第38話 各々の役割
キョウヤとミレイ、クロエが駆けていくと、複数の《ゴブリンファイター》がいきり立って向かってきた。
だが、それらはすぐにマリウスとティアナの遠距離攻撃によって引き剥がされる。
彼らの迅速な対応に感謝しつつ、キョウヤたちは奥の《ゴブリンロード》と対峙した。
ゴブリンの君主は先制攻撃と言わんばかりに跳躍し、片手剣を振り下ろしてくる。
対するキョウヤは左側に躱し、カウンターの左袈裟斬りを放った。敵は左手に盾を装備しているが、攻撃後に右腕側を狙えば防がれることはない。
あらかじめミレイに付与してもらった《ファイアエンハンス》により強化された一撃は効いたようで、眼前の相手が怒り狂うのが見て取れる。
今度は向かって右から左へと剣が薙ぎ払われるが、キョウヤは両手に持った剣でそれを受け止めた。
丘陵で甲虫と戦った時と同じ流れだ。攻撃を受け止めている隙にミレイの《フレイムバレット》が着弾し、敵が燃え上がる。
クロエも彼女を真似て《ファイアボール》で攻撃に参加しているようだ。
「ナイス!」
「キョウヤこそ」
互いに称賛しつつ、火炎に包まれ怯んだ敵を目がけて剣を振り下ろす。それで規定のダメージが蓄積されたのか、ボスは再び嫌な奇声を上げた。
広範囲に《ゴブリンアーチャー》、《ゴブリンソーサラー》が複数現れ、即座に臨戦態勢に移る。
しかし、リベルたちの対応の方が早い。彼が盾スキル《シールドバッシュ》で敵を《気絶》させたかと思えば、マリウスが《ファイアボール》で燃やし尽くす。
逆側はティアナの《マジックアロー》の連射。おかげでキョウヤたち三人を狙う敵は既に存在しない。
すると、ここまでキョウヤを狙っていたボスがミレイに向けて走り始めた。
「クロエは側面に退避! ミレイは回避した後にこっちへ!」
「分かった! 仕切り直しだね」
ミレイはボスの縦斬りを華麗に避けると、そのまま敵の背後へとすり抜けた。続けて、キョウヤが元いた位置に向けて移動していく。
キョウヤは彼女とすれ違った後、振り向いたボスに向けて一閃した。
「ミレイ、頼んだ!」
「任せて!」
攻撃後の隙に反撃が飛んでくるのは想定済みで、ミレイの《フロストシールド》によって防がれる。
他のメンバーがいるためか、ミレイはいつもの光の結界は使わず、不得手な氷魔法を使っている。だが、それでも十分な耐久力があった。
反撃が相殺され硬直した敵を見て、キョウヤは上段から剣を振り下ろす。それと同時にミレイは上空から雷の矢を落とした。
「いい連携だ、キョウヤ!」
「ミレイさん、お見事です」
「やるねぇ!」
リベルたちからの称賛の声が飛ぶ。側面に退避していたクロエを一瞥すると、彼女はその目を輝かせていた。
一人が防御した後はもう一人が反撃し、次いで防御を解除して追撃を入れる。
ミレイとの連携の基本であるが、この程度ならクロエでもすぐに身に付けられるはずだ。
やがて、ボスがもう一度奇声を発すると《ケイブウルフ》に跨った槍ゴブリンが二体出現する。
「こいつらは俺たちでもすぐには倒せない。キョウヤ、絶対に油断はするなよ!」
「分かりました。お願いします!」
出現したゴブリンの一体をリベルが受け持ち、その後ろでマリウスが魔法の準備を始める。
残る一体はティアナが攻撃を躱しながら矢を射かけていた。ここまで削ればもう一息だ。
「二人とも、最後まで慎重にいくぞ!」
「うん!」
「はい!」
――そして、一時間以上に及んだ初の《スタッグ洞窟》探索はボス撃破をもって終了した。
現在、《フリーダム》の六人は再び迷宮入口の入口に立っている。
「いや、お前たちを誘って本当に良かったよ。キョウヤもミレイも、ランク2とは思えない活躍だった」
リベルの言葉に、ティアナとマリウスも笑みを浮かべながら頷く。
「さすが先輩です! それに、ミレイさんも……」
その後に続いたクロエの声は、少しだけ寂寥が含まれていたような気がした。
しかし彼女も個人の実力は申し分ないのだから、落ち込むほどではない。
己がリベルから剣を教わるように、これから学んでいけば良いだけの話だ。
「それじゃ、一度戻るとするか」
「え、もう帰るんですか?」
「ああ、さっきマリウスに確かめてもらったが、門の転移先は変わっていない。これでは収穫が見込めないからな」
ゲームでは何度でも周回ができていた迷宮だが、この世界では一定時間経過しないと同一の空間に飛ばされる。
つまり、パーティごとに生成される都合の良いエリアではない。他の冒険者と鉢合わせる可能性もあるということだ。
迷宮は広大な上に地形も完全にランダムだ。今回は運良く独占できたというだけだろう。
「それにキョウヤには剣を、ミレイには魔法を教える約束だからな。しばらくは午後を各々の修練に充てるつもりだ」
さすがリーダーというべきか、色々と考えてくれているようだ。
ゲーム時代、レオンがそうやって予定を組んでくれていたことを思い出し、少し懐かしくなった。
その後、《オルストリム》の酒場で昼食を終え、《フリーダム》は談笑していた。
怪我で離脱しているアストラとも合流し、今は一緒になって卓を囲んでいる。
「リベルはお人好しなのよ。冒険者ギルドを通していない困りごとを解決したり、雑用のような依頼まで引き受けたりするの」
「本当に助けが必要な人ほど、ギルドに依頼を出す余裕がないから仕方ない――これが彼の口癖なのですよ」
「おかげでなかなかランクは上がらないんだ。ま、そういう奴だからこそ、皆付いていくんだけどね」
「お、おい! やめろよ」
アストラとマリウス、ティアナの言葉に、リベルは居心地が悪そうに制止した。
彼らの実力は先の戦闘で存分に見せつけられたが、深い絆で結ばれているからこそだと改めて実感する。
「さーて、あたしはクロエと一緒に丘陵で狩りをしてくるよ。この子がうずうずしてるだろうからね」
「ティアナさん、ありがとうございます! 早速行きましょう!」
「あ、待てって!」
クロエが元気良く飛び出していき、それをティアナが追っていく。あの二人はまるで姉と妹のようで相性が良さそうだ。
「ミレイさん、私たちも行きましょうか」
「はい。お願いします」
続いて魔法使いの二人が静かに出ていく。
迷宮ではマリウスの上級冒険者としての実力を思い知らされた。彼ならミレイを更なる高みへと引き上げてくれるに違いない。
「俺たちは……そうだな。まずは木剣を買って、門の外で打ち合うか。さすがに都市内では迷惑だからな」
「分かりました」
キョウヤの剣の修行は、魔物相手ではなく打ち合いから始めるようだ。
確かに、今後そうやって戦う機会はあるだろう。というより、既に一回野盗たちとやり合っている。
対人戦で後れを取らないためにも、リベルに直接鍛えてもらえるのは本望だ。
彼に続いて立ち上がると、その場に残っていたアストラが羨ましそうな目をしていることに気付く。
「私以外、皆教え子がいるのね」
「アストラ、焦るな。確実に復帰するため、今はしっかり休むべき時だ」
「分かっているわよ。ありがとう、リベル」
「おう。また後でな」
《フリーダム》に所属していられるのは、彼女が復帰するまでだ。
これほど充実した環境で学べる機会など、二度はないと思っておくべきだろう。
キョウヤは改めて気を引き締めつつ、頼もしいリベルの背を追っていった。




