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ティルナノーグの冒険者  作者: 有機エリー
二章 交易都市 オルストリム

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第35話 迷宮と試練

 キョウヤとミレイが軽い朝食を終えた頃、丁度午前の鐘が鳴った。


「おはようございます。先輩、ミレイさん!」


 冒険者ギルド前で待っているとクロエが駆けてきて、爽やかに挨拶される。その後ろには《フリーダム》の四人の姿も見えた。

 各々が挨拶を交わすと、リーダーのリベルが話を切り出した。


「ひとまず二人の実力を確認したいんだが、大丈夫か?」

「問題ありません」

「よし、じゃあ《スタッグ洞窟》に行こう」


《スタッグ洞窟》――丘陵地帯に存在する迷宮ダンジョンの一つ。

 迷宮というのは世界各地に点在している不思議な空間のことだ。

 神が危険な魔物を封じるために創造した、あるいは魔物が力を蓄える住処。その二つの説が主流という設定だった。


 迷宮内部は基本的に魔物の巣窟となっている。そのため、外部フィールドより各段に危険な場所であることは言うまでもない。

 この世界では少なくとも四人以上のパーティで潜ることが推奨されているらしい。

 しかし戦利品が相応の収入源になるため、利益を求めて挑戦する冒険者も少なくないという。


「いきなり迷宮ですか……」

「大丈夫ですよ。危険が迫った際はわたくしたちが必ず護ってみせます」

「ああ、任せておきな。あの程度の迷宮で後れを取ることはないさ」


 キョウヤの不安を払拭するように、マリウスとティアナが胸を張って言う。

 あの迷宮の適正ランクは2。キョウヤとミレイ二人で潜るのは危ないかもしれないが、今回は六人パーティだ。

 おまけにランク6以上の冒険者が三人もいる。その彼らが言うならば問題はないだろう。

 キョウヤの不安はそちらではなかった。初めての迷宮で、実力を計られるという状況で、評価に値する戦闘ができるかだ。


「いってらっしゃい。気を付けるのよ」


 アストラがパーティから外れて他のメンバーを見送る。彼女は右腕を負傷しているため、当面は療養に努めるらしい。

 都市の上空は、今日は雲一つない快晴だ。朝日が明るく照らす中、《フリーダム》の六人は迷宮に向けて出発した。



 西門から《カレント丘陵》に入り、更に北西に進んだ先に迷宮は存在した。

 盛り上がった丘の反対側が絶壁になっており、切り立った崖に巨大な穴が空いている。

 その入口のゲートは青白い光に包まれており、それを通過すれば迷宮内部に転移される仕組みらしい。


 仮に分断されてもすぐに安全を確保できるよう、先頭をリベルが、殿しんがりをマリウスが務め、六人はほぼ同時に内部に踏み入れた。

 内部は明確な光源が存在しないようだが、不思議と周囲がはっきりと見渡せる程度に明るかった。


「全員いるな。それじゃあ、キョウヤとミレイ、それにクロエ」


 リベルに呼ばれ、キョウヤは背筋を伸ばす。何を言われても冷静に対応を――


「お前たちだけで戦ってみろ。俺たちは後ろで見ている」

「――ええっ!?」


 呼ばれた三人はほぼ同時に、同じように驚愕の声を発することになった。

 いくらなんでも滅茶苦茶だ。迷宮内は外部に比べて魔物の数が圧倒的に多い。囲まれでもしたら洒落にならない。


「ご安心を。あなた方の実力を確かめさせていただくだけです。これで痛くはないはずですよ」


 マリウスはそう言うとキョウヤたち三人に土属性の力を纏わせた。一定時間防御力を大きく上げる《アースアーマー》だ。


「本当に危なくなった時は、俺たちも加勢するから大丈夫だ」

「心配しないで、好きなように暴れておいで!」


 リベルとティアナからも激励の声がかかる。

 強化魔法もかけてもらっているし、大怪我をすることはないだろう。

 だが、ミレイはともかくクロエと共闘した経験はないため、上手く連携できるかは疑問だ。


「仕方ない……ミレイ、いつも通り後衛を頼む。クロエは好きなように戦ってくれ。俺がなんとか合わせてみる」

「了解」

「分かりました!」


 ミレイのことは信頼しているが、クロエの戦い方が分からない以上、安易に頼るわけにはいかない。

 一応は先輩として、キョウヤは二人に作戦――というほどでもない内容を伝えた。


 そして、ゴツゴツした岩肌が露出した広い通路を抜けていく。その先の開けた空間には、円を描くように座る亜人がいた。

 すぐに武器を構えて敵対行動をとったため、意思疎通は不可能であると判断できる。つまり亜人ではなく魔物だ。

 緑色の肌をした人型で、胴体の割に大きな顔と尖った耳をしている。装備は棍棒のような物とボロボロの腰巻だけ。

 ゴブリンという種族の魔物、その中でもスタンダードな《ゴブリンファイター》が三体。


 初の人型の魔物との対峙だが、キョウヤは既に野盗という人間と戦闘をしている。そのためか、恐怖心が湧き上がることはない。

 むしろ倒してしまっても良いのだから、逆に気を遣わなくて済む。賊相手よりも気楽に戦えるはずだ。


「行くぞ。クロエは左から、俺は右からだ」

「は、はい!」


 言うや否や駆け出すと、クロエは少々慌てたように走り出す。

 対するゴブリンたちはキョウヤの方に二体、残り一体がクロエの方へ向かっている。

 キョウヤに襲いかかろうとしたゴブリンのうちの一体は、ミレイが雷の矢を飛ばすことで標的を変えた。これでひとまず全員が一対一の状況だ。 


 ゴブリンが棍棒を振り上げて飛びかかってくるが、キョウヤはヒラリと身を躱した。

 そして、がら空きになった敵の右肩へ向け、両手持ちの剣で左袈裟斬りを繰り出す。

 緑の魔物の体から赤い血飛沫が上がるが、それでも武器を落とすことはなかった。


 敵はすぐに体勢を立て直し、今度は横薙ぎの一撃が飛んでくる。

 キョウヤは瞬時に屈むことで回避し、カウンターの一撃として足を薙いだ。

 魔物が膝をついた瞬間に立ち上がり、上段から頭を目がけて剣を振り下ろす。それで勝敗は決した。


「よし……」


 キョウヤが一息入れて周囲を見渡すと、ミレイとクロエはゴブリンたちとの戦闘を終えていた。

 予想はしていたが、この中で一番弱いのは自分だと改めて自覚させられる。

 ――剣の修練をしなければ。

 リベルは大盾と片手剣を使用する前衛だ。彼に教えを乞うのが良いかもしれないと、そう思った時だ。


「キョウヤ、次が来る!」


 ミレイの声が響き、キョウヤは即座に周囲を見回す。

 自分たちが通ってきた通路が南だとすると、北と東の通路からゴブリンたちが一斉に雪崩れ込んできた。

 魔物の徘徊タイミングが被ったのか、異様に数が多い。ざっと見ただけで十体近くはいる。

 その上、今度は棍棒を持ったゴブリンだけではない。弓矢を装備した《ゴブリンアーチャー》と、杖を持ちフードを被った《ゴブリンソーサラー》が混じっているのが見える。


「……これを切り抜けられれば、実力は認めてもらえるな」


 想定外の事態に多少の焦りを覚えながらも、キョウヤは自然と笑みを浮かべていた。

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