第41話 予期せぬ遭遇
キョウヤとミレイが《オルストリム》に滞在して約一週間が過ぎた。悪天候の日を除き、午前は迷宮に潜り、午後に各々の修練に費やすという日々。
迷宮では何度か他の冒険者と遭遇することもあったが、リベルたちの言動は冷静だった。揉め事を起こすこともなく進められたのは、彼らに交渉力があったからこそだ。
剣の修行の方はというと、あまり順調とは言い難い状況だった。既に身に付いている戦い方がすぐに改善されるはずがない。
ゲームでスキル配分を変更しても即座に適応できないのと同じで、一朝一夕とはいかないもの。それが可能な者が天才と呼ばれるに違いない。
しかし収穫はあった。初期にダガーを使っていた影響か、キョウヤの剣の扱いはスピード重視。それはリベルにもすぐに気付かれた。
ゆえに相手の隙を突く戦い方を重点的に教えてもらうことになった。力任せに打ち合うことは避け、《ウィンドブースト》――あるいは《シェイドクローク》を絡めた戦闘を行うのが良いのだろう。
闇魔法に関しては迂闊に披露できるものではないが、それはその時の状況次第といったところか。
その日の午前、《フリーダム》の六人は冒険者ギルドでテーブルを囲んでいた。
前日にとある緊急依頼を受注したため、他のパーティの集合を待っているところだ。
緊急依頼――冒険者の信用度が求められる依頼。パーティ単位での受注が基本で、状況次第で別パーティと共闘することもある。
見ず知らずの人間と組まされるのを避けるため、これまでは受注自体を避けていたものだ。
今回の依頼は《ストリム廃坑》における魔石――魔力を帯びた鉱石の調達。定員は十八人、ランク制限は3だった。
廃坑は街道の西、《カレント丘陵》との境界付近にある。それは迷宮とは違うが、とにかく魔物の数が多いエリアだ。
奥にはフィールドボスが出現し、最奥に魔石の採掘ポイントがあるという記憶も呼び覚まされた。
ここ数日の活動でキョウヤとミレイもランクが上がっており、受注条件に問題はない。
大規模な戦闘にも慣れておくべきというリベルの提案。それに異論を唱える者はいなかった。キョウヤ自身も経験を積んでおきたいと思っていたところだ。
程なくしてカウンターから声がかかり、ギルド入口付近のホールに集合することになった。今回の依頼を受けた他の冒険者たちとの顔合わせである。
「なっ……!」
キョウヤは驚きの声を上げてしまう。集まった冒険者の中に見知った顔がいくつかあった。そのうちの二人はランドとフィノアだ。
問題は剣士、魔法使い、槍使いの青年三人組。それは――《アルドラスタ》に災厄をもたらした男たちだった。
「クラウザ……!」
「……ミレイ、落ち着け」
「平気。まさかここで会うとは思わなかっただけ」
ミレイはそう言っているが、心中穏やかではないだろう。一度は本気で攻撃を仕掛けようとした相手なのだから。
無論、キョウヤとしても二度と会いたくなかった連中だ。あれだけの悪事を働きながら、何食わぬ顔で冒険者として活動を続けているらしい。
「これは失敗だったな……」
続いて落胆の声を発したのはリベルだ。彼の隣に立つクロエも険しい顔をしている。
「どうかしたんですか?」
「クロエを追い出した《アウトレイジ》という奴らがいる。あまり関わりたくなかったんだが……」
なんというか、名前からしてまともな集団ではない気がした。
クロエはなぜそのようなパーティに参加してしまったのだろう。むしろ、追放されるだけで済んで良かったとさえ思える。
とにかく、各々が心証が悪い人物との再会という事態になってしまい、雲行きが怪しくなってきた。
集まったのは《フリーダム》六人、《アウトレイジ》五人、ランドとフィノア、クラウザ一味、その他の二人。これで十八人だ。
「……クラウザ、今度は何を企んでいるんだ?」
キョウヤはクラウザに近付き、静かに問い質した。
彼はこちらの姿を認めると、腕を組みながら不敵な笑みを浮かべた。
「フッ……安心しろ、今回は依頼をこなすだけだ。お前らと協力することになるとは思わなかったがな」
「……そうか。その言葉に偽りがないことを願うぞ」
「フン、精々足は引っ張るなよ。特にお前だ」
「言われるまでもない」
信用できる相手ではないが、この場で言い争いをしても仕方ない。
ランドとフィノアには軽く挨拶し、クラウザ一味の動向に用心するよう忠告しておいた。
「なんだか嫌な感じ。大丈夫かな……」
ミレイの言う通りだ。これから協力して任務に挑むという雰囲気ではなかい。
少なくとも因縁の相手との連携は不可能だろう。魔物だけではなく、味方であるはずの冒険者さえ警戒する必要があるという状況だ。
そして《ストリム廃坑》に入って程なくして、《アウトレイジ》とクラウザ一味が一直線に最奥へ向かうと言い出した。
大量の魔物が徘徊する場所でそのような行動をとれば、敵に挟撃されてしまうのは目に見えている。
想定していた通り、不穏な空気は形として現れてしまった。ミレイやクロエを含め、《フリーダム》の面子は露骨に迷惑そうな顔をしている。
「万が一の時に退路が塞がれたらどうする? 魔物はなるべく倒しておくべきだろう」
「そんな心配をするような場所か? 立派な盾を背負っている割に臆病なのだな」
「くくっ、そこの役立たずを拾うパーティだからな。その程度の奴らなんだよ」
リベルが反対するが、クラウザが煽る。そして、便乗するようにクロエを指差しながら暴言を吐く者まで現れた。
彼女は身を震わせながら、視線から逃れるようにキョウヤの後ろへと下がった。
「……それなら、こちらは安全を確保するために動く。俺にはメンバーを護る責務があるからな」
「勝手にするといい。この程度の依頼、お前たちがいなくても務まる」
クラウザがそう言い捨てると、困惑するランドとフィノア以外が奥へ向かって歩き出した。
結局、二人はその判断に難色を示し、《フリーダム》と行動を共にする選択をしたようだ。
張り詰めた空気の中、キョウヤは渦巻く不吉な予感を振り払うことができずにいた。




