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いい機会


 この町には、わざわざ県外から足を運ぶ者がいる程の大きなショッピングモールがある。よく安売りをしているし、スーパーも入っているので地元民からも愛されるショッピングモールだ。私もよくお母さんと行く。昔は友達とも行っていたけど……まぁ高校に入ってからは友達と足を運ぶ機会なんてなかった。なので、コレが高校になってから初めて友達と行くショッピングモールである。


 いや、待て。私と七瀬さんの関係を、友達と言っていいのだろうか。そもそも今の七瀬さんは人じゃなくて、化け物だよね。


「桜さんは、どこか行ってみたい所あるの?」

「あ、あー……服、とか?」


 家を出て、私は七瀬さんと並んで歩いている。向かっているのは、バス停だ。ショッピングモールまでは無理して歩けば行けなくもないけど、さすがに時間がかかりすぎる場所にある。なので今日はおとなしくバスを使う事にした。


「同じね!私も服を見てみたい!」


 こうして会話しながら歩いている私と七瀬さんは、はたから見れば友達同士にしか見えないんだろうね。


 まぁ今は、深い事は考えずに友達同士という事にしておこう。


 それからも、七瀬さんと会話をしながらショッピングモールへ向かう。

 道中は、やっぱり楽しかった。久々の友達とのお出掛けで、テンションがあがっているのかもしれない。七瀬さんも無邪気に色々と話しかけて来てくれるので、会話が途切れず暇にならない。

 例え相手が化け物だとしても、友達とのお出掛けは楽しい物だ。


 そうしてショッピングモールに辿り着くと、更にテンションが上がって来る。

 見渡す限りの、お店、お店、お店。様々なブランドの服屋さんに、オシャレなカフェや食べ物屋さんが目に入ると、その全てに行きたくなってしまう。


「ふふ。桜さん、目が輝いてる」

「いやいや、子供じゃないんだから……」

「まさに、子供みたいだったわよ」

「マジで?」

「マジで」


 実際心は踊るような気分だったけど、外に出ていたとは思わなかった。こういうのって、自分じゃよく分からないよね。気を付けよう。同級生に子供みたいだなんて言われたくないし。


「さ、行きましょう。まずは服ね」

「う、うん……」


 七瀬さんは、そう言うとまた私の手を握って歩き出した。

 その手に引っ張られる形で、私は服屋さんの中へと吸い込まれて行く。


「──凄く似合ってる。胸元が可愛くて、手をいれたくなるわ」

「いや、いれるな。それよりコレ、ちょっと大胆すぎない?」

「それくらいがいいのよ」

「でも私胸そこまで大きいって訳でもないし、ブラが見えちゃいそう……」

「それはそれでいいわ」

「なんにもよくないわ」


 服屋さんの中へと吸い込まれて行った私は、現在試着室で服を試着している所である。

 今来ている服は、肩を大胆に露出し、ついでみたいに胸元も大胆に出したいかにも大人向けなトップスである。大人の中でも、こんなのセクシー系な女優さんしか着ていない気がする。というか少し肩からズレ落ちたらもう丸出しだ。いつズレ落ちるか心配すぎて、こんなの着て外なんて歩けない。

 この服を選んだのは、七瀬さんだ。私に似合うから是非着て欲しいと迫られたので着たけど、普段の自分なら絶対に着ない服だった。


 改めて鏡で自分の姿を見てみると、恥ずかしくなってくる。

 こんな姿を他の誰かに見られるなんてごめんだ。本来なら七瀬さんにも見られたくない。


「じゃ、じゃあ着替えるから」

「次はコレね」

「……次?」


 さっさと試着室のカーテンを閉めようとしたけど、その前に七瀬さんから服を渡された。一応受け取ったけど、言葉の意味に理解が追い付かず、聞き返す。


「そ。次の服。待ってるから、着替えてね」


 そう言うと、七瀬さんは試着室のカーテンを閉めてしまった。

 どうやらまだ、私のファッションショーは続くらしい。


 次の服は、露出は割と少な目だった。ただ、全身至る所にフリルのついたいわゆるゴスロリファッションと呼ばれる服で、やはりコレも自分では絶対に選ばない服だ。

 当然初めて着たけど、黒髪ロングヘアな私が着ると割とよく似合ってはいると自分で思う。服の色も黒白だしね。コレでツインテールとかにしたらもっと似合うというか、ぽくなりそう。


「ど、どう?」

「……」


 しかしこの姿を見ると、七瀬さんは黙り込んでしまった。顎に手をあてて、主に私の下半身……スカートから覗く脚に目を向けている。

 このゴスロリファッション、スカートが少し短めで太腿が露出しているんだけど、そこはあまりジロジロと見ないで欲しい。決して。決して、太い方ではないけれど、ジロジロと見られると心配になってしまう。


「あ、あの、七瀬さん?」

「……凄く似合ってて、可愛い。普段の桜さんにはない魅力を引き出していると思う。けど、脚に飾り気がない。だからこのニーハイを履いて、ガーターベルトもつけてみたらどうかしら」

「うわぁお」


 七瀬さんが差し出してきたのは、生地が薄めで透けている黒のニーハイと、フリルのついたガーターベルトだった。

 さすがに、セクシーがすぎる。


「さ、つけて」

「無理です」


 これをつけた自分を想像しただけで、お腹いっぱいだ。私は拒否して、カーテンを閉めた。


 しかしながらその後も私のファッションショーは続いた。今の時期の春物の服から、夏を意識した薄い服や、寝間着……つまりはパジャマまで着せられた。

 多少変な服もあったけど、その全ての服を七瀬さんは似合うと褒めてくれる。なので私としては嫌な気分にはならない。

 ただし、実際購入して着るかどうかは別のお話である。


「じゃあ次は──」

「待った。もういい。十分に着替えた」


 パジャマ姿の私は、次の服を手にしている七瀬さんに対してそう言い放った。


 というかなんだその服は。超ショートのパンツに、うっすい白のタンクトップ……?こんなの、海外映画のお色気枠の女優しか着ていない。この子、こんなのを私に着させようとしてたの?恐ろしいわ。


「で、でも、まだ時間はたっぷりあるわ」

「うん、そうだね」

「じゃあ──」

「私の番はおしまい。次は、七瀬さん」

「……私?」


 首を傾げる七瀬さんをしり目に、私はカーテンを閉じて着替え始めた。

 七瀬さんが持ってきた服ではなく、自分の服にだ。


 元の服に着替え終わった私は、七瀬さんを引き連れてジャンルの違う別のお店へとやって来た。そのお店の試着室に七瀬さんを突っ込んで、私が選んだ服を着てもらう。


「着れたー?」

「着れたけど、ちょっと後ろのチャックが難しくて……。桜さん、あげてくれる?」

「う、うん。開けるよ?」

「どうぞ」


 返事を聞いてからカーテンを開くと、そこにはこちらに背を向ける七瀬さんの姿があった。

 七瀬さんは、こちらに向かって背中を大胆に露出している。チャックをあげればその背中は隠れるようになるんだけど、確かに自分であげるのは中々大変そうだ。

 それよりも七瀬さんの服装の方が大変な事になっている。

 黒色の服の生地は肌にはりついており、隠されている部分の形もくっきりはっきり分かってしまっている。目の前にあるお尻と、鏡に映って見えるおっぱいもだ。

 七瀬さんに渡した服は、大人向けのドレスだ。大人向けというのが、なんだか別の意味に聞こえて来るくらいに──


「エロい」


 私は無意識に声に出していた。


「変な事言ってないで、早く上げてくれる?」

「あ、はい」


 怒られたので、私は慌てて七瀬さんの背中に手を伸ばし、ファスナーをあげた。


 ファスナーをあげ終わった事により、完全体になった七瀬さんが鏡の前でポーズを取り出す。自然とモデルのように格好を決めているのが、なんか慣れているなと感じさせられた。


「どう?」

「エロい」


 改めて私の方を向き直って尋ねられたので、私はもう一度その言葉を繰り返した。


 いや、ホントに。虐められていた時から思っていたけど、七瀬さんは見た目だけは美少女なのだ。しかも私の好みにどストライク。

 そんな美少女が目の前でこんなエロい服を着ていたら、たまらんわ。


「そ、それは誉め言葉なのかしら。というか、目が真剣すぎてちょっと怖いわ。さっきの子供みたいな目とは別人のよう」

「いやだって、本当にエロいよ?服が張り付いて七瀬さんの身体のラインが丸見えで、特にお尻とおっぱいが凄い事になってる。こんなの反則だよ。反則どころか、もう犯罪だよ」

「分かった、少し落ち着いて桜さん。鼻息を荒げないで。あと、その手をわきわきとさせるのもやめて。なんだか変態みたいで、私の知ってる桜さんのキャラと違うわ」


 七瀬さんの知っている私のキャラ、か。


 今の素の状態の私を見せる機会なんて、今の学校ではなかったからね。七瀬さんが知る由もない。でもこれが私の素なのだ。


 いい機会だから言わせてもらおう。


 可愛い女の子なら親だろうと関係なくセクハラをするような、変態。それが私という人間だ。


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