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ティルナノーグの冒険者  作者: 有機エリー
二章 交易都市 オルストリム

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第29話 新たな縁

 いつかは出くわすと予想はしていた。むしろ今まで見かけなかったのが運が良かったのだとさえ思う。

 道行く先には多数の野盗。そして囲まれているのは、白い服に金属の胸当てを身に着けた剣士らしき者と、黒を基調としたローブを着た魔法使いと思われる者。


「どうしよう?」

「聞いてどうする。君は意地でも助けるって言うだろう」

「そうじゃなくて、どうやって助けるかって話」

「……なるほど。とりあえず、正面から行くのは悪手だな。人質を取られたら終わりだ」


 賊が狙う二人は包囲され追い詰められている状況。戦闘中であればまだしも、今から突っ込んでも手遅れだ。


「ミレイ、俺を見てくれ」

「……はぁ?」


 ゴミを見るような反応をするミレイをよそに、キョウヤは()()()()()()()()の魔法を発動する。


「あれ……?」


 彼女が赤い目を見開いてこちらを見ている。

 それは当然だ。眼前にいる人間が一瞬消え、また現れたように見えたはずなのだから。

 全身をチクリと刺されたような感触があったが、気にすることなく話を進める。


「よし、人が相手でも効果はあるみたいだな」


 一瞬だけ使用したのは《シェイドクローク》という闇を纏って姿を隠す強化魔法。移動速度を向上させた上で敵から認識されなくなる利便性が高いものだ。

 主に魔法使いが固定砲台や位置調整を行う際に使っていた魔法だが、発動時のMP(マナポイント)消費に加え、解除するまでHP(ヒットポイント)を消費し続けるという諸刃の剣でもある。

 当然、ゲームでは再使用待機時間クールダウンが存在するため連発はできなかった。だが、こちらの世界にそのようなシステムは存在しない。


 つまり極端な話、生命力とマナが持つ限りは自在に出没できると推測する。

 それから一瞬の使用であれば、マナはともかく生命力の消耗は大したことないと、今の試行で裏付けも取れた。


「闇魔法だ。これなら気付かれずに接近できる」

「え……駄目だよ。それは封印する約束でしょう?」


 その通り。正直なところ、制御できる確証もない力は使いたくない。だが、人助けだと思えば少しくらい許されるだろう。

 試しに下級魔法の《ダークボルト》を撃ってみたことがあるが、苦痛はあっても身体が乗っ取られる現象は起きなかった。きっと大丈夫だ。


「他に確実な方法もないだろう」

「でも……」

「もう考えてる時間はない。俺が二人を救出したら、君も戦闘に参加してくれ」

「……分かった。じゃあ、せめて回復魔法をかけておくから……気を付けて」


 ミレイの不安げな声とともにキョウヤの身体を水の幕が覆う。《アクアヴェール》、生命力を持続的に回復させる水属性の強化魔法。

 マナ消費が多い上に治癒力は《ヒーリング》に劣る効率の悪い魔法だが、彼女の気遣いが身に染みる。


「ありがとう。行ってくる」


 再び姿を隠す魔法を使用すると一息に駆け出す。

 徐々に全身をヒリヒリとした痛みが襲ってくるが、ミレイの魔法がいくらか緩和してくれていると感じる。

 野盗たちの元へと近付くと、その話声がはっきりと聞こえてきた。


「諦めろ。大人しくすれば殺しはしないぞ」

かしら、本当にそれだけでいいんですかい?」

「くくっ……もちろん、男は剥いで女は持ち帰りだ」


 下衆の極みのような会話に不快感が募る。調子に乗っていられるのはこの瞬間までだ。

 被害者の二人組の背後に陣取る男たちに忍び寄り、その脚をバスタードソードで斬り払った。

 人を傷付けることには抵抗があるが、この場を切り抜けるために多少は痛い目に遭ってもらう必要がある。


「ぐあああああっ!」

「なっ……こ、こいつ一体どこからっ!」


 二人の賊が悲痛な声を上げ、パニックに陥った他の賊たちが慌てて武器を構える。だがその瞬間、反対側からはミレイの魔法が容赦なく飛んできた。


「な、なんだあいつ!」

「畜生! お前ら、逃げるぞ!」


 賊たちの下半身を《ライトニングアロー》が射貫き、彼らは次々と膝をついていく。不意打ちされた上に挟撃を受け、野盗の集団は瞬く間に制圧された。

 脚が無事だった者は這う這うの体で散り散りになる。半数ほどは逃げることすらできず、その場にうずくまることになった。


「あ、ありがとうございます。助かりました」

「話は後だ。まずは安全な場所まで逃げるぞ」


 律儀に礼を言う剣士に、キョウヤは注意を促して走り出す。ミレイと合流すると、四人は見晴らしの良い丘の上へと移動した。

 もし賊たちが反撃に転じてきても、この場所であれば容易に撃退できるだろう。


「では改めて……助けていただき、ありがとうございました。僕はランドと申します」

「フィノアです……助かりました」


 礼儀正しい白の剣士がランド、口数が少ない黒の魔法使いがフィノアというらしい。

 ほぼ同い年か、あるいは年下にも見える少年少女だ。正反対の色の装備を着用している反面、セミショートの茶髪と灰の瞳は同一のものだった。

 顔立ちもよく似ているように見える。社交的な方が年上だとして、兄妹であると勝手に推測した。


「わたしはミレイ、この人はキョウヤ」


 余計なことを考えていたせいで、ミレイが勝手に紹介を済ませてしまった。

 キョウヤは慌てて「よろしく」と添えた後に本題に入る。


「災難だったな……俺たちは北の街から来たんだけど、この辺りは賊が多いのか?」

「そうですね。治安が良いとは言えないようで……都市では領主が非難されているとも聞いています」


 ランドが憂鬱そうに口を開いた。人々の上に立つ者が責められるとは、よほど酷い領主らしい。

《アルドラスタ》は冒険者ギルドが治安維持に一役買っていると、ソフィーから聞いたことがある。

 そのおかげで面倒事に巻き込まれることは少なかったのだが、これも統治している者の差だろうか。


「ところで、お二人は《オルストリム》に向かわれるのですか?」

「ああ、そのつもりだよ」

「でしたら、同行してもよろしいでしょうか。僕たちも一度戻りたいですし、お礼もさせていただきたいです」


 いつの間にかフィノアと話し込んでいたミレイに目配せすると、彼女は首を縦に振った。

 二人から悪意は感じられないし、信用しても良いということだろう。


「分かった。よろしく頼む」

「ありがとうございます。よろしくお願いします!」


 こうして、四人は都市までの行動を共にすることになった。

 道中では何度か魔物との戦闘が発生したが、ランドとフィノアの二人はミレイの力に驚いていた。

 決して誰かが実力不足というわけではない。彼女の魔法が格別というだけだ。

 光の力を控えていてもそれだから、全力になった彼女の実力は底が知れない。


 ミレイは光属性以外には火と雷を主に使用していた。おそらく近い性質を持つ属性のため、彼女と相性が良いのだろう。

 属性の位置関係はクロックポジションで時計回りに、十二時方向から光、火、土、氷。そして六時方向から闇、水、風、雷となっている。

 それならばキョウヤも水や氷の属性が上手く扱えるかというと、全くそんなことはなかった。


 ミレイとの力の差はどこにあるのか、しばしば考えることがある。

 一つの推測として、やはり最も可能性が高いのは魔力とマナの差。キョウヤが闇属性だけ尖っているのは、マナの代わりに生命力を放出して魔力に変換しているから。

 そう考えるのが辻褄が合う――というよりそれ以外には思い付かなかった。


 とにかく苦痛を伴う以上、闇魔法は決して乱発して良いものではない。

 他の三人の会話を耳に入れながらも、キョウヤは歩みながらあれこれと思いを巡らせていた。

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