祐美の想い
四人ともしばらく無言で歩いた。もうすぐ遼平のアパートに着く。
「私ね、心配なんだよね」
祐美がぼそりと言った。
「心配って、遼君のことが?」
美菜が応じた。
「うん、遼君とミーナのことが」
「……」
「二人とも知ってると思うけど、ミーナはね、いろんな不幸を抱え込んでるんだ」
遼平と紫苑が頷いた。
「こんなにきれいなのに女の子しか好きになれない。そのくせ自分の赤ちゃんを今すぐにでも欲しがってる」
「うん」美菜が言った。あとの二人は何も言わないが真剣に聞いている。
「ミーナが菊井の奴を好きになったと聞いたとき、私は喜んだ。これでミーナも幸せになれるって」
「祐美……」
「あの日、ミーナが菊井に呼ばれたとき、私はミーナに言ったんだ。スカートを巻き上げてミニにしろって、ミーナのきれいな脚を見せつけろって。そのせいでミーナは……」
「違う。祐美のせいじゃない。あいつは元々そのつもりだったのよ。部活停止の日を、みんなが早く帰る日を狙ってたのよ」
「うん、そうだと思う。だけど私は、自分が決してやらないことをミーナに勧めた。色仕掛けで男を誘うってこと。もしかしたら、あいつは直前まで迷ってて、ミーナの脚を見て最後の一線を越えたんじゃないかって思ったりもした。そう思うとミーナになんと謝ればいいのかわからない」
「そんな……」
祐美があの事件に対してそんな責任を感じていたことを美菜は初めて知った。ひどい目に遭って自分のことで精一杯で祐美の心まで思いやる余裕はなかった。
「だから私にはミーナを幸せにする責任があると思った。ミーナが望むようにミーナの恋人になろうと思った。ほんとよ。毎日のようにそれは思ってた」
「ほんとに? 勇輔君は?」
「勇輔は好きよ。愛してる。でもそこには多分に体の結びつきが含まれてる。人間としてどちらが好きかと言われたら、ミーナよ。それは断言できる。ミーナ、愛してるよ」
祐美が真っすぐに美菜の目を見つめて言った。
「祐美……」
美菜は両手で口と鼻を覆って祐美の目を見つめ返した。涙が滲んできた。
嬉しかった。一年以上も想いを寄せてきた祐美の告白に泣けてくるほどに嬉しかった。
だけど同時になぜ今なんだろうと思っていた。遼平という恋人ができて結ばれた次の日に。
「今頃何をって思ってるでしょう? 告白したあとも何度もさりげなくアプローチしてくれてたのにね。実はずっと迷ってたの。私でいいのかって。私じゃミーナに赤ちゃんを作ってあげられないから」
「ゆみい」
堪えていた涙が一粒零れ落ちた。片想いだと思い込んでいた一年以上の日々が、実は報われていたのだと知らされて、ただ嬉しかった。
「だから決めたんだ。もしミーナが素晴らしい男と出会って、幸せになりそうなら私は身を引こうってね。と言っても今まで通りだけどね。勇輔をちゃんと愛して添い遂げようと思った」
「うん」涙が止まらない。
「もし、ミーナが寂しさに耐えかねておかしくなりそうなら、自殺でも図りそうな気配が見えたら、その時は告白してミーナといっしょに人生を歩いて行こうと思ってた」
美菜は堪えきれずに祐美に抱きついて、声を上げて泣き始めた。
「祐美、ありがとう。そんなにまで……」
なんとかそれだけ言って、あとは声にならなかった。
すでに遼平のアパートに着いていた。三人に支えられながらアパートの外階段を登り、遼平の部屋に入った。
「これがミーナに隠していたたった一つの私の秘密。ほんとはずっと黙っていようと思ってたんだけど、遼君に嫉妬しちゃったのかな。私だってずっとミーナを好きだったんだよって言いたくなったみたい」
祐美は、泣きながら抱きついている美菜とともに畳の部屋に座った。遼平と紫苑も美菜の両側に座った。
「ミーナは? 私に隠してること何かない?」
美菜の泣き声につられて、祐美が涙声で言った。
そう言われて考えた。あの秘密を話してしまおうかと思った。いずれ祐美には話すつもりでいた。だけどここには遼平も紫苑もいる。遼平には知られたくない。
美菜は祐美の体から離れ、両の手の平の付け根で涙を拭きながら考えた。
そして真っすぐに遼平の顔を見て言った。
「私、これからすごく恥ずかしいことを打ち明けます。人としてどうなのと思われることです。ほんとは遼君には絶対知られたくないことなの」
声が震えながらもなんとか言い切った。
「ちょ、ちょっとミーナ、そんなに大変なことなら無理して言わなくてもいいよ」
祐美が慌てながら言った。
「ううん、ここにいる私の大切な三人に知ってもらいたいの。私という人間が考えたこと、やろうとしたことを。でも……お願い遼君、私を軽蔑しないでね」
不安で泣き崩れそうな思いをこらえて美菜は言った。
「大丈夫です。何を聞いてもミーナさんを軽蔑することは絶対にありません」
思いのほか強い口調で遼平が言った。さらに
「俺には何もできませんが、ただいっしょに泣くことはできます。つらかったねって」
そう言いながらもう泣いている。
「ばかね、まだ何も言ってないのに泣いてるし。でも、ありがとね」
それから紫苑を振り向いて言った。
「紫苑も大丈夫? 大好きな母さんがこんなこと考えてたなんて、がっかりするんじゃない?」
「僕も大丈夫です。きっと母さんのつらいことを四人で共有すれば、四人の絆が強くなると思いますよ」
「わ、紫苑、大人。そうか中身は30歳だものね」
紫苑が照れ笑いを浮かべている。
「じゃあ、いい? 話すね。私が菊井先生に強姦されたあとのこと」




