情事の記憶
次の日、月曜日の一時間目の休み時間、美菜は机に突っ伏していた。
「どうした。日陰の花みたいにしょぼくれちゃって」
祐美が近寄って声を掛けてきた。
「ゆみーーー」
美菜は祐美に抱きついた。
「お、どうした」
「遼君に会いたい」
祐美の耳元で囁いた。
「遼君? 学校来てないの?」
「ううん、来てると思う」
「だったら会いに行けばいいじゃない。階段一つ降りればすぐだよ」
「だめ、顔見たら『りょうくーん』って抱きついちゃう」
「そうかそうか、そんなに遼君のことが好きになったのか」
祐美は美菜を座らせ、自分は前の席に後ろ向きに跨った。
「それで、山、行ったんでしょう。シオン咲いてた?」
「うん、いっぱい咲いてた。遼君驚いてた。それで遼君、低体温症になった」
「ちょっと待て。シオンと低体温症がどう結びつくのよ」
美菜は顛末を説明した。突然の大雨でびしょ濡れになり、着替えも濡れていて、遼平が低体温症になって意識を失ったこと。
「そうだったんだ。でも大丈夫だったんでしょう」
「うん、祐美に教えてもらったことしたら、遼君戻ってくれた」
「え、裸で抱き合ったの?」祐美が顔を寄せ、小声で言った。
「う、うん」顔が赤くなるのを感じた。
「大丈夫だった? 拒絶反応出なかった?」
「うん、遼君助けようと必死だったから」
「そっかあ、じゃあよかったじゃない。怪我の功名だね」
「そうなんだけどね。その後、遼君のが私の中に入っちゃって……」
「は?」
「だから、遼君のあれが」
「まさか、男の証拠?」
「う、うん」美菜は両手で顔を覆って言った。たぶん真っ赤になっているはずだ。
「セックスしちゃったんだ。山小屋で」
嬉しそうに祐美が言った。
「他にだれもいなかったの? 山小屋」
「あたりまえでしょう。だれかいたら裸になんて……」
ならない? いや、遼平を助けるためなら、
「……なってたかもしれない」
「裸に?」
「だって、あのまま遼君が冷たくなってたら私も後を追うつもりでいたから。死ぬことに比べたら裸を見られることなんてたいしたことない」
「凄いね。あのミーナが……裸を見られるのも厭わず遼君を助けようとする。うん、愛の力だね」
「うん、自分でも信じられない」
「それで、どうだった。気持ちよかった?」
「え、何が」
「だから、遼君とのセックス」
一瞬答えに窮した。恥ずかしすぎる。だけど祐美に対してはお互い隠し事はしないと約束を交わしている。だれかに話したいという気持ちもあった。
「最初は微妙だったけど何回かしてたら凄く気持ちよくなっちゃって……」
「何回かって、何回したの」
「えっと、覚えてない」
「は? 覚えていないくらいたくさんしたの? 山小屋で?」
「違う、違う。山小屋では一回だけ。あとは帰って遼君のアパートで」
「ははーん、一緒にお風呂入ってっていう流れか」
「なんでわかるのよ」
「だいだいそうなるでしょ。それにしたって覚えてないってことは一回や二回じゃないってことは確かだね」
「あ、あのね、カウントの仕方によっては二回かも。山小屋とアパートで一回ずつ」
「ん、どゆこと」
「出し入れしたのは二回だけなの」
「だ、出し入れ! やめて卑猥すぎる。むしろ挿入って言ってくれた方がましかも」
「嫌よ。その言葉嫌い。強姦をイメージしちゃう」
「そうなん? で、どういうことよ」
「えっと、遼君が行っちゃって私の中に出しちゃうでしょう。そのままおしゃべりしたり、キスしたり、私の体をあちこち触ったりしてると、盛り上がって来てまた始まっちゃうの。その繰り返し」
「そっか、そういうことか。それで、あちこちってどこよ」
「あちこちはあちこちよ」
「おっぱいとか?」
「あー、そうだったかな。いいじゃない、細かいことは。ご想像にお任せします」
「えー、そんなことまでしちゃったの? いやらしい」
「やめて変な想像しないで」
「どっちだよ」
顔を見合わせて笑った。
「もう祐美ったら、冷やかすの名人だね」
「ミーナの心からの笑顔、久しぶりに見た気がする。ミーナ、幸せ?」
「うん、とっても。祐美のお陰」
二時間目の授業の始まりを告げるチャイムが鳴り、祐美は自分の席に戻った。
数学の授業が始まったが内容が全く頭に入ってこない。ともすると昨夜の情景が頭に浮かんできて体が疼いた。
そうかと思うと、低体温症で遼平を失いかけた恐怖が蘇り、悲鳴を上げそうになる。
こんなことをしている場合ではない。遼平のそばにいて、すべての災いから遼平を守りたい。今や遼平の存在が自分の命より大切なものだと痛切に思われた。




