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ティルナノーグの冒険者  作者: 有機エリー
二章 交易都市 オルストリム

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第37話 チームワーク

「クロエ、交代だ!」


 リベルの言葉と同時にクロエが飛び退くと、代わりにリベルが大盾を掲げながら前へと出る。

 彼がその盾を地面に叩き付けると衝撃波が飛ぶ。それが周囲に広がると、その場の全てのゴブリンの視線が一点に吸い寄せられた。

 盾スキル《タウントストライク》、衝撃波が当たった敵の標的を使用者へと向ける。ゲーム的な表現をするなら、タンクが敵のヘイトを引き受けるものだ。


 同時にティアナが動いた。リベルに向けて遠距離攻撃を仕掛けようとする弓ゴブリンや杖ゴブリンに向け、マナを使って具現化した矢を飛ばす。

 弓スキル《マジックアロー》は、その場で連続生成できるため速射に適している。頭を射貫かれた魔物たちが次々と倒れていく。


「リベル、三秒後です。二、一」


 マリウスが秒数を提示した瞬間、敵の攻撃を盾で防いでいたリベルが退避の体勢をとる。そして寸分違わないタイミングで素早く後退した。

 同時に、彼が元いた場所に風が舞い始める。風属性中級魔法《ゲイルトラップ》だ。

 敵に継続的にダメージを与えつつ、軽い魔物は渦の中心付近に引き寄せる効果がある。


 次にティアナが上空へと魔力を乗せた矢を放ち、それが空中で弾けて矢の雨を降らす。弓スキル《アローストレイフ》が、風の渦に吸い寄せられたゴブリンたちに襲いかかった。

 残っていた弓ゴブリンや杖ゴブリンは、左から回り込んだクロエが各個撃破しているのが見える。

 吹き荒れる風が鎮まった時、その場に魔物は一体も残されていなかった。


 キョウヤは声を発することすらできなかった。ミレイも息を呑んでいるのが分かる。

 これが熟練冒険者の実力。圧倒的な個人技、そして仲間との連携。全てが噛み合っていたと理解できる。

 ――負けていられない。彼らのようになりたい。

 あやふやだったキョウヤの目標は、その瞬間決まった気がした。



 やがて、洞窟の広間の周囲に敵の気配がないことを確認すると、リベルがその場で語りだした。


「クロエはランク以上の実力がある。だが、仲間との連携が上手くいかないことが多い」


 南北の通路の見張りにはクロエとティアナが立っている。巡回している魔物の影が見えた際はすぐに知らせる手筈になっている。


「だから、先輩と呼ばれていたキョウヤなら、彼女と上手くやれると思って誘ったんだ」

「お二人は既にクロエと打ち解けていますし、戦い方も目を見張るものがありました。お誘いして正解でしたよ」

 

 リベルの言葉をマリウスが繋げた。二人の発言でようやく理解する。

 パーティから追放されたのは力が足りないからではなく、協力が疎かだったゆえか。

 先ほどクロエが自由に戦えていた理由は、周囲に仲間がいなかったことに加え、マリウスの防御魔法があったからだろう。


「暴れている時のクロエには、俺でさえ怖くて近寄れないからな……」


 リベルが苦笑いする。確かになりふり構わない斬撃の嵐は味方としても怖い。

《フリーダム》はクロエを戦わせるために一人だけ前に出して、他のメンバーで補助していたというわけだ。

 それも一つの手ではあるが、確かにそれではクロエのためにならない。


「だから、俺やミレイのような下級冒険者が必要だった、と」

「ええ、わたくしたちは手助けはできますが、彼女がそれに甘えてしまうことを心配しているのです」


 勧誘された時にティアナが言っていた「彼女のためにならない」もそういう意味だったのだ。


「でも、具体的にどうすればいいんですか? 俺にはクロエに合わせられる力はありませんよ」

「それは簡単だ。キョウヤとミレイの連携を見せつけてやればいい。熟練の俺たちではなく、新米のお前たちがやることで彼女は学べる。俺たちはそう確信している」


 合点がいく。キョウヤはミレイを信頼しているが、それでもリベルたちの連携はレベルが高すぎて真似できる気がしない。

 しかし自分たち二人の動きであれば、クロエも倣える範囲であるに違いない。そういうことだ。


「キョウヤさんとミレイさんの戦い方をよく見ておくように伝えた上で、クロエにはしばらく後衛に徹してもらうつもりです。いかがでしょうか?」

「……構いません。ただ一つお願いがあります。リベルさん、暇な時で構いませんので、俺に剣を教えていただけませんか」


 キョウヤはミレイに目配せして頷いた後、いつ切り出そうか悩んでいた話を告げた。

 高みを目指すには我流では限界がある。片手剣と大盾を使う彼ならば、必ずや力になってくれるはずだ。

 彼の人柄なら無条件で指南してくれると思っている。だからこそ、貸しを作らなくて済むように交換条件を出した。仲間と認めた者に余計な気遣いをさせたくないからだ。


「助かるよ。もちろん、俺の剣で良ければ指南しよう」

「……でしたらマリウスさん、わたしに魔法を教えていただきたいです」

「予想はしていました。喜んでお引き受けしますよ」


 キョウヤの提案を真似るように、ミレイも教えを乞うことにしたようだ。

 彼女は初めマリウスを怖がっていたように見えたが、今は警戒を解いているようで胸を撫で下ろす。


「そうと決まれば先に進むか。キョウヤ、ミレイを主軸に戦い、クロエにはお前たちを魔法で援護してもらう。俺たちも危ない時は動くが、基本的にはいないものと思って戦ってみてほしい」


 キョウヤとミレイが頷くと、リベルが見張りに立っていたクロエとティアナを呼び、話していた内容を簡潔に告げる。


「先輩、ミレイさん。わたしのためにありがとうございます……! しっかりと勉強させていただきますね」

「ああ、力不足かもしれないけど、俺――」

「わたしも精一杯戦わせてもらうね」


 まるでそれを待っていたかのように、言いかけた言葉をミレイが続けた。

 彼女を軽く睨むと涼しい顔が返ってくる。相変わらずこの少女は、とキョウヤは心の中で唱えるのだった。



 迷宮ダンジョン内部の袋小路には入口と同じような淡い光を放っているゲートがあり、各所にあるそれを通過すれば外に出られる。

 今はまだ戻る必要がないため、キョウヤとミレイを軸とした小規模の戦闘を続けながら進んだ。

 ゴブリンたちの他には《ケイブウルフ》と呼ばれるオオカミが出現したが、それは草原の《グラスハウンド》の上位互換のようなもの。やはり複数で襲ってくる性質が面倒ではあるが、個々の戦闘力は貧弱だ。


 やがて、見すぼらしい玉座の間のような空間に出る。

 両サイドの岩肌を柱、敷かれたボロボロの布を絨毯に見立てているつもりだろうか。

 奥の岩で作られた玉座――と呼称して良いのか分からないほどに貧相な物――には人間よりも一回り大きな魔物が鎮座していた。この迷宮のボスである《ゴブリンロード》だ。


 その魔物はゆっくりと立ち上がると、傍らに置いていた片手剣と丸盾を手にした。

 他のゴブリンよりは丈夫そうな布で腰回りを覆い、上半身には胸当てのような物を身に着けている。

 だが、装備はそれだけだ。腹や腕、脚は露出しており、防御力が高くはないのは一目で分かる。


「キイイイイイィ!」


 それが不快な奇声を轟かせるとともに周囲に《ゴブリンファイター》が複数出現する。

 ゲームと同じ挙動であれば、このボスは戦闘中に何度か配下のゴブリンを召喚するはずだ。

 体力を削るにつれ、《ゴブリンアーチャー》、《ゴブリンソーサラー》、そしてこの迷宮で稀に遭遇する中ボス格である《ゴブリンランサー》という、狼に跨る槍使いまで出てくる。


 今回、召喚される雑魚はリベルたちが全て引き受けてくれるとのことだった。

 つまりキョウヤとミレイ、それから後衛から魔法で支援するクロエはボスだけに集中できる。

 ここで手本になる戦闘を彼女に披露することができれば、今回のミッションは成功といえる。


「ミレイ、クロエ、行くぞ!」

「うん、いつも通り頑張ろう」

「よろしくお願いします!」


 ゴブリンの君主は遠くから見ても威圧感があるが、恐怖感は覚えない。万が一の時はリベルたちがフォローしてくれるはずだ。

 しかし、だからといって手を抜く気は全くない。ボスの注意を引くため、キョウヤは地を蹴ると一心に玉座へと向かっていった。

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