第33話 熟練冒険者
エルフといえば耳が長く、魔法や弓に長けているというのが特徴だろうか。
キョウヤたちの前には、そのような典型的な姿のエルフの男がいる。
長い髪は金色で、その下の顔はよく整っている。目は笑っているが、少々妖しさを含んでいた。
装備は森を思わせる深緑色のローブに、ミレイが使っている物よりも更に長い、スタッフと呼ばれる木で作られた杖。
「皆さんお待ちですよ……おや?」
クロエに呼びかけていたエルフは、その後ろにいるキョウヤとミレイに気付いたようだ。切れ長の目を細め、訝しげな表情を浮かべる。
「すみません、マリウスさん。知人に会えましたので、紹介したいと思いまして」
「なるほど……そちらの方々ですか。でしたら、先に皆さんと合流しましょう」
マリウスと呼ばれたエルフはクロエの言葉に納得すると、ギルド右手にある冒険者たちの憩いの場へと歩いていく。
ギルド内部は《アルドラスタ》とのそれと同じような構造で、一回り広い構造になっている。
夕方であるため、活動を終えた冒険者たちが集まっているのだろうか。奥へと進んでいくとその喧騒に包まれた。
やがてその長身のエルフが足を止めると、目の前のテーブルを三人の冒険者が囲んでいた。クロエのパーティメンバーだろう。
「クロエ、戻ったか! マリウスが心配していたぞ!」
「ほら、マリウス! 無駄足だっただろう?」
「おかえり、クロエ。安心したわ」
それぞれが思い思いに喋る。それだけでも仲の良いパーティであると伝わってくる。
クロエが事情を説明すると、キョウヤとミレイが隣のテーブルに着いて彼らと向き合う形になった。
先にキョウヤたちが自己紹介をすると、クロエのパーティの面々が順に名乗っていく。
「俺はリベルだ。一応このパーティのリーダーって奴だな。よろしく!」
赤みが混じった茶髪に銀の鎧を装備した爽やかな青年はリベルというらしい。
ゲーム仲間のレオンの快活さを思い出させるが、彼とは真逆の前衛タイプと推測する。
「あたしはティアナ。弓矢の扱いには自信がある。よろしく頼むよ」
小麦色の肌にショートカットにした黒髪のティアナ。その口振りからして、姉御という言葉がよく似合いそうな女性だ。
「アストラよ。会えて嬉しいわ。見ての通り怪我をしていて今は戦えないけど、よろしくね」
アクアブルーのロングヘアの女性がアストラ。大人っぽい雰囲気を漂わせている。
彼女は右腕を包帯で固定していた。治癒魔法でも完治しないということは、骨折のような大怪我をしたのだろうか。
「改めまして……私はマリウスと申します。魔法でしたらお任せください」
最後にマリウスが締める。丁重な言葉遣いと、思考を読み取れない微笑みが特徴的だ。悪人には見えないが、なんとも底が知れない。
全員が紹介を終えると、クロエが立ち上がってリベルの元へ歩み寄った。
何かを伝えたようだが、マリウスたちの談笑に掻き消されて内容は聞き取れない。
「キョウヤ、ミレイ。ランクは?」
「まだ2ですよ」
「なるほど……」
リベルの問いに答えると、彼は考え込むような仕草を見せた。
程なくしてリベルはその場の全員の口を閉じさせる。そして彼の茶色の瞳がキョウヤたちを見据えた。
「丁度いいかもしれないな。俺たちのパーティに入ってみないか? もちろん、この都市に滞在している間だけで構わない」
予想外の提案にキョウヤは声を失った。ミレイも目を丸くしている。
クロエが所属しているパーティなら悪い人間はいないと思いたいが、二人を誘う理由が分からない。
それにキョウヤたち二人が加入する場合、一つ問題が発生する。
「冒険者のパーティは六人が上限ですよね」
キョウヤが思考を終えるよりも先に、ミレイがそれを口にした。
《ティルナノーグ》と同じく、冒険者は七人以上のパーティを組むことはできない。これは冒険者ギルドの規則の一つとなっていた。
大人数パーティを許してしまうと冒険者の格付けが難しくなり、管理が難儀であるというのが理由の一つ。
また、六人でも対処できない魔物に挑むのは個人の能力が不足している。それが冒険者ギルドの認識であるため、制限を設けているらしい。
人数が必要な緊急依頼に関しては、複数のパーティが共闘することで対処する。
そういった経緯で、こちらの世界でも冒険者は基本的に六人以下で行動しなければならないのだ。
システムで制限はされていないため組めなくはないが、ギルドに発覚すれば処罰は免れない。
つまり、五人組のパーティにキョウヤとミレイが同時に加入することはできない。
「それは問題ないわ。私がパーティを脱退すれば済む話だから」
反応したのは怪我をしているアストラだ。左手の指で髪を弄りながら、平然とそう言ってのけた。その青い瞳に迷いはない。
彼女が漂わせる雰囲気は熟練の冒険者のそれだと感じる。ゆえに、キョウヤは一つの疑問を口にした。
「……先に皆さんのランクを聞いてもいいですか?」
「私とリベル、ティアナが6、マリウスが7、クロエが3よ」
アストラの返答は想定を超えていた。
クロエでさえキョウヤたちより経験を積んでいるし、あの笑みを絶やさないエルフに至っては上級冒険者なのだ。
「では、なぜ低ランクの俺たちを誘うんです? 明らかに場違いですよね」
「先輩、場違いなのは私なんですよ。だから、探していたんです」
リベルの隣に立っていたクロエがそう言うと、「ここからは俺が話そう」と前置きしたリベルが語り始める。
「俺たち……クロエを除く四人は元々別の都市で活動でしていたんだよ。だが、アストラが大怪我をしてしまった。だから復帰するまでここで羽を伸ばすつもりだったんだが、数日前に酒場でクロエを拾ったんだ」
「リベル、拾ったという言い方は感心できませんよ」
「悪い、クロエ……口が滑った」
マリウスの指摘に、リベルはばつが悪そうに項垂れた。
「いえ、大丈夫ですよ。パーティから見放されたのは本当のことですから」
クロエの声のトーンは特に変わらない。どうやら彼女は元々別のパーティで活動していたようだ。
胸糞悪い話ではあるが、そこから追放されたということだろう。
「とにかく、あたしたちがこの都市に滞在している間はクロエの力になりたい。だけど、あたしたちのペースではこの子のためにならない。一緒に腕を磨ける仲間がいてくれた方が助かるんだ」
リベルの言葉はティアナが引き継いだ。そういうことなら納得できる。
「キョウヤ、受けよう」
クロエの境遇に何か思うところがあったのか、ミレイが訴えかけてくる。
もはや断る理由はない。再会したクロエと別れるのも惜しいと思っていたし、その仲間たちの温かさにも心惹かれた。
それに熟練の冒険者と行動を共にできるなら、得られるものも沢山あるに違いない。
「分かりました。むしろ、こちらからお願いしたいです」
そう伝えると同時に歓声が上がり、リベルに手を掴まれた。
ミレイとクロエはティアナに肩を引き寄せられており、マリウスとアストラが微笑ましく眺めている。
彼らの期待に応えるべく、キョウヤの心は静かに燃えていた。




