あてね
「美術の時間は嫌いだ。なぜなら自分の壊滅的な芸術的センスが露呈するから」
「何、どうしたの?授業中に独り言なんて」
「お前が応えたから独り言ではなくなったよ。でもこうして授業中に会話する時間は案外好きだな。他の人がやってたらうるせー殺すぞってなるけど」
「物騒」
「さてさて、息抜きにミミミの絵でも拝見しましょうか…………見なきゃ良かったぜ」
「え、どうして?我ながら最高傑作だと思うのだけど」
「お前の描いたその……何像だっけ…アテネか?そのアテネ像の絵が最高の傑作だからこそ見なきゃ良かったんだよ。俺のアテネが不憫で仕方ないぜ。俺の描いたアテネはなんだか、あてねって感じだ」
「産み落としたんだから責任を持って」
「やめろよそういう発言は!ほら、周囲のクラスメイトが誤解と軽蔑の視線を俺に浴びせてきてるから!」
「そう、ごめんなさい。あなたが産んだ子ではなかったわ」
「そうそう、産むってんならお前だよ……ってこの発言はダメだよな」
「思ったんなら言うな」
「ところでどうしてミミミの絵は上手いんだ?」
「ご賞味してくれたの?」
「そんなわけねーだろ。美味いじゃなくて上手いだ」
「知ってる。まあ確かに変ね。小学校の頃からそういう美術系統の事に関して秀でていたのだけど、それに対して全くもって真摯に向き合う事をしてこなかったし」
「努力していないのに出来てしまう。一方俺は何回やってもアテネが死んでる。世界ってやつは不平等だ」
「上手な絵なんて描けても、その道で食っていく人間にしか得は無いから。それに、少し視点を広げれば、私より上手い人なんていくらでも………ほら、美術部のコムラさんは知ってる?」
「ああ、よく話すな」
「彼女、県のコンクールで金賞を取ったことがあるらしいの。それも何回も。そういう子と比べたら、私の絵なんて凡も凡」
「確かにそうかもしれないけど、でも僕からしたらコムラもミミミも同じくらい上手いんだぜ?女子バレー部のお前がそこまでしてムキにならなくてもいい気はするが」
「女子バレー部の絵が上手かったら変なの?」
「………いや別に変ってわけじゃないけどさ、美術部と比べて上手かったらそりゃなんか深い理由があるんじゃないかって思うだろ」
「まあ妥当ね。私が彼女と私を比べているのは、絵だけの理由じゃないの」
「へえ、なら聞かせてほしいものだけど」
「…………」
「…………」
「………まだ、言わない」
「なんだよそれ。まあ、お前が言いたくないんなら無理に言わなくてもいいけどよ」
「いずれ必ず言うから。楽しみにしてて」
「分かった。楽しみにしてる」