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親子対面

 放課後、美菜は教室で祐美を待っていた。

「ごめーん、遅くなっちゃった。帰ろうとしたら会長が呼び止めるもんだから」

 慌ただしく祐美が戻ってきた。

「うん」

「どうした。緊張してるの?」

「だって……」

「そっか、親子の初対面だものね。紫苑君が『おかあさーん』って抱きついてきたらどうする」

「やめてよ。ただでさえどきどきしてるのに、逃げ出したくなる」

「そう? じゃ、すっぽかす?」

「そういうわけにもいかない。遼君の友だちなんだし、私も本人に会って確かめたいし」

「そうだよね、じゃあ行こうか」

「うん」

 連れだって中庭に向かった。

 遼平と紫苑は芝生に座って待っていたが、美菜たちに気づいて二人とも立ち上がった。

 美菜は周りを見渡した。他に人はいなかった。一人だけ隅の方でブラスバンドのフルートの子が椅子に座って個人練習をしていた。聞いたことのない曲を奏でている。

 紫苑は美菜以上に緊張している様子だった。背は高くない。美菜と同じくらいに見えた。全体的に幼い印象だが、目は知的な感じがした。

「か、母さん、は、初めまして」

 緊張のあまりか、口ごもりながら紫苑が言った。

「紫苑、本当に、わ、私の子なの」

 紫苑の緊張が伝染したのか、口が強張っていた。

「はい。もちろん赤ちゃんだった僕にその記憶はありませんけど、雪さんはそう言ってます。それに……」

 紫苑は言葉を途切らせた。話そうか迷っている気配がした。

「爺ちゃんが教えてくれたんです」

「爺ちゃんって私のお父さん?」

「はい」

「お父さん、何だって」

「石谷家はアルビノの家系だって。僕、アルビノなんです」

 それは美菜も父親から聞いたことがあった。美菜の祖父の妹、美菜にとっては大叔母にあたる人がアルビノだったそうだ。銀髪で碧眼、西洋人の女優のような美しい人だったが、18歳の若さで亡くなったと聞いている。

「そう、じゃあまちがいないのね」

「ミーナ、アルビノって?」

 祐美が言った。

「生まれつきメラニンがほとんどない遺伝病よ。色素がないから髪も皮膚も白くて、目は青くなるそうよ」

「それって病気なの? 色白で銀髪で目が青かったら外人さんみたいで恰好よくない?」

「そうだけど、メラニンがないと紫外線から身を守れないのよ。太陽に当たると皮膚が火傷みたいになっちゃうし、皮膚がんになる恐れがあるんだって。そうだよね、紫苑」

「はい、そうです。だから僕は日中は外に出たことがありません。小学校も中学校も行ったことがなくて、高校は夜間に通ってました」

「あらそうなの。アルビノの人でも紫外線対策をして、普通に暮らしてるって聞いたことがあるけど」

「お医者さんが極力外に出ないようにって言ったらしくて、雪さんがそれを徹底して守ったんです。僕を無傷のまま母さんに返すのが自分の使命だって、そのために自分は生きているんだって言ってました」

「そうなの。雪さんらしいね。でも、学校行かないで勉強はどうしてたの」

「毎日、家庭教師の人に来てもらってました。ほら、うちお金持ちですから。爺ちゃん、どこかの会社の社長らしくて」

「そうなんだよね。紫苑、会社の名前、聞いたことある?」

「何回か聞いたことがありますけど教えてくれないんです」

「私もそう。何度聞いても絶対教えてくれないんだもの。子供や孫に教えられない会社とか何なんだろうね。きっとなんか悪いことしてる会社じゃない?」

「僕は風俗関係かなって思ってました。爺ちゃん、ちょい悪親爺っぽいので」

「ちょい悪親爺!」

 紫苑の絶妙なたとえに思わず笑ってしまった。紫苑も笑っている。

「やっぱり親子なのかな。ミーナが遼君以外の男の子と楽しそうに話すの初めて見た」

 祐美が言った。

 確かにそうだ。遼平以外の男とまともに話したことはなかったような気がする。しかも、初対面。小さな子以外で初対面でこんなに打ち解けたのは初めてだ。

 つい数時間前に遼平に告げられたことでもあり、まだ戸惑いはあるが、心の底では紫苑を我が子として認めている気がした。

 そう思って紫苑の顔をまじまじと見つめた。

 他人に乗り移っているためか、自分や父親に似ているところはない。ただ、目だけは、目の色を通して垣間見える内面には、自分と近しいものがあるような気がした。

「うーん、違うね。遼君以上だ。遼君と話してるミーナは少し自分を飾ってるような気がするけど、紫苑君と話すときは素のミーナだ。私と話してるときと同じ」と祐美。

 そうかもしれない。遼平には嫌われたくないという思いが強く、完全には素の自分を出せていないのかもしれない。

「あ、遼君ごめんね。遼君より紫苑君がミーナに合ってるって意味じゃないからね。恋人には当然自分を飾ろうとするのが普通だから。恋人としては遼君が一番だからね」

「はい、大丈夫です。俺も、紫苑君とミーナさんが大好きだから、大好きな二人が仲良くしてるのは嬉しいです」

「そう、だったらいいけど……」

 遼平はこの状況を明らかに喜んでいる。祐美はまだ半信半疑だ。

「これはもう認めるしかないのかな。なんだかなあって気はまだしてるけど。ミーナはどう」

「私は……、紫苑は私の子だと思う。間違いない、私の子よ」

 美菜は言い切った。

 この子は、紫苑は美菜を救うために32年後の世界からやってきたんだ。なぜだかわからないがそんな気がしていた。遼平と美菜にとって大切な存在になるのかもしれない。

 美菜はそんな思いで紫苑を見つめていた。


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