表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/18

変化した学園生活


 翌日から、私に関する新たな噂が広まる事になった。


 私の顔面の傷は大した事がなく、慰謝料がどうのは出鱈目で、私と七瀬さんは和解した、とかそんな感じの。

 それにくっついて、私がキレたという噂も広まった。キレた理由は、皆が憶測で勝手な噂を流したから。だけど皆は庇おうとしただけなのに、突然キレて訳が分からない奴だとか。そんな感じの。


 今回流れた噂は、いつもよりは割と事実に基づいている。キレたおかげだろうか。

 変な噂だったとしても今更気にするつもりはないけど、尾ひれがつかずにほとんど事実なのが逆になんか気持ち悪い。


 ただ、その日から私の学園生活は、少しだけ変わった。


「桜、わりぃ。さっきの授業のこの問題、教えてくれ!」

「ん。いいよ」


 休み時間に入った所で、鬼灯さんが私の席へとやって来るようになった。そして親し気に話しかけてくれて、休み時間は暇にならない。


「巡は相変わらずバカだなー」

「うるせぇよ。こう言ったらなんだけどな、アタシは身体を動かす方が得意なんだ。だけどこんな進学校に入った今、勉強についてくだけで必死なんだよ。頭のイイ奴らに頼らないとやっていけねぇんだよ……!」

「ま、知ってるー」


 鬼灯さんについて、東堂さんもやって来ている。


 私の席は愛音の隣だから、いつもはここに集まっても愛音と3人で話していた2人が、停学中の愛音の代わりに私と話すようになっている形だ。


「この問題は、この間習った公式を当てはめれば割と簡単に解けるよ。これ、覚えてない?」

「あ、あー……そういやなんか言ってたな……」

「まずはこの公式を覚えておいて。で、問題を公式に当てはめて……で、こうなったっていう訳」

「……そもそも公式の当てはめ方が、よく分かんねぇ」

「よーし、最初からやっていこう」


 ノートに書き込みながら、頭を抱える鬼灯さんのために問題を最初から教えていく。こういうのは予習になって、割と自分のためにもなるので歓迎だ。


「はい、二人ともこっち向いてー」


 鬼灯さんに真面目に勉強を教えていたら、東堂さんがそう声を掛けて来た。2人とは、当然私と鬼灯さんの事である。2人で同時に声を掛けて来た東堂さんの方を向くと、東堂さんはスマホのカメラをこちらに向けていて、目線が合った所で撮影され、シャッター音が響く事になる。


「何を勝手に撮ってんだよ」

「撮るなら撮るって言ってよ」


 不意打ちで鬼灯さんとのツーショット写真を撮られ、何事かと2人で抗議すると、また写真を撮られた。

 慌てて写真写りを気にして髪の毛を手櫛で整えたけど、もう遅い。


「んで、送信……と」

「誰に送ってんだよ……」

「愛音だよー。巡が桜に勉強教わっててウケるって」

「いや、ウケるなよ。真面目で偉いだろうが」

「あ、返事来た」

「はえーな。何だって?」

「カワイイって」

「かわっ……」


 返信の内容を聞いて鬼灯さんが照れている。確かに、可愛い。


 先日、鬼灯さん達が愛音の家に行った次の日から、2人は私と親しく接するようになった。

 最初は戸惑ったね。

 さすがに様子がおかしいので愛音や鬼灯さん達に尋ねてみたら、どうやら愛音が、過去の事はなかったことにして私と仲良くしたいと2人に言ったらしい。そして鬼灯さんと東堂さんは、会いに行った愛音が昔みたいに元気になっていたのが嬉しくて、それを私のおかげだと考えているようだ。面倒な考えはあっちにおいといて、とりあえず目の前の嬉しい出来事だけを受け止めてそこで思考が停止している。

 まぁ何をしたとか細かい事は聞いてこないので、現状はそういう事にしておこう。追及されたら今度はこちらが面倒になるからね。愛音も困るだろう。


 そんなこんなで、高校に入ってから初めて人間の友達が出来ましたとさ。当初私を虐めていた人達とこんな関係になるだなんて、思いもしなかった。

 話してみると、案外2人ともユニークで喋りやすく、なにより友達想いのいい子だという事がよく分かる。私も話していて楽しいし、こんな友達が出来て良かったと思える。


 それ以外のクラスメイトからの視線は、痛い物があった。確かに、今の状況は事情を知らない者にとってはよく分からないだろうよ。でもいちいち説明するつもりもない。かと言ってこれ以上突っぱねるつもりもないので、話しかけてきてくれたら普通に接するつもりではある。難しそうではあるけど。


 今はこの狭い交友関係だけで充分だ。ここに愛音が加わったらもっと楽しくなるだろう。


 こうして愛音の停学が早く解ける事を願いながら過ごしていると、あっという間に一週間の時が流れた。




 いつも通りの、朝。朝の支度を終えた私は現在、スマホを手にして最近始めたばかりのゲームをしている。

 私は始めたばかりではあるけど、ゲーム自体はそれなりに年季が入っているから面白さには定評がある。私も面白いと思う。


 ゲームをしながらのんびりと朝の時間を過ごしていたら、家のチャイムが鳴り響いた。


「──おっと」


 慌ててゲームを終えると、私は立ち上がった。

 ゲームを消しつつスマホで時間を確認したら、約束の時間よりも少し早い。時間を忘れていた訳ではない事に安心しつつ、私は家の玄関へと向かう。


 そして玄関の扉を開くと、家を訪れた相手を玄関に迎え入れた。


「おはよう、咲夜」


 朝の挨拶をして来たのは、愛音だ。制服姿の彼女は、いかにもこれから学校に行きますって感じの装いで私の家を訪れた。

 そして私も制服姿で、いかにもこれから学校に行きますって感じだ。


 まぁつまり、2人で一緒に登校するためウチで待ち合わせたっていう訳だ。


「おはよう、愛音」


 今日が、愛音の停学明けとなる。

 会うのは2人で出掛けた日以来だけど、スマホで連絡し合っていたのでコミュニケーションはとっていた。その中で、愛音が停学明けに一緒に登校したいと言い出したので、一緒に登校する事になったのだ。


 虐めてた相手が停学になり、その停学明けに虐めてた相手と仲良く登校とか、どうなの?そう考えていた時期が私にも一瞬あったけど、もう深く考える事はやめた。


「少し早く来ちゃった。準備はもう終わってるの?」

「うん。スマホでゲームしてた」


 出かける準備はもう出来ているので、私は玄関で靴を履きながら質問に答える。

 靴を履き終わると、あとはもうカバンを持って家を出るだけだ。


「なんていうゲーム?」

「モンパラ」


 『モンスターパラダイス』。略してモンパラ。それが先程話したゲームだ。

 ガチャでモンスターを引いて増やし、引いたモンスターを指で引っ張って飛ばす単純なゲームで、単純だけど奥が深い。


「ふーん。咲夜がやってるなら、私もやろうかな。後で教えてくれる?」

「私も始めたばっかだから、素人みたいなもんだけどね。それでもよければ、一緒にやろ」

「ええ」

「……」


 楽しみだと笑う愛音は、人間にしか見えない。いや、人間以上に人間らしく、そして可愛らしい。


 そういえば、私が愛音の化け物の姿を見たのは、学校の屋上で、たった一度きりである。化け物の話題も、一週間前にしただけでそれ以来していない。

 疑っているって訳じゃないけど、そろそろもう一度確認しておきたくなってきた。


「ねぇ、愛音」

「なに?」

「愛音って、本当に化け物……なんだよね?」


 前に2人でショッピングモールに行った時は、失礼かなと思い、化け物と言う言葉は伏して聞いた。だけど愛音が自らを化け物と呼称しているし、傷つけたりする事もないかと思ってその単語を使わせてもらう事にした。


「そうね。間違いなく化け物よ」


 愛音は呆気なく認めると、私に向かって手を伸ばしてきた。

 その手を見つめると、手がいきなりパックリと割れて、中から無数の灰色の触手が私に向かって伸びて来る。


「わっ」


 伸びて来た灰色の触手が、私の腕に絡んで来た。私の腕を、手の先から螺旋状に絡んできて、軽く締め付けられる。触られた感触は、ゴムの塊のよう。ただ、ブヨブヨというよりはガッチリとしていて、ちょっと硬めかな。

 私の腕に絡んで来た触手は肉付きがいいけど、他の無数の触手は骨ばっていて、痩せている。その違いが何を意味するかは私には分からない。


「どう?」

「……確かに、間違いなく化け物だ」


 私は絡まれていない方の手で、触手に触れながらそう確信を得る事が出来た。

 けっこう硬いけど、撫でると案外肌触りがよくて気持ちいい。爬虫類……蛇とかってこんな感じなのかな。触った事はないけど、そんな気がする。


「咲夜って、やっぱ変わってる。こんな状況になったら普通の人間は驚いて、パニックに陥るんじゃないかしら」

「いや、ちょっとは驚いたよ。でももう愛音の事は知ってるし、パニックになるまではいかないよ」

「そういう意味じゃなくて、化け物にいきなり触手で腕を掴まれたりして、不快にならないの?」

「不快……て感じもないかなぁ。むしろ愛音の触手、触り心地いいよ」


 手で撫でつつ、感じたままの感想を述べる。


「ふふ。そんな事言われたの、初めて。さ、学校に行きましょ」


 そう言うと、愛音は触手をその体内に戻した。そして今度は、人の手で私の手を掴み取り、家の外へと引っ張っていく。


 愛音が化け物だと言う事は、再確認できた。でもやっぱり、私の手を引っ張るその手は人の物としか思えなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ