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ティルナノーグの冒険者  作者: 有機エリー
二章 交易都市 オルストリム

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第45話 慚愧の念

 身体が揺れる感覚に、キョウヤは呻き声を上げながら瞼を開けた。

 肌に触れる硬い感触は鎧だろうか。誰かに運ばれているようだ。


「キョウヤ……?」

「先輩……!」

「良かった。気付いたか」


 ミレイとクロエの不安げな声のおかげで、自分がまだ生きていると実感する。

 それから耳のすぐ近くで別の声が響き、リベルに担がれているのだと理解した。


「ッ……ランドは……」


 その問いには誰も口では応えなかった。ミレイが目を伏せながら首を横に振る。

 亡くなったのだ。とてつもない力を持つ魔物からキョウヤを護るために、その身を投げ出して。


「そう、か……」


 身をよじって周囲を見回すと、鈍色の空の下、ティアナに身体を預けて歩いているフィノアが目に映った。

 俯いていて表情は見えないが、絶望に打ちひしがれているに違いない。


 己の情けなさに反吐が出る。仲間を護るどころか、彼の命を奪ったも同然。

 誰よりも知識を持っていると驕っていた。なんとかできると楽観していた。その結果がこれだ。


「マリウスさん……《リザレクション》を、知りませんか……?」

「……何を仰っているのですか?」


 馬鹿げた問いに、近くを歩いていたマリウスが訝しげな目を向けてくる。それは、つまりそういうことだ。


「キョウヤ、落ち着け。お前のおかげで救われた命もあった。それは間違いないんだ」


 身体を震わせるキョウヤに対し、リベルが宥めるように言う。

 だが、それでは意味がない。仲間を死なせてしまったという事実が罪悪感を募らせる。

 リベルに運ばれて冒険者ギルドに帰還するまでの間、キョウヤはひたすら己を責め続けた。



 あの戦いの犠牲者は四人だった。《アウトレイジ》の二人、クラウザの仲間の槍使い、そして勇敢な剣士ランド。

 これまで心のどこかで願っていた。命を失った者は、何事もなかったかのように復活リスポーンして戻ってくるだろうと。

 あるいは蘇生魔法《リザレクション》のような都合の良いものが、本当は存在するかもしれないと。


 しかしランドだけでなく、転生者であるはずの槍使いですら、再び姿を見せることはなかった。

 この世界には間違いなく死が存在し、別世界から来た者も例外ではない。それが現実だった。


 先行した集団に属していた者に罰則を与える――それが《オルストリム》の冒険者ギルドから告げられた一言だった。

 緊急依頼に失敗した際は、損失に応じたペナルティが科せられる。四人もの冒険者が命を落としたのだから当然の処遇だろう。


「ふざけるな、こっちは被害者だぞ! あんな魔物が出るなんて話は聞いていない!」

「そうだ。これは依頼を出したギルド側に責任があるだろう」


《アウトレイジ》やクラウザが何か言っているが、キョウヤにとってはどうでも良いことだった。

 仲間の一人が犠牲になる原因を作ってしまった自分に罰がないのが不思議なくらいだ。


「口を閉じなさい! あなた方の仲間も命を落としているというのに、恥ずかしくないのですか! それとも、仲間の命より大事なものがあるとでも言いたいのですか!」


 マリウスが一喝すると、騒いでいた冒険者たちが一瞬で黙り込む。いつも不敵な笑みを浮かべている彼とは思えない、烈火の如き剣幕だった。

 気絶していた自分には分からないが、彼の救援がなければ更に悲惨な事態に陥っていたのだろう。おそらく、キョウヤ自身の命さえも――。


 やがて、一時共闘していた冒険者たちは無言のまま去っていった。

 兄であるランドをうしなったフィノアは、フラフラと冒険者ギルドを出ていく。その背中にかける言葉など見つかるはずがない。

《ヴォイドガーディアン》――その名を口にする者はいなかった――が出現した理由は不明であり、《ストリム廃坑》は侵入禁止エリアに指定された。

 後日、高ランクの緊急依頼として調査が行われるとのことだ。



「キョウヤ、すまなかった。あたしが勝手な判断をしたせいで、あんたとランドが……」


 冒険者ギルドを出た直後、ティアナから呼び止められる。その声音には深い悔恨が乗せられていた。

 彼女に過ちはない。異変が起きた直後、逃げるという選択ができなかった己に一番の問題がある。


「いえ……俺が間違っていました。あの時、ランドを無理にでも連れ戻していれば……」


 結果は違っていた。他の冒険者の犠牲は増えていたかもしれないが、少なくとも彼を喪う事態は避けられた。

 フィノアに申し訳が立たない。彼女はキョウヤの顔など二度と見たくないと思っているに違いない。


「ティアナ、キョウヤ。お前らのせいじゃない。俺がちゃんと交渉して他の奴らを引き留めなかったのが悪いんだ。あるいは、俺たちも連中に付いていく判断を――」

「あのっ! もうやめませんか!」


 リベルまでもが後悔を口にするが、そこに割り込んだのはミレイだった。


「今そんなことを言っても何も変わらないです。皆さん、あの時できることを全力でやっていたでしょう。だから……誰も悪くないんです!」

「ミレイさんの仰る通りですよ。頭を冷やす時間が必要ですね。今日はここで解散にいたしましょう」


 魔法使いの二人は冷静で、それを聞いたクロエも無言で頷いていた。

 その後、《フリーダム》の面子に見送られたキョウヤは、ミレイに支えられながら重い足取りで宿へと戻った。

 当然、帰ってからも自責の念が落ち着く気配はない。寝台に座ってランドとのやり取りを思い出していると、無意識に涙が頬を伝っていた。


「キョウヤ」

「……ごめん。今は、話したくない」

「そっか……分かった。ごめんね」


 ミレイが気遣ってくれているが、それに応えられる状態ではなかった。

 彼女はもう一度心配そうにこちらを見つめた後、何も言わずに部屋を出ていく。

 キョウヤは力なく横になり、そのまま無為に一日を終えた。泣き疲れたのか、いつの間にか眠りに落ちていた。

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