤは大切な人だから」


 おどけてみせるキョウヤに向けて、勇気を振り絞ってその言葉を口にした。

 途端に顔が熱を帯びてしまう。こんな恥ずかしい台詞、今この時でなければ二度と口にできない気がした。


「……誤解を招くぞ」

「先に言ってきたのはあなたでしょう……!」


 対する彼の返答は淡泊で、ミレイはつい語気を強めてしまう。

 相変わらずの素直ではない物言い。こんな時くらい合わせてくれても良いのに、空気を読まない人だ。


「それより、返答くらいはしてほしいんだけど」

「……君がそれでいいなら」

「わたしじゃなくて、あなたがどう思っているのか聞いているの」

「ごめん、悪かった。じゃあ……よろしく、相棒」


 答えを促すと、平原の時とは違い、今度は彼の方から手を差し出される。

 ミレイは躊躇いなくその手を取った。今度は終着点まで共に行くという願いを込めて、しっかりと握り締めた。


「そろそろ行かない? 久しぶりに一緒に戦いたい」

「おい……いくらなんでも軽率だぞ。痛い目に遭ったばかりだろう」

「だからこそだよ。わたしは異世界ここで生きるために、もっと強くなりたい」

「それは分かるが……はぁ、仕方ない奴だな」


 魔物に襲われ、人に裏切られ、怖かったのは間違いない。

 だからといって、恐怖から逃げたくはない。この世界では自由に生きると決めている。

 それに今は――誰よりも信頼できる人が隣にいる。


「もし何かあっても、キョウヤが護ってくれるんでしょう?」

「……当たり前だけど限度はあるからな。あまり無茶はしないでくれよ」

「ふふっ、分かってる。頼りにしてるよ、相棒」


 もう間違いは起こさない。彼と一緒ならどこまでも羽ばたける。そんな思いを胸に、キョウヤの腕を掴んで宿を出る。


「お、おい! 引っ張るな!」


 そしてミレイは駆けていった。暖かい日差しを浴びながら、温かい仲間を引き連れて――。





               二章 終

 ここまでお付き合いいただき、誠にありがとうございました!

 三章も順次公開しておりますので、どうぞよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ