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ティルナノーグの冒険者  作者: 有機エリー
一章 始まりの街 アルドラスタ

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第11話 自由と目的

《アルドラスタ》の広場は相変わらず賑わっており、人々の声や足音が絶え間なく響いている。その一角で、新米冒険者の二人は人混みを避けて一息入れていた。

 キョウヤは露店で購入した果物をミレイに差し出した。皮は赤色で丸に近い形状をしている――リンゴだ。


「お金、持ってないんだけど」

「空腹で倒れられても困る。気にするなら戦闘で返してくれ」

「……ありがとう」


 街に戻ってからトラブル続きだったが、ようやく初めての食事にありつくことができる。彼女も食欲はあるようで、意地を張ることもなく受け取った。

 予想はしていたことだが、この身体はゲームのような機械的なものではない。活動すれば疲労は溜まるし、当然のように空腹も感じる。安全な睡眠場所も確保する必要があるだろう。


「あんまり美味しくないね」

「露店の安物だからな。仕方ない」


 噛りついた果実は甘みより渋みの方が強かった。これが標準ではないとは思うが、金銭的に余裕が生まれるまで贅沢はできない。


「でも、生きてるって感じがする」


 そう呟くミレイは晴れやかな表情を見せている。心の枷が外れたのか、張り詰めた空気は感じられない。


「そういえば、キョウヤはこの世界で何をしたいの?」

「……正直、分からない。生きるだけで精一杯だから」


 思い付いたように問いかけられ、悩んだ末にそう答えた。生き残るために動いてはいるが、その先のことを考える余裕はない。

 彼女のように強い意志を持っているわけではなく、どちらかといえば仕方なくやっているようなものだ。

 そういう意味では、恭夜きょうやとして生きていた頃とあまり変わっていないように思える。


 強いて言うなら世界の謎を解明したいが、行く末に何を求めているのかは曖昧だった。

 もし元の世界に戻る方法があるのならば、最初に果たすべきは友人たちとの再会だ。しかし、一度失った命が蘇るとは到底考えられず、夢想するだけ無駄な気がしている。


「ミレイこそ、どうなんだ」

「わたしは、旅をしてみたい。ゲームを始めた時から夢に見てた。現実のしがらみから解放されて、自由になりたいって」


 空を見上げる彼女の目は輝いていた。まるで鳥籠を後にして飛翔する鳥のようだ。


「ここはそんなに甘い世界じゃないと思うぞ」

「分かってる。それでも求めるんだよ。小さい頃に憧れていた魔法を使って、悪い魔物を倒して稼いで。それから綺麗な景色を見て回ったり、美味しい物を食べ歩いたり……」


 無粋な横槍にも動じることなく、ミレイは語り続ける。

 彼女の原動力は、これまでの現実への反発だろうか。その姿があまりにも凛々しく、目が離せない。


「――と、とにかく。せっかく異世界に来たんだから、やれることをやらないのは勿体ないでしょう?」


 喋りすぎたと自覚したのか、ミレイは咳払いをすると話に区切りを付けた。

 改めて意志の強さの違いを実感させられる。彼女が挫折する姿は想像できなかった。


「……強いな」

「本当に強かったら、わたしはこの世界に来ていなかったんじゃないかな」


 キョウヤの一言に、ミレイは意味深な言葉を零した。ほんの一瞬、彼女の表情に影が差したのは気のせいか。


「それはどういう――」

「秘密」


 問い質したかったが、どうやら答える気はないようだ。

 穏やかな表情の裏に何かを隠しているのは明白だ。だが、それに触れてはいけないような気がして、キョウヤは追及することができなかった。





「この後は街の外に出るつもり?」

「そうだな。その前に携帯食と回復薬を買っておきたい。それと大きめの袋も欲しいな」


 軽い食事は済ませたため、再び出かける準備を進めることにする。本当は武器もなんとかしたいが、さすがに今の予算では手が出せない。


「……回復薬って効果あるのかな」

「商売してる人がいるんだから大丈夫じゃないか。まあ、一瞬で傷が癒えるなんてことはないと思う」


 応急用のポーションとマナ補給用のマナポーションは、こちらの世界にも存在している。どれほどの効果があるかは不明だが、万が一に備えて携帯しておいて損することはないだろう。


「袋は何に使うの?」

「ドロップ――戦利品を入れる。ゲームみたいに大量のアイテムを突っ込めるシステムでもあればいらないんだけどな……」


 現状で一番不便に感じているのが所持品の問題だった。重量はともかく容量はどうしようもないため、持ち歩ける量は限られてしまう。


「ねえ、あっちに変な鞄があったよ」


 その時、ミレイが露店の一つを指差した。他の店と比べて目立つ装飾がされており、一目では判別できない商品が複数置かれている。

 それらは中世の世界には不釣り合いな、高度な技術が備わった装置のようにも見える。

 彼女が示したのはそのうちの一つ、隅に置かれた小型の鞄のような物だろう。とんでもない価格が提示されている。


「あの、これはなんですか?」

「ん、マジックケースだよ。空間魔法が込められた魔導具まどうぐで、沢山の物を入れて持ち歩ける。収納も取り出しも自由自在な優れ物さ」


 魔導具は聞き覚えがあった。魔法の力を込めて作られた道具で、マナを動力とするという設定だったはずだ。

 しかし、マジックケースの方は初耳だった。この商人が言っていることに偽りがなければ、所持品の問題が一発で解決できてしまう。


「キョウヤ、これを買うことを目標にしたら?」

「……まあ、当分先だな」


 便利な道具が存在することは素直に喜ぶべきだが、駆け出しの冒険者が用意できる金額ではない。

 入手の見通しが全く立たず、キョウヤの悩みが尽きることはなかった。

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