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襲撃


 怒号は響き渡り、段々とこちらへと近づいて来ている。


「一体何が起きているの……?」

「……」


 何が起きているのか分かっていない様子の東堂さんに、焦りの様子が見え始めている。

 それに対し、愛音は冷静だ。むしろ冷たい視線を東堂さんに向けたまま、私の頭を軽く撫でてくれている。


「ねぇ!答えてよ!何が起きているの!?」


 質問に答えない愛音にイラついたのか、東堂さんが愛音に向かって怒鳴った。

 今の東堂さんは、いつもの無表情さがどこにもない。いつもののんびりとした口調もなくなってしまい、東堂さんのキャラクターが崩壊している。

 追い詰められて、素が出てしまっているのだろう。


「静流。貴女は人間に、ハメられたのよ」

「ハメられたぁ?どうして私がっ!」

「静流に接触したのって、石塚っていう人間でしょ?彼は第六感で、話している相手が化け物かどうか分かる人間みたい。初対面の私をずっと化け物だって言って聞かなかったし、本人も言ってるからたぶん本物。彼とは色々あって、私への対応を保留してたのよ」

「分かる、人間……あいつが……?」

「で、その石塚が今朝方学校に行こうとした私の家にやって来た。ママは朝早く仕事に出掛けていなかったから正体はバレていないと思うけど、やっぱり私に対しては化け物扱いで、最初に殺虫剤を使われた。でも実は私、殺虫剤に耐性があるのよね。前にもやられた事あるんだけどその時も、今回も私は死ななくて、イラだった様子の石塚に家の中に引きずり込まれて監禁されて、また殺虫剤を使われた。でも、私は死なない。石塚以外にも警察の連中がたくさんやって来て、私は家の中で警察に包囲され、それで学校にも行けなくて、連絡も出来なくて……」

「ま、待って。石塚が分かる人間なら、どうしてわざわざうちや桜から愛音の情報を引き出そうとなんかしたの?だって愛音が化け物だって最初から知ってたって事でしょう!?そもそも……うちが化け物だって事も分かるはずでしょう!?聞く意味がない!」

「そうよ。石塚は全部知っていた。その上で、静流に、咲夜が私を裏切って情報を流してくれたと吹き込んだ。石塚の目論見通り、静流は怒って咲夜を連れ去り酷い事をした。でも安心して。石塚達は静流に対して見張りをつけてたりなんかしていない。そんなのがいたら、静流が気づいて行動に移してくれなくなってしまうものね。私は静流の行動に途中で気づいたけど、咲夜はもう新種の連中の隠れ家に連れ去れた後で、中々見つける事が出来なくて慌てたわ」

「そ、そうだ。どうやってここを見つけたって言うの……!?」

「咲夜の耳の中に、私の分体が入っているのよ。それで分体がいる大体の方角が分かるし、何より静流が病院の地下だって教えてくれたから、場所は絞れたわ」

「分体を、人間なんかに預けたって言うの……?狂ってる」

「ありがとう」


 狂ってると言われ、愛音は皮肉のようにお礼の言葉を述べた。

 だけど私から言わせてもらえば、狂ってるのはよっぽど東堂さんの方だ。私の大切な人を、そんな風に言わないでもらいたい。


 けど、今の私には抗議の声をあげる事も出来ない。


「それでどうして、この場所が人間に襲われる事にな──……あんたまさか、人間達をここに引き連れて来たの……?」


 東堂さんは途中まで聞きかけて、自分で答えに辿り着いたようだ。


「そうよ。だって私、監禁状態だったんだもの。その状態で彼等を振り切って咲夜を探しに行くなんて、不可能よ。咲夜が静流に捕まっている事に気づいて、人間じゃない力も駆使して急いでここに駆け付けたの。静流が咲夜を浚って、私が浚われた咲夜を探しに行く。石塚は咲夜を探しに行った私についていくだけで、化け物のアジトを襲撃する事が出来る。全部、石塚の目論見通りと言う訳ね」

「あ……あんたのせいで、この場所がああぁぁぁぁぁ!」


 怒りの声をあげる、東堂さん。触手が背中から生えて、顔面も形が変わって化け物の顔となる。


 東堂さんの化け物の姿は、愛音と少し違う。顔は横に長い目が6つ、左右に均等に並んでいて、口には細長い管のような物がついている。


「化け物同士で、殺し合いでもするつもり?」

「同類を裏切った者には、罰くらいあってもいいはず!でしょう!?」

「言っておくけど、私も結構怒ってるから。咲夜にこんな事をしたお前を、出来ればこの場で殺してあげたい」


 化け物同士で、殺し合いはしない。愛音も、東堂さんもそう言っていた。でも私の前で睨み合う2人は、一触即発な雰囲気を漂わせている。


「……」

「……」


 でも、睨み合うだけで戦いは始まらなかった。


 そうこうしている内に、部屋の中に煙を吐く何かが投げ入れられた。その煙が鼻の中に入った瞬間、私は目眩に襲われた。この感覚、前にも味わった事がある。

 これは、石塚たちが言っていた殺虫剤だ。


「うっ、ごっほ、ごほごほ!お、えぇぇぇぇ!ごっ、おぉ!」


 煙を吸った東堂さんが、喉を押さえながら激しくえずき始めている。対化け物用の物なだけあって、私よりもかなり効いているように見える。

 だけど愛音は煙を吸っても、大きなリアクションは見せていない。ちょっと嫌そうに顔をしかめるだけで、煙を払おうともしない。

 更には私を抱きしめ、なるべく煙を吸わないようにしてくれた。それは嬉しいんだけど、煙が充満するこの部屋の中にい続けたら無意味だ。


「大丈夫よ、咲夜。咲夜は、私が守るから」


 心配げな私に対し、愛音はニコやかに笑いかけて来る。


「化け物を発見!殺虫剤、もっと撒け!」

「了解!」


 男の声が部屋の外から聞こえて来て、更に3つ程、煙をまき散らす機械が部屋の中に投げ込まれた。あっという間に、部屋の中が煙で充満して白く染まってしまう。


「突入!」


 白く染まった部屋の中に、ガスマスクをつけた男達が慌ただしく入って来た。防弾チョッキを装着した彼等は、テレビとかでしか見た事のない、特殊部隊と呼ばれる人たちだ。格好がそう。全員手には銃器を手にしているし、こちらもテレビでしか見た事がないけど、たぶん本物だろう。


「ひ、一人、殺虫剤が効いていない……もしかして、人間か……?」


 煙が充満する部屋で、一人佇む愛音を見て特殊部隊の人達が戸惑っている。


「っ……!っ!」


 隅っこの方では、喉を押さえて声にならない悲鳴をあげながら、床を転げまわる東堂さんがいる。

 よほど苦しいのか体中から触手が出て来て床をかきむしり、顔は化け物の顔に変化したり、東堂さんの物になったりと定まらない。


 そんな東堂さんが、特殊部隊の男に足で体を押さえつけられて動きを止められた。動きが止まった東堂さんに対し、特殊部隊の男の一人が銃を向け、そして引き金を引く。

 男が持っていたのは確かに銃ではあるんだけど、発砲音というより、炭酸のジュースの蓋を開けたような、ガスが抜けるような音がした。そして銃身から飛び出したのは注射針で、それが東堂さんの胸に突き刺さっている。


 どうやら男達が持っている銃は、ガスで注射針を飛ばす銃で、本物ではないようだ。


 だけど注射の威力は抜群で、注射針の毒がトドメになったのか、東堂さんは最後にビクリと身体を動かして沈黙。その身体がドロドロになって溶け始めた。


 一応は人の形をした、少女に対しての行動なんだけど、全てに一切のためらいがない。


「殺虫剤をこれだけ吸って無事でいられる人間がいるかっ!こいつはあの刑事が言ってた殺虫剤が効かない化け物だ!銃を構えろ!」

「は、はっ!」


 東堂さんを殺した特殊部隊の人達が、私と愛音に向けて手にした銃を向けて来る。

 相手の人数は、5人。だけど愛音は、全く慌てたりしない。


 直後に、合図もなく特殊部隊の一人が注射を発射した。

 だけど注射は愛音に命中する事無く、気づけば愛音のスカートの中から伸びた触手に握られて止められていた。


「くっ!?」


 ならばと続いて2人が連続して銃を撃つも、そちらは触手によって弾き飛ばされた。弾き飛ばされた先には、特殊部隊の人がいる。

 2名の人間の足に注射器が刺さって、2人は慌てて針を取り外すも、直後に倒れた。


「私を他の雑魚達と同じに見ない方がいいわよ。次、もし私に敵対的な行動をとったら……命は保証しない」


 愛音が冷たい視線を特殊部隊の人達に向けると、空気がピリついた。


「た……退避!退避!こちらA班!至急応援を求む!繰り返す──!」


 愛音の視線に耐えかねた特殊部隊の人達は、倒れた2人を引き摺って部屋から出て行く。出て行きながらも銃を構え、班長と見られる1人は無線で応援を呼ぶ行動をとっているけど、愛音は興味なさそうに冷たい目線で見送るだけだった。


「少し、荒れそうね。咲夜は私の中にいて」


 愛音が私の耳元で優しく囁くように言うと、愛音の触手が一本、私に向かって伸びて来た。その触手は先端がわれて、中に空洞がある。中身は肉が蠢いており、ネバネバとした液体が糸を引いている。

 触手は中身を見せつけるようにしてこちらに近づいて来ると、やがて私を頭から飲み込んで、私の視界は暗闇に包まれた。


 暗いけど、怖くはない。愛音の温もりをダイレクトに感じ、蠢く肉が優しく包み込んでくれるので安心感まである。


『少しの間、眠っているといいわ。疲れたでしょう?とても痛かったよね……。私のせいで、ごめんね』


 愛音のせいなんかじゃない。

 耳の中で聞こえて来た愛音の謝罪に対し、反論も出来ない自分がもどかしい。


 結局私は何も出来ないので、愛音に言われるがままに眠りについた。


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