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ティルナノーグの冒険者  作者: 有機エリー
一章 始まりの街 アルドラスタ

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第12話 初共闘

 街で買い物を終えた後、二人は再び平原に足を踏み入れた。食料に回復薬に戦利品用の大きな麻袋と、準備は抜かりなく終えている。

 ミレイは今、最弱の魔物を相手に魔法の試射をしているところだった。

 自分はそれを倒すことには未だ抵抗があるのだが、彼女は全く躊躇うことはない。最初にロッドで殴り倒していたのだから、今更の話ではあるかもしれないが。


「楽しそうだな」

「うん。あなたの言った通り、悩んでいても仕方ないから」


 ミレイは周囲にいた数体のヒヨコをあっという間に倒してしまい、今度は虚空に向けて魔法を放った。

 その表情は生き生きとしている。異世界でやってみたいことは皆同じなのだろう。


「羨ましいと言われたのも今は理解できる。八つ当たりしてごめんなさい」

「お互い様だ。俺が無神経だったのも事実だからな」


 強大な力を宿した彼女には、やはり羨望の眼差しを向けずにはいられなかった。だが、それは主観でしかない。

 転生者という点は共通しているものの、それまで身を置いていた環境は全くの別物だ。見解の相違があるのは当然であるし、とやかく言うつもりはなかった。

 

「それより、戦う覚悟はできているのか?」

「うん、大丈夫。いつでも行けるよ」

「じゃあ進むか。危なくなった時は自分の身を最優先してくれ」

「分かった」


 ここまで見ていた限り、力を制御できないということはなさそうだ。

 あとは本格的な戦闘で怖気づかなければ良いのだが、不思議と彼女であれば問題ないと思える。

 ひとまず当日の宿代だけでも稼ぐため、獲物を求めて草原の奥へと進むことにした。





 程なくして、二人は多数の魔物に遭遇することになった。ダガーを手にしたキョウヤの前方には《グラスハウンド》が三体、右後方にも同種が二体。

 断じて油断していたわけではなく、広範囲に散らばっていた獣に連鎖的に認識されたというのが正しい。

 このようにリンクする性質はゲームでは初見殺しとして有名で、そのせいかクソイヌなどと呼称されていた。

 こちらの世界でも同様に厄介な魔物であることに変わりはないらしい。


「ミレイ、そっちは頼んだ」

「任せて」


 もし一人であれば、無傷で突破することは極めて困難な状況だっただろう。

 しかし、今は後方でミレイがロッドを構えている。彼女の立ち姿に一切の迷いはなかった。


 前方の猟犬たちが順番に駆け出した。獲物に対して波状攻撃を仕掛ける構えだ。

 キョウヤは一瞬背後に目をやる。ミレイは右後ろのやや離れた位置に立っており、そちら側の敵と対峙していた。この位置関係ならば、攻撃を受け流しても彼女に当たることはない。

《ウィンドブースト》で風を纏うと、最初の二体の突進を左へと移動して回避する。

 三体目の攻撃に対しては最小限の回避動作にとどめ、横腹にカウンターの刺突を叩き込み、動きが止まった相手に更に一撃を加える。まずは一体。


 振り向くと、丁度ミレイの魔法が敵の一体を屠ったところだった。続けて光の球体がロッドの先に現れる。光属性下級魔法《ライトスフィア》だろう。

 その彼女に対して、先にキョウヤに突進してきた二体が顔を向けた。ゲームらしくいえば、より距離が近い対象にヘイトが移ったといったところか。


「させない」


 風の強化魔法の効果はまだ続いている。素早く距離を詰めると、魔物たちの前を横切る形で斬りつけた。二体の狙いが再びこちらに向く。

 次の攻撃を回避しようと身構えた刹那――身体のすぐ右側を光る球体が通過し、空中へ跳び上がっていた獣に直撃した。肩の辺りに一瞬だけ高熱を受けたような感覚があった。


「ちょっと待て……!」


 後方へと目を向けて制止するが、ミレイはお構いなしに最後の一体に向けて魔法を発射した。再びすぐ横を光球が飛んでいき、肝を冷やす。

 結局、彼女が合計四体もの魔物を倒したことでその戦闘は終了した。


「お疲れ様」

「お疲れ様……って、そうじゃなくて!」


 涼しい顔で労うミレイに抗議の目を向ける。当の彼女は意味が分からないといったように、キョトンとした表情を返してきた。


「君は俺まで殺す気か? ゲームじゃないんだから、射線は考えてくれ」

「あ……ごめん」


 獣が残したコアを拾い、地に置いていた麻袋に放り込みつつ、キョウヤは思案する。

 ミレイの魔力は驚くべきものだ。ただ、現状では自分本位な初心者の戦い方と言わざるを得ない。

 良く言えば伸びしろがあるということではあるが、全面的に頼るのはリスクが大きい。


「本当にごめんなさい。初めての共闘だったから、勝手が分からなくて。次は気を付ける……」

「いや……まあ、結果オーライだ。俺がさっさと片付けなかったのも悪かった」


 心底申し訳なさそうに謝るミレイを、これ以上非難することなどできるはずもなかった。

 いきなり多数の魔物に囲まれたのは想定外だったし、それでも全く被害を出さずに済んだのは彼女のおかげでもあるのだから。


「他にも改善が必要な点があれば遠慮なく言って。足は引っ張りたくないから」

「そんなに気にしなくていい。むしろ助かってるくらいだ」

「そう……ならいいけど」


 こちらが足手まといになる可能性すらあるのに、彼女はどこまでも謙虚だった。

 棘のある態度をとられることはあったが、実際は素直で協調性もあるように見える。良い意味で優等生という言葉が相応しい。


「光魔法ばかり使っているけど、それは大丈夫なのか?」

「この辺りは人がいないから、修練に向いてるかと思って。ちゃんと考えてるから安心して」

「そ、そうか」


 あれこれと気を回すつもりでいたが、しっかり者のミレイには不要かもしれない。

 まだ危なっかしい部分はあるが、それは知識不足というハンデを背負っているからにすぎないだろう。

 そんなことを考えていると、遠くに佇む巨大な魔物の影が目に入った。人間の大人の身長よりも一回り大きく、イノシシのようなフォルムをしている。


「《ジャイアントボア》がいるな」

「……る?」

「行こうか。そこまで強くはないけど、油断はするなよ」


 この辺りではやや強力な魔物だが、今の二人が恐れるほどの相手ではない。他の敵の乱入にさえ注意しておけば、特に問題はないはずだ。

 キョウヤは核を詰めた麻袋を背負うと、ミレイと共にその魔物の方へと近付いていった。

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